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記憶無き親の悩み

 娘を頼むといわれても、いつもと変わらない生活かなーくらいに考えつつ、食後の休憩を満喫していたら、シャムロエが近づいてきました。


「隣良い?」

「はい」


 隣にちょこんと座って沈黙が続きます。


 ……え、なんか緊張するのですけど。


「そ、そういえば記憶はどうでした?」

「全部思い出したわ。私が娘と遊んでいる記憶から死ぬまでの記憶を」


 そうですか。シャムロエも記憶を取り戻したのですね。よかったよかった……ん?


「今全部って言いましたよね?」

「ええ」

「でも、『娘と遊んでいる記憶から』って……」

「そう。『そこから』なのよ」

「そこから?」


 全く意味がわかりません。


「もちろん幼少期の記憶もあるにはあるけど、違うのよ」

「違う?」

「そう。私はあの自称神『カンパネ』に作られた人間で、『娘がいる』という設定で作られたのよ」


 つまり、ゴルドに言われていた娘がいるって言われていたのは……。


「だから、正直わからないのよ」


 とん、とシャムロエは僕の肩に頭をのせました。


「ガランという男との間に生まれた娘『という設定』のシャルドネ。当時は愛情もあったのだろうけど、今はよくわからないのよ。もし神様の住む世界へ行った時に娘と対面したら、どういう顔をして良いかわからないのよ」

「それは……」


 僕はなんと答えてよいかわかりませんでした。

 もし僕が親なら何か答えられたのでしょうか。それとも親だったらもっと悩んだのでしょうか。


 そこへ一人の足音が近づいてきました。


「盗み聞きするつもりは無かったのですが……」

「ゴルド……」


 すっとシャムロエの頭が僕の肩から離れていきました。


「シャムロエが人として生まれた途端、すぐに亡くなったのですね」

「そう……みたい」

「ですが、シャルドネはシャムロエの事をずっと想っていましたよ」

「娘が?」


 少し昔話をしましょう……と言って、シャムロエの隣にゴルドは座りました。


「シャムロエは娘の前で悪魔に殺されました。しかしその殺した悪魔を数年越しにシャルドネは倒し、長年の雪辱を果たしました。たとえ作られた記憶だとしても母を想って行ったことには変わりありません」

「それは……」


 ゴルドはかつてミルダ大陸でシャルドネと旅をしたと聞きました。シャルドネという人を詳しくは知りませんが、少なくとも数千年神々の住む世界とやらに捕らわれているのでしょう。


「シャムロエ。確かにシャムロエの気持ちもあるかと思いますが、シャムロエが亡くなってから転生するまでの間にシャルドネはずっとゴルドを待っています」

「それは……」

「もし、そこへゴルドだけでなく、大好きな母親も現れたら、凄く喜ぶと思いませんか?」

「私の感情が作り物だとしても?」


 記憶を取り戻したからこそ出てしまった悩み。

 僕は記憶を失ったことがありませんが、提案することはできます。


 僕はクラリネットに口をつけて、少し寂し気で切ない音を奏でました。


「今の音を聞いて、どう思いました?」

「悲し音ね。なんだかこう……切ない感じ」

「この音から出てくる感情も作り物です。そしてこのクラリネットも作り物です。僕が思うのは……作り物でも良いじゃないですか。それが現実であれば、それを受け入れるのが『僕たち人間』なんですから」


 率直な感想をシャムロエにぶつけました。

 いつもさんざん振り回され、時には牢屋に入ったり、時にはお菓子を作ったり。

 ですが、それらの思い出は何でもない僕たちが作った記憶です。


「そう。やっぱり、トスカには敵わないわね」

「素直になりましたか?」

「ええ。色々と吹っ切れたわ。だから……」


 ん? なんだかドッドッという音が見えます。なんでしょうか?


 ん? ゴルドが目を金色に輝かせて、そそくさと逃げていきました。なんでしょう?


「ま……まあ、急ぐあれでもないし、終わったら言うわ」

「なんですか急に。気になるんですが」

「さ、さあ! フーリエのお茶でも飲みに行きましょう! あ、ゴルドは後で殴るわよ」


『理不尽ですよ! ボクは人間の感情がわからないから少し覗いただけですよ!』


「うるさいわね! そもそも女子の心をそうたやすく覗かない! フーリエ、ゴルドが魔力を吸って良いって言ってるわよ!」


『本当ですか! では足りなくなった分を全力で吸わせていただきます! ええ、イタダキマス!』

『フーリエ!? ちょっと、その禍々しい霧は何ですか! と、トスカ! た、助けてください!』


 ……今日も平和でした。

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