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音の神

 音の神エルの容姿は完全にマーシャおばちゃんでした。

 エルと名乗られたとき、一瞬信じたくないとも思いましたが、亡くなったマーシャおばちゃんが生き返るわけもなく、ここは冷静に現実を受け止めることにしました。


「あの、僕に何か御用ですか? その、エル様」

「ふふ、そうかしこまらないで……と言っても、敬語が普通でしたね」

「僕のことを知っているのですか?」

「私は音の魔力を持つ者が亡くなったとき、その記憶をすべて取り込むことができます。音は消えず、合わさっていく。音の魔力とはそんな魔力なのです」

「つまり、どういうことですか?」

「マーシャ。貴方の育ての親の記憶も私に宿っています。彼女には過酷な運命を過ごさせてしまいました。だから一番覚えています」


 マーシャおばちゃんの記憶を……。


「音とは本来形がありません。だから私の姿も本当はありません。だからこうして貴方の一番知っている姿になったのですが、気に入りませんか?」


 あ、そういうことだったのですね。なんだかそう言われると少し緊張が解けてきたような。


「それで、こんな暗い部屋に呼んで……今緊急事態だったのですが……」


 そう言うと後ろから別な声が聞こえました。今度は最近聞いたことのある声です。


「それなら心配無いわ。ここは私の世界。私が呼んだ者しか入れない世界よ」


 黒髪の少女。見覚えのある姿がそこにありました。


「えっと、時の女神クロノ?」

「地球ぶりね」


 そういえばヒルメが時の神と音の神という単語を言った気もします。もしかしてどこかで僕たちの様子を見ているのでしょうか。


「どうしてクロノの世界に僕が?」

「それは私がお願いをしたのです。トスカ」

「エル……?」

「本来原初の魔力を持つ『神』は、暗黙の決まりで争ってはいけないのです。神同士が争えば人間に影響を与える。トスカの周囲にもそんな人間がいたと思います」


 マリーとカグヤの事でしょう。


「争ってはいけないということは、同時に平和を維持するという事につながります」

「はあ」

「今回その平和が崩れようとしているのです」


 女神の暴走でしょうか。ミルダ大陸が消されかけているという情報がありましたし。


「違うわよ。音操人」

「え?」

「貴方は『レイジ』という人物を知っていますか?」


 えっと、確かシャムロエが腰痛で苦しんだ時に現れた男という印象がありますが……。


「彼がすでに『ネクロノミコン』を使って転移をして地球へ行き、着々と自身の計画を進めているのです」

「自身の計画?」

「そうよ。まあ、人間の計画なんて大したこともなさそうなんだけど、厄介なのはドッペルゲンガーで何体もいるのに、認識阻害まで使っていることね」


 フーリエは言いました。確か悪魔は認識阻害などの『神術』……でしたっけ。そういうのは使えないと。


「それを可能にするのが『ネクロノミコン』なのです。地球の人間が何者かによって作らされた悪魔の書物。これは地球や地球以外の世界だけの問題では収まらない事態なのです」


 あの書物ってそれほど危険なものだったのですね。確かに禍々しい模様でしたが。


「その異変に気が付いたのが人間から悪魔に変わったフーリエという者ですが……彼女には神である私ですら頭が上がりませんね」

「フーリエってそんなにすごいことを……」


 ただの寒がりな店主だと思っていました。まあ、魔術研究所の館長もしているので凄い人ではありますけど。


「レイジという人間……いや、悪魔やネクロノミコンの問題は神である私たちが何とかしないといけない問題です。ですが、今の女神は協力をしてくれる状態ではありません」

「じゃあどうすれば」


 エルは僕のクラリネットをじっと見つめました。


「代々私へ取り込まれた人間たちが受け継いだ曲……『呼声』がきっと答えを導いてくれます」

「呼声……が?」

「『呼声』は普通の人にはただの曲。だけどトスカにならその音が『見える』わね? どんな願いや想いが込められているか、貴方にはしっかり見えているはずよ」


 まるでマーシャおばちゃんが話しているかのような感覚でした。

 確かにその音は知っています。そして覚えています。

 それが普通だと思っていました。いつからかそれは普通では無いと思っていました。

 紙や石板ではなく、音の魔力の持ち主のみできる伝え方。それが『呼声』に……。


「エル、悪いんだけどそろそろこの空間も崩れるわ。さすがに神を入れるのは私も疲れるのよ」

「ありがとうクロノ。そしてトスカ、マーシャ本人の言葉ではないけれど、マーシャの記憶から貴方に向けた言葉があるわ」

「マーシャおばちゃんが?」


 徐々にまた意識が薄れてきました。きっとまた気を失うのでしょう。

 ですが、エルの言葉はしっかりと聞こえました。




『生まれてくれて、生きてくれて、ありがとう。トスカ』



 ☆


「……スカ! トスカ! あ、良かった。また気を失ってたわ!」

「えっと、シャムロエ? 一体僕は何時間気を失っていました?」

「ほんの十秒よ。でもこんな攻撃を受けている中で十秒はとても危険よ。一体どうしたの?」


 そこでカグヤは話しました。


「ん? 僅かだが『時』の魔力を感じた。クロノがいたのか?」

「はい。あと、エルにも会いました」

「うむ、本人たちはここへ来ず、我に戦いを任せるなんぞ、奴ららしいのう。で、収穫はあったかのう?」

「はい。ゴルド、お願いがあります!」


 鉱石の盾を持ちつつ、振り返りました。


「何ですか?」



「このクラリネットの下の……ベルのような形の鉄を生成してください!」


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