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初めての喧嘩

「魔力を感じていたので向かったら、まさかここで野宿をしていたとは思いませんでした」

「フーリエ! どうしてここに!」


 焚き火に手をかざして暖を取っていたら、布でグルグル巻きの赤い目を輝かせているフーリエが森の中から現れました。


「孤島は小さいので、数時間もあれば一周できるのですよ。魔力を感じてからすぐに来るかと思ったのですが、何故かとどまっていたので迎えに来ました」

「そんなに小さいとは思いませんでした。できれば明るくなってからの方が良いかと思ったので」

「それでしたらワタチが察知してからすぐに来ればよかったですね。すみません、気が回らなくて」


 ペコリと頭を下げるフーリエ。それにしてもいつもより元気な無いような気がしますね。


「何かありましたか?」

「そう……ですね。トスカ様が浮上してからゴルド様にトスカ様の行動を伝えたところ、少し衝撃を受けた様子で……」

「衝撃?」

「はい。ゴルド様の中ではもう『神々の住む世界』へ行き、シャルドネ様を助けるつもりだったのが、そうでは無くなったみたいなので」

「そうですか……」


 当初の予定と異なって焦っているのでしょう。一分一秒でも早く助けるためにゴルドは急いでいた。ゴルドが別行動で最初にここへ来たのも理由があるのでしょう。


「孤島が小さいということは、ゴルド達はすぐ近くなのかしら?」

「はい。この森を歩いたところにあります」

「じゃあ案内してもらえる? 周囲にさっきの盗賊がまた現れたのよ」


 それは僕も気がついていました。


「分かりました。こちらです」


 そう言って森の中を進み、その先には何も見えない……いや、『音だけが』見える場所に到着しました。


「にんしき……そがいですか?」

「……マオはお手上げ。全然見えない」

「右に同じね」

「ワタチも見えません。一度『ガナリ様』に解いてもらう必要があります。ガナリ様ー、フーリエです!」

『今行くよ』


 何も見えない場所から声が『見えました』。

 きっとこの声もマオたちには聞こえないのでしょうか。


「いらっしゃい。君達が『父様』の友人の人間だね」


 青い髪に青い目。見た目は少女なのですが……ん? 青い髪?


「貴女は……フーリエのお姉さんですか?」


 確かフーリエには姉が居たと言う話を聞いたことがあるのですが。


「第一声がその質問とは人間はよくわからないな。ガナリはガナリ。そこの悪魔になった元人間の姉のことは知っているが、全くの別人だよ」

「それは失礼しました。ガナリ」

「分かればよい」


 ちょっと偉そうな……見た目が幼いのとフーリエに似ているからこそ、背伸びをしている感じが凄いですね。


「それで、ガナリ様。ゴルド様の様子は?」

「正直父様があそこまで動揺するとは思わなかったよ。ガナリにとってはほぼ無関係なのだけど、あそこまで父様が動揺するとガナリまで影響するーー」


「可愛いわねこの子!」


 見えない速さでシャムロエがガナリに抱きつきました。


「おーよしよし、フーリエに髪の色はそっくりだけど、そのちょっと生意気なところがまた良いわね。ほらほら、頭をこっちに。わしゃわしゃしてあげるからー」

「ぎゃー! 何だこの娘は!」


 どうやらシャムロエが好む容姿だったみたいですね。


「あー、この腕に収まる感じがまた良いわね。マオも良いけど、これはこれで凄くしっくりくるわね」

「離すんだ人間! ガナリは鉱石精霊から生まれた純正の精霊だ!」

「あら、それを言ったら私も同じね。鉱石精霊の魔力を宿しているわよ」

「なっ!」


 シャムロエの凄い力でガナリは逃げることもできない様子。

 助けても良いのですが、どうしたものか。


「その辺にしてあげてください。シャムロエ」


 と、そこへゴルドが現れました。


「父様! 助けて!」

「はいはい。まあ、別に『姉弟』仲良くする分には口を挟みませんが」

「姉弟!? ではこの人間の言ってることは!」

「シャムロエはシャルドネの母ですし、ガナリの生まれたのはシャルドネと冒険をしているときですから、時系列的にはシャムロエが先にこの世界で生まれて、その後にガナリが生まれました。そしてシャムロエはボクの魔力を所持しているので姉弟じゃないですか?」

