光の魔力
「良い試合だったわ。お嬢ちゃんの言葉にワタクシ涙が出てきそうだったわね」
「冷血なマリーが何を」
「てい」
僕とシャムロエとマオは会場を出ると、ゴルドとマリーが待っていました。
隣には先ほどマオと戦った『カグヤ』がいます。
「良い試合だったわ。マオ」
「……次は負けない」
「私もよ!」
「貴女はー、まあ、楽しみにしているわ」
苦笑するカグヤ。若干僕は空気な感じもしますが、これでも三位ですよ?
「それでマリー、私に用があったんでしょう?」
「そうよ。ちょっとお願いがあってね。例の女の所へ連れてって欲しいの」
「例の……クロノの事かしら?」
例の。その単語だけで『時の女神』の名前を言うということは、カグヤとクロノの間に何かあるのでしょうか?
「そうよ。トスカ」
「それは一体……」
僕とシャムロエとマオとゴルドは唾をのみました。因縁の相手、もしくは大切な何かを奪われたとか、とにかく色々考えました。
「二人とも、『色々』似ているのよ。負けず嫌いとか黒髪とか」
「髪だけで……」
黒髪だったら僕もですけど……。
「で、マリーがこうして来たということはクロノ関係だと思うけど違うかしら?」
「お察しの通りよ。今ワタクシの協力者が向かってるから、そこまで『移動』したいの」
移動?
「はあ、私は都合の良いタクシーではないのだけれど」
「ちなみに次の大食い大会は」
「わかったわ」
マリーの会話が終わる前にカグヤは同意をしました。え、一体何が?
「交渉成立ね。あとはサイトウ博士がクロノと接触して連絡が来るのを待つだけ。ちょっとした休憩ね。あそこのカフェに行って色々お話をしましょう」
近くに器が書かれている看板のある建物に入りました。中はとてもきれいで、何やら香ばしい香りが漂ってます。
「……苦い香り。でも中に甘みもある」
「へえ、落ち着く場所ね」
シャムロエとマオが目を輝かせて周囲を見ています。
そんな中ゴルドはじっとカグヤを見ていました。まさか気になるのでしょうか?
「カグヤ……もしかしてお兄さんがいましたか?」
「え? まあ。ずいぶん昔に死んでしまったわ」
「まさか、名前は『テツヤ』ですか?」
「!」
カグヤは驚いた表情を見せました。え、内輪の話はやめてください。僕が入りにくいじゃないですか。
「兄を……知っているの?」
「かなり低い確率。いや、低いという次元は超えていますね。同じ世界ならまだ可能性はありますが、こんな別世界間での偶然何てありえないと言いたいですね」
「兄は生きているの? 今どこに?」
「いや、ボクがここではない世界にいたときになくなりました。ずいぶん昔です。ボクもすごくお世話になりましたよ」
「そう。転生……したのね」
転生。そういえばシャムロエは転生者です。そもそも転生やら転移やらよくわからないまま二人の記憶を戻すために旅を続けていましたね。
「ここには転移や転生した人ばかりよ。トスカ」
「え?」
マリーが言いました。
「ふふ。ワタクシは転移して貴方の大陸に行きここへ帰った。ゴルドは神々の住む世界から転移した。シャムロエとマオは知っての通り。トスカは今回ここへ来て初めて転移したのよ?」
「そう思うと転移はすごく身近に感じますね。そうなるとカグヤも?」
そういうとカグヤは目をつむって首を縦に頷きました。
「ええ。ただし私は特殊よ。とある『女神』が気まぐれに作った世界で生まれ、気まぐれに運命を捻じ曲げられて『永遠の命』を手に入れてしまったの」
「永遠の?」
「そう。魔術も何もない世界。電気やガスで生活する世界に突如現れた『永遠の命』というありえない状況に違和感を感じたのよ」
僕からすればフーリエや静寂の鈴の巫女を見ているので、『すごい』くらいにしか思えませんが。
「……身近にあれば違和感は感じない。魔術がない世界に魔術が現れることから異変が始まる」
「マオ?」
「そう。そして私はこの『永遠の命』という状況を異変と思い、そして世界に対して第三者がいるのではと思い、ありとあらゆる文献や異常現象を調べて最終的にたどり着いたのが『原初の魔力』だったのよ」
