☆謎の二人の少女達
「ということで、マーシャおばちゃん。女の子二人が突然現れました」
「何を言っているんだい」
自宅に帰り、マーシャおばちゃんの部屋に集まりました。金髪の少女はとりあえず僕の服を着せています。銀髪の幼い少女は無言ですがついては来てくれました。
マーシャおばちゃんの反応は当然ですよね。
突然帰ってきたと思ったら布団を持って外に出て行ったのです。
「まあ、魔獣が存在する世界。何が起こるか分かったもんじゃないからね。それよりも……そちらの金髪の娘さんは名前以外の『記憶が無い』のかい?」
マーシャおばちゃんが金髪の少女に目を向け話しかけました。そして少女は答えます。
「はい。私は『シャムロエ』。それ以外は……うっすらですが思い出せません」
「うっすら?」
「あの墓地の風景は……少し記憶があるような……そんな感じです」
「そうかい。それで、そちらの銀髪の幼子は……」
「……ん」
「言葉も話せないと。困ったもんだね」
マーシャおばちゃんが話しかけても、困った顔をする銀髪の幼女。せめて何者かが分かれば良いのだけれど。
「せめて名前は聞き出せれば……ねえ君」
「……っ!」
「ああ、お、驚かないで! その、僕はトスカ。トースーカー」
「……?」
人差し指を自分に向けてもう一度言いました。
「トースーカ」
「……トースーカ?」
「そう、僕。トスカ!」
「……トスカ。Name? My name mao」
「っ! ごほっごほっ!」
突然マーシャおばちゃんが咳き込みました。大丈夫でしょうか。
「これは驚いた……あんた、『あっちの世界の人間』かい!」
「あっちの世界?」
「ふむ、これは悠長な事はしていられないかも知れないねえ」
そう言って、マーシャおばちゃんはクラリネットを吹き始めました。
とても愉快な曲で、まるで歩く時の足の動きに合わせたテンポの曲。
何故それを吹いたのかは分からないけれど、それを吹いた瞬間マーシャおばちゃんは立ち上がりました。
「え! た、立てるのですか?」
「一時的さ」
一瞬話し、そして曲を吹きながら引き出しから地図を取り出しました。
地図には『ミルダ大陸』全土が大まかに描いてあり、僕の住んでいる地域は比較的暖かい南の方です。
地図と小さな袋を持ち、それをベッドまで持ってくると曲は終わりました。
「ふう、久々に動いたね」
「だ、大丈夫ですか?」
「ああ。心配は……いらないさ」
一瞬息が詰まった感じに思えましたが、本人が大丈夫というならそうなのでしょう。
「良いかい? 今住んでいる場所はここ、草の地タプル村だ。そこからガラン王国を経由して大陸最北端の『魔術研究所』に行くんだ」
「ええ! 突然どうして!」
行商人でも無ければ旅人でも無い。そんな僕が突然どうしてよりにもよって魔獣が蔓延る世界を縦断しないといけないのですか!
「これも運命さ。この銀髪の子は『別の世界の人間』さ。そしてこれは私の予想だけど、シャムロエって言ったかい? この娘はその転移の影響で現れた娘さ」
「それと僕が何の関係があるのですか!」
僕の質問にゆっくり答えるマーシャおばちゃん。
「音が見え、音を操れるトスカの能力は、きっと必要になる。それに言ってたじゃ無いか。『世界を一度でも良いから旅してみたい』って」
「そうだけど……」
「ならちょうど良いきっかけさ。『大陸を旅し、二人が何者かを一緒に探してきなさい』」
「!」
確かに世界を見たいと思った時期は何度もありました。
こんな田舎町にずっと住むと思うと、息が詰まりそうでした。
ですが急に旅に出るなんて。
「……一日。考えさせてください」
そう言って、この場での答えを一旦保留にしました。