決意。そして……
『シャムロエの腰痛を治すために奮闘し、マオのお菓子を守るために奮闘し、今度は精霊ゴルドの長年の因縁とシャムロエの娘を救うために奮闘する。
それは偶然が重なった現実か、それとも運命がそう導いたのか』
「と、俺になりに珍しく科学的な考えを捨てた戯言を言ってみたのだが、当たっているかな?」
「まだ酔っているのですか?」
サイトウが僕たちの冒険を聞きたいと言ってきたので話したら、それを一瞬でまとめました。昨日の夜にお酒を飲んでいたので、てっきりまだお酒が残っているのかと思いましたよ。
しかししっかりとまとめられた感じがしてなんだか背中がかゆいです。
「他にもリュウグウジュウとかに行ったわね。タマテバコを壊したからここへ来ることになったけど」
「はは、昔話の浦島太郎でもあるまいし、そんな竜宮城なんて……」
サイトウはカグヤを見ました。
「つかぬことを聞くが、カグヤさんは月に行ったことは?」
「あるわよ」
「キョウカ! 今すぐ全ての日本昔話を作った作者……いや、子孫を探すのだ! こんな重要機密を子供の絵本なんぞにして……事情聴取だ!」
「特徴……が、わから……ない。さが……せない」
「はあ、マリーと出会ってからというもの、俺の知識の半分は無駄になりそうだよ」
落ち込むサイトウ。なんだか少し可哀そうにも思えたので、とりあえず口笛を吹いて気分を高めさせました。
「……トスカ、それ、逆効果」
「いや……時に音楽は心を落ち着かせる。それは精神学に基づいている。ありがとうトスカ君、はげましてーー」
「……トスカの音はセイシンガクとか関係ない。無理やりその人の心を動かして操っている。つまりサイトウの今の心の揺れは、トスカによって作られた偽物のむぐ!」
「あははー、マオ。大好きなお父さんの前に本音をぶつけたいのはわかるけど、手加減をそろそろしないと地面に埋まってしまうわよー」
シャムロエがマオの口を塞ぎ、もごもごしています。
「だ、だが、非科学的なものこそ無限の可能性を秘めているものだ。魔科学や『魔法』の類は諦めが肝心。この水は何だと問われて酸素と水素が合わさったものというのが科学であり、水は水であるというものが『魔法』というのが俺の答えだ。どうだマリー?」
突如質問を投げかけられたマリーは戸惑いました。正直僕は何を言っているのかさっぱりです。
「人間らしい答えだけど、『魔法』という単語は意図的かしら?」
「鋭いな。もちろん意図的さ」
ん?
そういえば今まで『魔術』という単語は使ってきましたが、『魔法』という単語はあまり馴染みがありませんね。サイトウは『魔術』ではなく『魔法』と先ほどから言っていました。
そんな疑問を浮かべていたらマリーが僕の心を読んだのか、少し話をし始めました。
「魔術と魔法の区別は人……いや、世界で異なるわ。この地球においては魔術は技術であり、魔法は奇跡ね」
「奇跡ですか?」
「例えばさっきサイトウ博士が言ったように、水というのはある二つの物質が合わさってできた物。これは科学ね。そして……『水球』」
マリーは手の上に水の球を作りました。
「これは魔力を使って作り出した水。これが魔術」
では魔法は?
「答えは簡単よ。『それ以外で水を作る』のよ」
「それ以外ですか? それって……『無理』では?」
「そう。無理よ。でも何の力も無い場所から急に水が出る。これが魔法よ」
「まあ俺の妄想に過ぎない。俺からすれば魔術も魔法も変わりなく、逆に言えば今までの異常現象は全部魔術で説明がつく。例えば『ネクロノミコン』の事件もね」
僕は反射的に鞄をおさえました。
「え、持っているの?」
「へ?」
「ああ、いや、カマをかけたわけではないんだ。マリーがネクロノミコンについて話してくれたんでね。まさかそこに本物があるとは思わなかった」
「……サイトウ。これは危険。触れたらマオが怒る」
「娘に怒られるのは嫌だから触れないでおくよ。さて、話は脱線してしまったが、君たちの二人の記憶を取り戻すという目的は達成されたわけだが、この後はどうするんだい?」
もともと二人の記憶を取り戻すために僕たちは旅に出ました。本当ならあとは帰るだけです。
ですが……。
「ここまで来たら、最後まで付き合いますよ。ゴルドの願いであるシャルドネを救うという目的を達成しに行きましょう」
「トスカ……」
まあ、もともとその約束で地球へ来ましたからね。
原初の魔力の持ち主である時の女神を仲間にできなかったのは残念ですが、他の光と神の魔力の持ち主と出会えたのは大きな成果です。
「あ、そうだ」
ふと思い出し、僕は鞄からネクロノミコンを取り出し、サイトウに渡しました。
「ちょ、え、どうして俺に?」
「これは異世界の書物と聞きました。つまりここの世界の書物ということでしょう。だから、この世界にお返しします」
「あはは、困ったな。娘に触るなと言われていたのに、渡されたらどうすれば」
「あ、でしたらワタチが預かります」
そういえばフーリエは残るのでしたね。ではフーリエに渡しましょう。
「じゃあ作戦としてはカグヤの術でゴルドの地元に帰って、そこで私の娘を助ける。これで良いわね?」
「神々の住む世界を『地元』という単語でくくると、少し緊張感が無くなりますね」
「……作戦というか、目的。でも間違いではない」
「連れて行くのは、トスカ、シャムロエ、マオ、マリーで良いかしら?」
全員が目を合わせてうなずく……。
その瞬間でした。
「な、なんですって!」
突然フーリエが叫びました。
「どうしました?」
「た、大変です!」
フーリエがこれまでにないほど怯えています。
「い、今、ミルダ大陸にいるシグレットがワタチのところに駆け込んできたのですが……女神という存在にミルダ大陸が見つかり、存在を消されそうとのことです!」