永遠の命ということは相当生きていると思いました。そして最終的にたどり着いた場所が『原初の魔力』ということに一人の少女の顔が浮かびました。
「フーリエも同じように何かを見つけたと言っていました」
「きっとそうね。フーリエは人間から悪魔になり、数が増えれば増えるほど考えることができる。いつもニコニコとしているけれど、実は一番『壊れている』かもしれないわね」
マリーの言葉はとても冷たいものでした。同時に悲しい響きが声から見えます。
「話が脱線したわね。ワタクシの協力者のサイトウ博士が連絡が来たら三十秒以内にそこへ行きたいのよ」
「先ほど移動って行ってましたが、カグヤは何か瞬間的に移動する術をもっているのですか?」
そこでゴルドがぼそりとつぶやきました。
「『光』だけが持つ能力。転移とは異なりますが、簡単な言葉を使うと『瞬間移動』ですね」
「瞬間移動?」
そこからはカグヤが説明を始めました。
「そう。私は永遠の命を授かり、この世界の仕組みを調べてたどり着いた先に出会った神『レム』と契約を交わし、体内に『光』の魔力を宿したのよ」
「光の魔力」
「さっきマリーから少し聞いたけど、トスカは音に触れることができるのよね?」
「はい」
そういうとカグヤは目の前で何かをつかみました。
「私はこのように『光』をつかむことができるのよ。これは貴方だけが見える音をつかむ感じと同じね」
「ひ、光が……」
カグヤの手には細長い光の棒がありました。触れると透き通り、感触はないものの崩れ落ちるようにそこから消え始めました。
「光を操り、同時に光になれる。光の速さで移動もでき、光を物質として変化させて攻撃もできるわ」
「つ、強いですね」
ここまで原初の魔力についてしっかりと話した人は初めてでした。
「と、トスカ? 一応ボクは鉱石精霊として話せるところは話したつもりですよ?」
「ゴルドの場合悪魔からいたずらを受ける。悪魔から腰痛をもらうなど、あまり良い印象がないので覚えていませんね」
「今度精霊についてみっちりとお話しましょう。ついでにフーリエも同席させて悪魔の授業もみっちりさせましょう」
なにやらゴルドに火をつけてしまいました。悪魔的お誘いを流しながらカグヤに目を向けます。
「ところで、どうして連絡が来たらすぐに移動なんですか? クロノはそそっかしい女神なのですか?」
「クロノは会おうと思って会えるモノじゃないのよ。時間を操るっていうのは過去にも未来にも行ける。そして会ったと思ったら過去へ飛び去り逃げる。そういうこともできるのよ」
「でも、さすがに出会った瞬間いなくなるなんて」
「それがクロノという神様なのよ」
マリーは一歩も引きませんでした。まるで一度出会い、知っているような感じでした。
「では逃げられないようにするにはどうすれば?」
「そこで貴方よ。トスカ」
「僕?」
「ええ。原初の魔力には原初の魔力にしか対抗できないけれど、その中でも相性があるの。時間というのは目に見えず概念的なものだけど、それに対して唯一有効なのが音。さて、トスカは何をすればよいと思う?」
え、急にそういわれても……。
相手は『時の女神』と呼ばれる存在ですし、一体どうすれば?
そんな時、マオが僕の服をひっぱりました。
そういえば僕の音は腰痛を治せることができることに対して褒めていましたね。
鉱石の魔力は石の生成。
光は光の生成および操り。
音は……。
リーン、リーン。
そんな音が記憶の底から出てきました。これは『静寂の鈴の巫女』の鈴の音。確か周囲の魔力を消す効果を持っています。
そしてマーシャおばちゃんは自身でその音を出して自身が聴くことで長生きしていました。
「なるほど、僕は音を使って『時の女神』の足止めをすれば良いのですね!」
「正解よ」
おおー、とシャムロエが軽く拍手をしてくれました。同時にマオも拍手。
「……まあ、皆『心情読破』で知っていむぐ!」
シャムロエがマオの口をふさぎました。
あはは、そうですか。実は皆さん心の中で会話をしていて僕だけのけものに……て。
「え? シャムロエは『心情読破』を使えませんよね?」
そう聞くと、あっさりとこう答えて話は終わりました。
「なんとなくそうかなって、答えは出たわよ」