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夢に現る自称神

 マオが寝た後、僕も寝始めたのですが……。


「ここは……どこでしょうか」


 周囲は真っ白な空間でした。夢の中……と言うには不思議な空間です。


「トスカ?」

「え、シャムロエですか?」


 目の前には人の姿をした何かがありました。声の形を見る限りではシャムロエですね。


「はい。トスカです。シャムロエもここへ?」

「ええ。隣の部屋から音楽が聞こえて、気がつけばここにいたわ」

「僕の歌が影響で?」


 不思議な現象ですね。今回マオに聴かせた曲はあくまで『眠くなる曲』なので、変な細工はしていませんが。

 強いて言えば吹いている途中に落雷が鳴り始めて、それをごまかす為に少し賑やかになってしまいましたが。



「呼んだのは僕です」



 もう一つ。音が見えました。


 音の先には人の形をした何か。そして大きな黒い物がありました。


「誰ですか?」

「僕はこの大陸の神様です」

「……本当の事を言ってください」

「本当ですよ。僕はこの世界をギリギリ守っている神『カンパネ』と言います」


 ミルダ大陸には『静寂の鈴の巫女』以外にもう一つ、象徴とされている神が存在します。

 ミルダ歴が作られる遙か昔から存在する神。

 知らない人はいませんが、詳しく知る人もいません。


「どうしても二人同時に会いたくて待ってました」

「僕とシャムロエにですか?」

「待ってたって、何か条件でもあるのかしら?」


「はい。だって貴女は寝ることができないですよね?」


 寝ることができない? というと、ずっと今まで起きていたのですか?


「そうなのですか?」

「あー、うん。変に心配をかけたくなかったから言わなかったし、マオの隣で寝たふりはしていたかな」


 苦笑の音が見えました。そうだったのですね。


「貴女は精霊に似た体質で、偶然が重なって生まれた存在です。正直僕も予想していませんでした」

「偶然?」

「はい。トスカが生まれた時点で僕の目的は達成できました。しかし思わぬ幸運です。まさか『あの』精霊の魔力を持つ転生者と、異世界からの強力な転移者が同時に現れたのですもの」


 一体何を言っているのかわかりません。

 僕が生まれた時点で?

 思わぬ幸運?

 一体この自称神様は何を言っているのでしょうか。


「カンパネって言ったわね。じゃああなたは私が何者かわかるのかしら?」

「はい。ですがそれを今言うことはできません」

「何故?」

「僕の目的が達成出来なくなるからです」

「目的ね……まあいいわ。いつかは分かるってことで良いかしら?」

「はい。保証します」


 自称神様とシャムロエは勝手に納得していますが、僕はまだ納得していません。


「それで、カンパネの目的は何ですか?」

「え、言ったじゃ無いですか?」

「……言いましたっけ?」



「はい。二人に会いたかった。そう言ったはずです」



 本当にそれだけなんですか!


「はい。そうです」

「……マオと同じで心を読むのですね」

「神様ですから。と言っても何もしないのは僕も心が痛みます。二人に助言をしましょう」

「私たちに?」


 そう言ってカンパネの声はシャムロエに向けられました。


「貴女はそのまま北の『魔術研究所』へ向かってください。途中どんな困難があっても、乗り越えてください。絶対です」


 先ほどまでの口調と異なり、かなり真剣です。


「……『魔術研究所』に何かあるのね」

「行けばわかります」


 そして今度は僕に声が向けられました。


「トスカ……は、ただ教えるのもつまらないので、一つ曲を演奏しませんか?」

「曲ですか?」


 最近クラリネットを吹きすぎて、正直つかれているのですが、一体何を演奏するのでしょう。

 微かですが、自称神様は黒い大きな物に近づいて椅子のような物に座りました。


 そして、そこから不思議な音が鳴り響きます。


「……これは、弦の音?」

「そうですね。これは『ピアノ』という楽器です。凄いですよね、こうやって二つ同時に……最大十個同時に音を出せます。いえ、もしかしたらもっと出せますね」

「そんなの、音が壊れるに決まってます」


 音の中には混ぜても良い音と悪い音があります。不協和音と呼ばれる音は僕のような音が見える人では無くても心地悪いと感じるでしょう。


「それは冗談ですが、こんな曲はどうでしょう」


 たたーん。たたーん。


 その音には聴き覚えがありました。


 小さい頃から子守歌代わりに聞かされた曲。


 そしてその音は本来僕の手に持つ楽器から奏でる音楽。


「それは……『呼声』ですか?」


 マーシャおばちゃんがずっと聴かせてくれた音楽をどうしてこの自称神は知っているのですか?


「そうです。ですがこれはまだ未完成。いえ、僕が完成形を知らないのです」


 たーたたーたたー。


 流れる音楽に違和感を感じました。


 そして、怒りがこみ上げてきました。



「それは、マーシャおばちゃんの曲だ!」



 その大声は白い空間に響き渡り、僕は手に持っていたクラリネットを吹かずにはいられませんでした。

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