転移幼女マオ
水の中。いや、何かの化学溶液の中とも言える。
呼吸は可能。だけど身動きが取れない。
瞼だけは動かせる。ひらくとそこには一人の男が立っていた。
ひどく酔っている。顔を真っ赤にしてお酒でも飲んだのかな。
ん、よく考えるとこの男の名前は知っている。サイトウだ。
笑っているのか、泣いているのかわからない表情でマオを見ている。一体何がしたいのだろう。
「成功……してしまったか」
してしまった。まるで何かいけないことをしたかのような言いようだ。
「まあ良い、俺はサイトウだ。サ・イ・ト・ウ」
「……」
知っている。そう言おうとしたけど、口が動かない。
『当然さ』
誰?
『アハハ、ようやくたどり着いた。二人の少女の記憶。そして僕の希望』
この声は、カンパネ?
『正解。ここは君の記憶。人間の兵器として作られた君はマオと名付けられ、十年間サイトウ博士に育てられたのさ』
言われると同時に蘇る記憶。サイトウ博士とその助手と一緒に遊んだ記憶が流れるように蘇る。
『君は人間がどのようにして人間を増やすか、知っているかい?』
ミルダ大陸でさんざん『親』と『子』の存在を見てきたから、マオでも大体予想はつく。
『じゃあ人間は神を作ることはできると思う?』
原初の魔力『神』を使えば人間を作れる。けど逆は無理だろう。それは世界の理だと思う。
『そう。神は人間を作れるけど、その逆はできない。神はしょせん神であり、人間も同じさ』
じゃあなぜそんな質問をした?
『ふふ、じゃあ神と人間が協力すれば、何か生まれると思わないかい?』
神と、人間?
『僕はこのサイトウ博士の『限界に近い頭脳』を信じて、僕の半分を渡したんだ』
カンパネの……半分?
『僕は原初の魔力『神』から生まれた神。女神様ほどじゃないけれど、何かを作ることはできる。だけど女神さまの暴走を止めるには僕の力だけだと足りないのさ』
つまり、体内の魔力が多いのはそれが理由?
『そう。僕の魔力が影響しているかな。でも僕の魔力の半分をすべて発揮することはできない。君の脳がそれを止めにかかるからね』
人間の限界。つまりそういうこと?
『そう。でも君は運が良い。サイトウ博士が酔っていたから無茶な発想も取り入れて、君の脳は二つある』
ふたつ?
『本来『神術』や『魔術』は一つずつしか使えない。けど君は『心情読破』と『言語変換』を同時に使える。これは人間の中では君しかできないんだよ』
マリーは?
『あの子は人間をやめていてね。すでに種別は神なんだよ』
マリーが、神?
『僕と一緒さ。神の子供』
そんな会話を続けていると突然爆発音が鳴り響いた。いや、爆発音が鳴り響く記憶が流れ込んできた。
「逃げろ! マオ!」
「うあああああああああああ!」
思いっきり叫ぶ自分の姿。
そしてマオ自身が突如光始めた。
『おっと、ここから先は記憶があるはずだ。シャムロエの上に立って登場。どう? 記憶を取り戻した感想は?』
正直動揺が大半。ただ一つ言えるのは。
……サイトウに、会いたい。
『その願いはすぐに叶うさ。そして僕はもうそろそろ消えて無くなる』
消える?
『そう。半分の僕は長い時間人間の世界にいた。完全体なら問題なかったんだけど、仕方がなかった。君の願いを叶えるには僕が消えるしかなかった』
記憶を戻すまで?
『そうさ。だから、今度は僕の願いを聞いてくれるかい?』