生きている町
「あー、なんか軽くなったわ。ありがとうトスカ」
「いえ、それよりも『体内の錆が無くなる音』という今まで吹いたことの無い音色が出せたことに驚きですよ」
苦笑しながらシャムロエと話すと、マリーは言いました。
「それが原初の魔力の持ち主の特権よ。無から何かを生み出すことができるのは原初の魔力じゃないとできないのよ」
「無から?」
自分の力がだんだん凄いものなのかと思い始めました。
「……無から何かを生み出す。つまり『体内の錆を取り除く音』という今までにない音色をトスカはここで生み出した」
「なんだか歴史的瞬間のように言ってますが、やったことは『体の不調を治した』だけですからね!」
「……ちなみに『腰痛になる魔術』は存在しないから、トスカはこの世に存在しない術……『腰痛発生の音』を生み出した」
「恰好悪いですよ! 後世に残さないでくださいね!」
静寂の鈴の巫女が偉業をなして大陸に名前が付いたのなら納得できますが、『腰痛の音(音名:トスカ)』とか不名誉にもほどがあります!
「ふふ、ずいぶん愉快な団体ね。ゴルド」
「ええ。ボクたちが旅をしていた時もそれなりに愉快でしたけどね」
そんな会話をしていると車は止まりました。
いつの間にかまた鉄の建物が立ち並ぶ場所へ到着していました。
「ここは、ずいぶんと人が多いですね」
先ほどの廃墟が並ぶ場所とは異なり、鉄の建物はとてもきれいに並んでおり、そして数えきれない人が目の前にいました。
「ここはこの大陸の都心部。そっちの世界で例えると魔術研究所付近の町という感じかしら」
「それにしてはずいぶんと違いすぎませんか? さっきの場所とここでは生活の差が開きすぎているような」
見たことはありませんが、男性はきれいな黒い服を着て、革の鞄を持っています。
女性はきれいな服を着て街を歩いています。中には男性と同様黒い服を着て働いているようにも見えます。
「ここは唯一国として保っている場所よ。『認識阻害』を使ってこっそり入ったけど、普通の人……いや、重要な人物以外は入ってこれないわ」
「重要な人物ですか?」
「ええ。ここに住む人は権力や金を持つ人たち。それ以外は戦争の駒になり、そしてさっきの町のように消えてったわ」
活気があふれているこの町と、さっきまでいた場所とは正反対の状況を見て、少し気分が悪くなりました。
「トスカ、この町の人たちは笑顔だけど、なんだか気味が悪いわね」
「そう……ですね」
笑っている。確かに笑っています。ですが、作っているような笑い方をしている人たちがほとんどです。音を見なくてもわかります。
「もしかしてその『光』の魔力の持ち主はこの気味が悪い町のえらい人なのかしら?」
「ああ、それは安心して。この町とは全く無関係だから」
偉い人だったら少し大変そうだなと思いましたが、まずは安心です。
「トスカ。残念だけど安心はできないわよ?」
マリーが僕の心を読んだのか、続けて話しました。
「相手はこと勝負に関しては最強と言われた人物だからね」
勝負……それはもしや、武器を使って相手を倒すものでしょうか……。