「冗談のつもりだったけど本当!? こんな可愛い子が弟!」

「ふざけないで! ガナリは精霊で人間を姉に」


 そこでシャムロエはガナリの顔をがっしり掴みました。


「お姉ちゃんって、呼んでみて?」



「……おねえ……ちゃん」



 僕は今、上下関係が生まれた瞬間を目の当たりにした気がしますね。

 マオも僕の後ろに隠れて様子を見ています。暴走したシャムロエは誰にも止められませんからね。


「さて、トスカ。本題に入ります。今すぐ『神々の住む世界』へ同行してください」

「どうしてですか?」

「シャルドネを助けるためです」


 その声に周囲は静まりました。


「ゴルド、僕は怒っています。今まで一緒についてきて、その時は『目的達成のため』とか言ってました。ですが、その目的は今まで言ってくれませんでした」

「目的は言ってました。シャルドネを助けるためです」

「ですが、僕がその『神々の住む世界』に行くとは一言も言っていませんでした。何故ですか?」


 ゴルドは黙りました。


「言えば、同意してくれましたか?」

「はい?」

「ボクは精霊です。人間の心は読めても、行動は読めません。上の存在に前へ進めと言われれば前に進むのが精霊です。ですが、人間は相手がいかなる存在でも、状況に応じて否定します。だからこそ、ボクは『精霊なのに考えました』」


 ゴルドは震えていました。

 今まで一緒に行動していて、仲良く会話をしていて、そして一緒にご飯も食べました。

 しかしそれはあくまで表面上。実はその内側は出していなかっただけなのでしょう。


「もう一度聞きます。トスカは前もって聞いたら、来てくれましたか?」


 そして、僕は答えました。



「わかりません」



 その時でした。

 突如目の前に鉄の刃が生成され、僕の目の前で止まりました。


「トスカ!」

「シャムロエ、動かないでください。大丈夫です」


 正直、立っているだけでもつらいです。心が折れそうです。ですが、ゴルドは今までずっと悩んでいました。その辛さと言うのはきっと『人間』には分からないでしょう。


「ふざけないでください」

「ふざけてはいません。もし聞く時間や場所次第ではどちらかを選んでいたでしょう。過去に質問をしていたらーという質問に対して正解の無い質問は『わからない』です」

「だったら、今はどうですか! こうして刃を向けた状態で、ボクはいつでもトスカを殺すことができる。この状態でついてきてくれますか?」

「……ゴルド、それは脅迫。何かしたらマオが許さない」

「ええ、私もこらえるので精一杯よ。ゴルド、早くその鉄をしまいなさい」


 シャムロエとマオが今にも動き出しそうです。


「ゴルドは精霊と言っていましたね。直感で動く、めったに考えない。であれば、人間として質問させてください」

「質問ですか?」


「僕がその世界に行って、助かる保障はありますか?」


 ゴルドは固まりました。


「何を?」

「シャムロエの娘というシャルドネを助けるという言葉だけしかない状況で、相手の力量が分からないまま戦場に向かわせようとしているのです。もちろん勝算はあるのですよね?」

「それは、原初の魔力をもっているので」

「僕は音を操ることしかできません。何を何して何をすれば勝ちなのかも分からない場所へゴルドは連れて行こうとしています。もう一度聞きます。勝算はあるのですか?」


 その言葉にゴルドは膝をつきました。


「……トスカ、その辺。ゴルドの頭がごちゃごちゃ」

「わかりました」


 そう言って僕は口笛を鳴らしました。


「はっ!」


 頭の考えを飛ばす音。これは精霊にも有効みたいですね。


「一分一秒でも行きたいのは分かりますが、もう少しだけ時間をくれませんか?」

「ですが、『チキュウ』に行く余裕なんて!」


「『チキュウ』に原初の魔力が存在していて、それも仲間に引き入れられたら、もっと勝てる確立があがると思いませんか?」


 これは賭けです。

 すでにこの時点で『心情読破』を使われていたら駄目ですが、幸いゴルドの目は金色に光っていません。


「原初の……魔力?」

「はい。ミズハ……海の地で教えてもらいました。チキュウには『時間』の女神が存在するそうですよ」

「そんな! 『クロノ』がチキュウに居るはずが!」


 どうやらゴルドも『時の女神』の存在を知っているそうですね。


「僕は記憶を取り戻す『タマテバコ』を壊してしまいました。それは時の魔力によって作られた物です。でしたら、その魔力を扱える人に会って記憶を取り戻してもらおうと考えています」

「クロノから……」

「そして、ゴルドは僕に話してくれませんが、必要であればその『神々の住む世界』へ同行するのをお願いしてみようかと」


 クトノという存在がどういうものかはわかりませんが、今はゴルドを説得する以外方法はありません。


「……わかりました。クロノが言うことを聞いてくれるとは思いませんが、トスカの考えに賛同します」


 そういうと鉄の刃は砂に変わり崩れていきました。


「すみません、トスカ。もうすぐシャルドネを助けることができると思い、少し焦っていました」

「本当に反省してください。僕に刃を向けたことは重罪ですよ」

「……あと少しでマオの我慢が破裂しそうだった」

「私もあと少しで我慢の……あれ?」


 シャムロエはさっきからずっとガナリを抱きしめていました。そのガナリは……。


「……………………ガク」


「がなりいいいいい!」


 強く締め付けられ、気を失っていました。


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