孤立する神の力
「許さない……許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない!」
女神から色々な音が見えました。
憎悪、後悔、苦しみ。そんな感情が音から見えています。
「全てうまくいっていた。星を作って私は満たされていた。星を消しても満たされていた。それを邪魔するなんて、絶対に許さない!」
「……! これは……どうなっている?」
「マオ?」
マオが疑問の表情を浮かべていました。
「……一瞬、魔力……魔術の反応が見えた」
「それは、僕たちに攻撃をするからでは?」
「……女神は『神』の魔術を持つ『神』。人間の作った魔術を使うとは……思えない」
先ほどやたら人間が何かを作ったことに対して怒りを表していました。確かに魔術というくくりの何かを使おうとしているなら、おかしいのでしょうか?
「はあ、はあ」
「マリー? 大丈夫ですか?」
「ええ。もし可能だったらワタクシの頭を駆け巡る靄を消してほしいくらいね」
「靄?」
「女神に『心情偽装』を使ったわ。本来感情も心も無い存在に対しては『無意味』な技だけど、女神の性格を利用して使ってみたわ」
「女神の性格?」
それは一体……。
「ワタクシの頭に叩きこんでいた『ネクロノミコン』に書かれてある魔術を一気にあの女神に押し付けたわ」
「え、そ、それは」
逆効果では?
女神に技を教えるようなものであり、それは意味が無いと感じました。
しかし。
「あああああああああああ! 何なのこの魔術は……知らない、わからない、どうしてこんな術が……こんなのが人間がああああ!」
なるほど、人間が最初に作ったものに対してかなりの拒否反応があるので、それを利用したのですか。
「本当は『ドッペルゲンガー』を出して女神同士戦わせている間に逃げたかったのだけれど、失敗したわね」
「その戦法って流行っているのですか?」
確かキューレに対して放った気がします。
「許さない、どんな手を使ってでも……お前たちをおおおおおお!」
女神が僕たちに何かを放とうと構えました。
ゴルドとアルカンムケイルは鉱石で盾を生成しています。カンパネはその盾に術を付与しています。
カグヤはシャムロエとシャルドネを抱えて盾に隠れました。
僕は走って盾に追いつきました。マオも近くにいます。
マリーは動いていませんでした。
「ちょ、ま、マリー!」
笑顔でマリーは僕たちに向かって言いました。
「さすがに神相手に『神術』を使うと反動が大きいわね。もう動けないわ。悪いんだけど、あとは頼んだわよ」
「きええろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
音もない、ただの光線にマリーは飲まれました。きっとその光は『存在を消す』とか『認識できなくする』とかではなく、ただの光線。
当たればひとたまりもないと一目でわかりました。
その光の中にマリーは、飲まれました。
「ま、マリー!」
ゴルドが叫びました。
しかし生成した盾から手を離すことはできず、叫ぶことしかできません。
次第に光線が無くなり、マリーの立っていた場所には何も残っていませんでした。
「あ、ああ……」
「そんな」
「マリー……」
シャムロエも、その隣のシャルドネも呆然としていました。
「……ひどい、骨すら消えるという話ではない。魔力すら消えている」
マオも驚いています。魔力を見てマリーを探したのでしょう。
「えっと……そろそろ良いですか?」
「何がよ! マリーが死んだのよ!」
「私が助かったのにマリーが死ぬなんて……これじゃあ意味がない」
おお、同じ顔が二つ。さすが親子です。
「トスカ、さすがのボクも君が人間であり、『心』を持っている少年だと思っているよ。なのにどうして君は何も感じていないんだ?」
「いや……えっと……」
ふと僕は背後を見ました。
「こういう事よ」
「「「え!」」」
そこには紫色の髪のマリーが立っていました。
いや、実はマリーの心臓の音が後ろから聞こえていたのが見えました。光線が無音だったのでさらにわかりやすかったです。
「なぜだあああああああ! なぜそこにいるううううう!」
女神が叫びました。
「ふふ、時の女神様とやらも良いものをくれたわね。『直接は関わらないけど、協力はする』。ほかの人や精霊だと『心情読破』でばれちゃうからワタクシにだけ託したこの『時間を戻す時計』を使って避けたわ」
じゃーん。と言わんばかりに見せつける時計に僕たちはぽかんとしました。
いやいや、そんな道具があるなら言ってくださいよ!
「それを言ったらばれるから言わなかったのよ。ただ、これは一度しか使えないから、もう使えないけどね」
ピシッと割れる音が聞こえました。そして時計は砕けました。
「時も……音も……鉱石も……すべてが私の敵だと言うの! 憎い、憎い憎い憎い憎い憎い!」
女神から無数の光線が放たれました。何を狙ったなどではなく、ただ暴れているように見えます。
ゴルド達の盾のおかげでなんとかしのげていますが、このまま待っていてもキリがありません。女神本体を止めなければ意味が無いと思いました。
僕は思いっきり息を吸って、音を出しました。
『女神の力を消す音』!
「ぬう!」
一瞬、女神がひるみました。しかし……。
「……トスカ、音が弱い。瞬時にあの女神は『音の魔力に反発する力』みたいな魔力を纏った」
「そんな!」
無から作り出す『神』の魔力は、音の魔力に対抗する魔力までも作れるのですね。
「ふふ、音だけは目に見えないから正直苦手なのよ。さあ、そのまま私の術によって押しつぶされなさい!」
さらに放たれる多くの光線が襲い掛かりました。
それにしても女神は相当混乱しています。音が苦手というなら、もし逆の立場なら『=を可==できる=術』を使って『=える』ようにするのに……。
ん?
なんでしょう。なんだか今、一瞬頭の中がかき回された気がします。
「はあ、ようやく来たか……『私の神』」
ため息をついたのはカグヤでした。私の神?
「実に久しい。『カミノセカイ』に特殊な認識阻害を使われて入れなかったが、ようやく入れた。元気だったかの?」
「き、きさま……」
カグヤの後ろには白と赤の服を着こんだ女性が立っていました。少し身長は小さめですが
「誰がチビじゃ」
「え?」
少女に睨まれました。
「ふぉふぉ。久しいの。『光の』」
「うむ? 誰かと思えば鉱石か。数千年ぶりかの?」
アルカンムケイルが笑っていました。『光の』って……まさか!
「そうじゃ少年。時の女神から連絡を受け、『音の神』から助けを求められたから来てやった。我こそは『天照大神』こと『ヒルメ』じゃよ」