気楽な移動時間
ゴルドの楽しい楽しい昔話。
ある日、ゴルドは紫色の髪の少女と出会いました。
ゴルドはその紫髪の少女と魔術で勝負し、勝利しました。
にも関わらず、ゴルドは少女の強引なお願いにより鉱石を生成したそうです。
つまり、かなり自由な人間。それがマリーなのです。
「自由とは失礼ね。鉱石精霊さん」
「あの時ボクは精霊なのに鍛冶屋になった気分でしたね。ひたすら身を削り、硝子を生成をして……」
「悪かったわよ! もう昔の話だし、許してちょうだい!」
そんなやり取りをしながら、僕たちは『車』という乗り物に乗っていました。
鉄の馬車というべきでしょうか。馬車よりも乗り心地は良く、馬車よりも早く移動できています。
「車酔いは無いかしら? 馬車とは乗り心地が違うから、気分が悪くなったら言ってちょうだい」
「私は大丈夫よ」
シャムロエは早く流れる風景を見ながら元気に返事をしました。
「……マオ、限界」
「マリー! 一名脱落しそうです!」
「なんですって! ちょっと待ちなさい! そこの公園で止まるから!」
☆
「ほら、マオ。水よ」
「……ん、ありがと」
公園に到着。周囲は何も無く、遠くには先ほどまで僕たちがいた鉄の町が広がっていました。
「もうここまで来たのですか?」
「そうよ。魔術が無い世界はこういう道具だけで移動や情報交換をしているのよ」
「そういえばマリーは僕たちの世界の事情も少しは知っているのですよね」
「全部では無いわ。ゴルドから少し話を聞いたけど、『ミルダ歴』という物が存在するらしいから、きっとワタクシはその『ミルダ歴』が創設される前にいたことになるわね」
「そんな前から……」
ガラン王国の歴史や他の国の歴史について、それほど興味はなかったのですが、さすがに『ミルダ歴』が無い時代というのは興味がありますね。
そもそも『ミルダ歴』が作られる前は何もない世界なんて思ったことすらありますし。
「うーん、フーリエがその辺り一番詳しいと思うのだけれど、キョウカと一緒に留守番をお願いしちゃったし、ワタクシから話すことは少ないわよ」
「フーリエはミルダ大陸で生活して、マリーはこの世界に帰ったということですよね」
「というより、ワタクシも驚いているのよ。ゴルドは精霊だから生きていればそのうち会えると思っていたけれど、フーリエが生きているなんて思っていなかったわ。どうして生きているのかしら?」
確か『どっぺるげんがー』と言いましたっけ。悪魔だから生きていけるとか言っていたような。
「え! もしかして『ネクロノミコン』を使ったのかしら!」
「そう、言ってましたね。ここへ来る前にもう一度『どっぺるげんがー』で増やしていたそうですが」
「はあ、無茶というか、人間を捨てたというか」
マリーが苦笑しました。
「まあ、フーリエについてはワタクシから言っておくわ。こってり説教になるけど……それよりもあっちのお嬢さんの調子は大丈夫かしら?」
そう言ってマオを見ました。
「……質問」
「何かしら?」
「……揺れに耐えられない。だからマオだけ少し浮くことを許可してほしい」
「浮く? 風魔術でも使うのかしら?」
「……『物質浮遊』」
そういえばマオって長時間歩いても疲れたそぶりは見せたことがありませんでした。歩いているように見せかけて浮いているって言ってましたっけ。
「す、凄いわね。いや、サイトウ博士の子なら……」
「どうしました?」
「いえ、それよりもその術を使えば大丈夫かしら?」
「……メイビー(多分)」
「そ。じゃあ行くわよ」
そして車に乗り始めました。
最初はマリー。次に僕。次にゴルド。次にマオ。最後にシャムロエ。
ぐらっ。
「……シャム―――」
「ち、違うわ! 決して重くないわよ!」
「……でも傾いた。しかもシャムロエが乗った途端」
子供って怖いですね。本音をズバズバと言ってます。
そんなことを思っていたら、マリーが「そういえば」と言いました。
「ミズハのところに行ったのよね? それにゴルドの魔力を持っているということは、『錆びている』んじゃなくて?」
「錆び?」
「って、ゴルド。教えてあげなかったの?」
そう言ってゴルドを見ました。
「あー、その。いつ言おうかなーとは思っていたのですよ? ただ、シャムロエも平気そうだし、少し体が重くなるなら鍛錬にもなるかなと思いまして」
「トスカ」
「はい」
「『腰痛を引き起こす音楽』をお願いできる?」
「はい」
「と、トスカ! や、やめてください! シャムロエ、ごめんなさい! あ、あああああ! こしがあああ!」
精霊は思った以上に鈍感なのか、それとも繊細なのか。よくわからなくなりました。