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それぞれの役目

 僕の音は鉄の筒を抜けて女神に直撃しました。

 クラリネットから奏でた音は時に激しく、時に優しく鳴り響き、女神の腹部を貫いています。


「あああああああああ! うううううあああああああああ!」


 女神の背中から虹色の何かがあふれ出てきました。


「……あれは、魔力。可視化できるほどの……濃い魔力」


 マオが右手を前に出して、何かを唱えました。


「にんげんがああああああああああああ!」


 そして。すさまじい叫びと共に女神は


「ああああああああああ、わたしのおおおおおお、すべてをうばってええええええええええええええええええええあああああああああああああああああああああ!」



 ぱああああああああああああああん!



 大きな破裂音とともに白い霧が漂い、女神が立っていた場所には何も残っていません。


 その直後。 


 女神が消滅した後、白い部屋はすさまじい揺れが発生しました。これは……何でしょう?


「まあ、当然じゃのう」


 ヒルメが何か知っている感じで頷いています。


「これは一体!」

「む? 原初の魔力の神が一柱消えたのじゃよ。つまり、世界の崩壊……もしくは再生かのう」

「「「「えええ!」」」」


 いやいや、そんなの聞いていませんよ!


「む? それを覚悟でやったのかと思ったぞ? 人間が女神もろとも崩壊の道を選んだと思い、我も手伝ったのじゃが」

「そんなこと一回も思ったこともないですし、そもそも女神を倒すと崩壊するなんて聞いていません!」


 そもそも僕は二人の記憶を取り戻せれば旅は終わりで、女神を倒すのは完全にゴルドの用事です!


「あーそのー、人間の皆様、すみません。ボクの手違いで滅んでしまいます」


「てえええええええええええいい!」

「ぬあああああ!」


 シャルドネの強い蹴りが入りました。


「……ゴルド、クリティカルヒット。ついでにマオも攻撃手伝う」

「待ってください! 本当にこうなるとは思わなかったのです! こうなると知っていたら別な方法を考えていました!」

「ふーん、どうやら本心よ。精霊が動揺するなんて珍しいわね」


 マリーが微笑んでいます。どうやら本当に知らなかったみたいですね。


「安心してください。そのための僕がいます」


 そう言いだしたのはカンパネでした。


「ここまで力をできる限り温存して、何とかギリギリ間に合うくらいの魔力は残っています」

「一体何を?」


「『神の魔力を持つ神』が消えた今、世界のバランスが崩れてしまいました。女神様が消えるとこうなるのは知っていました」

「じゃあ方法があるのかしら?」

「はい。僕が女神様の代わりになれば良いのです。僕の魔力『神』は『無を有にする』もの。つまり、『消えた神を作ればよいのです』」


 神……を、作る?


「ほう、若き神……いや、精霊に近いお前はその行動でどうなるか知ってて行っておるのかのう?」

「はい。鉱石の神。僕が神を作ることで僕は消えます。正確には神の概念として残るのですが、カンパネとしての僕はいなくなります」


 話が大きすぎてわからないのですが、ざっくり聞く限りカンパネは自身を犠牲にするということですよね!


「カンパネ、それは!」

「トスカ。これは僕に与えられた運命です。本来原初の魔力は一つでも消えてしまったら一瞬で崩壊する世界が、今ではギリギリを保っています。世界を救うにはそうするしかないのです」

「ですが!」


 そう言って一歩前に踏み出そうとした瞬間、ヒルメが光る棒を僕に向けてきました。


「人間には人間の事情があると同様に神には神の事情があるのじゃ。世界が崩壊すれば我も困る。例えカンパネが何もしないと言い出したところで、『我々』は無理をしてでもカンパネにその宿命を背負わせるぞ」

「そんな」


 その目は本気でした。本来出会うはずもない神という存在の言葉がとても重くのしかかってきます。


「トスカ、心配してくれるのですね」

「そりゃあ」

「ありがとうございます。本来音の魔力を持っている『だけ』で、過酷な運命を歩むことにしてしまったのは僕の責任です。消えると言ってもそこの鉱石の精霊のように見えなくなるようなものです」

「……」


 おそらく冗談でしょう。『認識阻害』とは全く異なることくらい僕だってわかります。


「わかりました。姿は消えるけど概念は残るなら僕から一つお願いをします」

「ん?」

「マーシャおばちゃんから引き継いだこの身や運命、しっかりと……見守って……いてください」


 最後は涙が出てきて言葉が途切れ途切れになってしまいました。ですが言いたいことは言ったはずです。


「ふふ、わかりました。僕の残り僅かな神の魔力で君の運命に祝福を与えます」


 そう言って僕に向けて何か光る球を発射しました。


「む? ほれ、早くせぬとお主らも消えてしまう。ここは我らに任せて帰るのじゃよ」

「……帰り方がわからない」

「それなら大丈夫です。ボクの息子……ガナリが道を作ってくれました」

「……さすがゴルドの子。優秀」


 水色の円が描かれており、そこへ僕とシャムロエとマオとシャルドネは立ちました。


「え、ゴルドは?」

「ボクは少しこっちを手伝ってから行きますよ」


 そうゴルドが言うと、シャルドネは真剣な表情で話し始めました。


「絶対来なさい。私はもう待ちくたびれたわ」

「はい、人間の時間感覚もしっかり覚えましたから、終わったらすぐに行きますよ」


 そしてシャルドネはシャムロエの後ろへ行きました。泣いているようにも見えますが……まあゴルドはすぐに来ると言っていますし、大丈夫ですよ。


「ワタクシは地球へ帰るわ。『天照大神様』、お願いできるかしら?」

「うむ、仕方がないのう」


 地球。そういえばマオはこっちにいますけど……。


「……マオはマオの道を行く。サイトウには言ってきた」

「まあ、フーリエ経由で会話はできるしね」


 なんだかフーリエの扱いが雑ですが、実際凄い負担がかかっていますからね!


「ではトスカ。お別れです。どうか……僕の名前を忘れないでください」

「当然です。さんざん迷惑をかけた僕の生まれた大陸の神ですからね」


 そして僕の意識は徐々に薄れていきました。


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