♪嵐の中の子守歌
今回もトスカがクラリネットを吹きます。あくまで本編に少し調味料を加えた感覚のおまけなのですが、よろしければurl(Twitter)にて公開しておりますので、よろしければどうぞ!
……まさか本当に大雨が降るとは思いませんでした。
嫌な予感がすると、天気が悪くなる。それはあくまで気持ち的な問題で、こう現実で大雨が降ると驚きますね。
不幸中の幸いと言うべきでしょうか、宿に到着した瞬間雨が降ってきました。
「危なかったわね。濡れずに済んで良かったわ」
『それは良かったですね……』
「!」
僕達の後ろに何か負の感情を抱いた何かが立っていました。目は赤く前進が布でくるまれているかのような……って、フーリエでした。
「全身布で包まれていればそうなるわよね。全部吸い取ってるわ」
「おかげでとても寒いのととても重いです……」
「……魔術を使って乾かすの手伝う?」
「マオ様、ありがとうございます。ですがワタチも魔術は心得ていますので、ご心配無く」
一歩一歩が重そうなフーリエが宿の中にある自室へと歩いて行きました。
『あ、夕ご飯は少し遅れますが、大丈夫ですか?』
「大丈夫です。それよりも体調を崩さないようにしてくださいね」
『ありがとうございますー」
それにしても、どうしてこんな雨の日もあんなにグルグルの布で覆っているのか、不思議でしかありませんね。
☆
夕飯は海の幸をたくさん使った海鮮料理で、生の料理から煮込み料理まで色々とありました。
「まさか雨が……しかもこんなに強く降るとは思わなかったのです」
「でもそのおかげで私たちは美味しい料理にたどり着けたわ! ありがとうフーリエ!」
「いえ、そのお言葉だけでうれしいです」
服は取り換えたのでしょうが、相変わらず布で巻かれて目しか見えないフーリエですが、最近少しだけ表情がわかった気がします。声の音から表情が何となく伝わるのです。
「ほら、マオも魚料理を食べないと大きくなれないわよ」
「……美味しいから残しはしない。少し時間がかかるだけ」
焼き魚の骨に悪戦苦闘しているマオとシャムロエの姿は本当に姉妹のようで微笑ましいですね。
「本当にそっくりです」
不意にフーリエがシャムロエを見てつぶやきました。
「誰かに似ているのですか?」
「あ、は、はい。昔ワタチがお世話になった人にそっくりなのですよ。その金髪や釣り目が特に……まあ、似ているだけなのですけどね」
少し寂しい声を出しつつ、再度シャムロエを見てため息をついていました。
「昔って……フーリエって何歳なんですか? 僕が見たところ声だけは若く聞こえますが」
「ではその声で判断してください。きっとその年齢ですよ」
「……では十歳くらいですか?」
声の音の形は十歳くらい……と、何となくしか思えなかった。実際の年齢なんて答えられませんが、人間は成長とともに声が低くなります。
その形を考えるとやはり十歳くらいが妥当でしょうか。
「そうですね、少し若い……いえ、それくらいとしておきましょう」
「曖昧ですね」
「はい。ワタチくらいの女の子は秘密が多いのです。そちらのシャムロエ様やマオ様も一つや二つ、秘密を持っていると思いますよ?」
秘密を持っているというか、その秘密を探しているのですけどね。
☆
夕食も食べ終わり、部屋で明日の準備……という準備は無いのですが、とりあえず明日やる事を考えていました。
と、そんな時、僕の部屋のドアがコンコンと鳴りました。
「どうぞ」
「……トスカ」
入ってきたのはマオでした。枕を持ってどうしたのでしょうか。
「……雨の音がうるさくて寝れない。眠れる音楽を所望」
「僕の能力を必要としてくれるのはうれしいですが、用途がパッとしないですね」
「……マオの睡眠で世界が救えるならそれに越したことはない」
「また壮大に出てきましたね。まあ良いですよ。気分転換もしたかったので」
さて、どんな曲が良いでしょうか。
そう思いふと耳を澄ませて周囲の音を見てみました。
雨の音が殆どですが、雨漏りを拾う鍋の音も聞こえます。この音を使いましょう。
そう言って鍋から発せられた音を掴み、それをマオの方へ投げてクラリネットを吹きました。
「……悪くない」
そして奏でた音楽によってマオはゆっくりと眠りにつきました。
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今回のお話の劇中曲はこのurl(Twitter)となります!
https://twitter.com/kanpaneito/status/1109911342322900992