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オトヒメの見送り

「んじぇー、インプに力を借りて船を作ったんじぇー」

「重労働だったんぼー」

「腰が……腰が痛むんじぇ」


 フーリエにお願いをして、ノームたちをリュウグウジョウへ呼び、立派な船を作ってもらいました。三人が乗るにはちょうど良い大きさですね。

 ですが……。


「え、どうやって海に運ぶんですか?」


 ……。


 ノーム達をじっと見つめました。『心情読破』が使えなくても分かりましたよ。今絶対『あ……』って思いましたよね!


「ま、マオ殿が空気の膜を作って、それに入れば問題無いんじぇ!」

「……ちょっと疲れる。パムレット三個を所望」

「パムレットの形の土なら用意できるんじぇ。人間の食べ物はおいら達には理解できないんじぇ」

「……論外。他の方法を模索することをお勧め」

「んじぇー!」


 絶望に満ちた目をするノーム。その視線はシャムロエへ向きました。


「私は無理よ!」

「頼むんじぇ! 原初の魔力を所持した少女シャムロエ殿! これじゃあインプが報われないんじぇ!」


 え、もしかしてこれを作るのにインプは……。



「そうじぇ……インプは……現在『全身筋肉痛』で倒れているんじぇ」



 妖精って筋肉痛になるのですか!

「妖精って筋肉痛になるのですか!」


 僕の心と同時にフーリエが同じ事を発言しました。


「トスカ様! これは大発見です! 精霊が悪魔によって腰痛になることはあっても、魔力を使いすぎて筋肉痛になるなんて初耳です!」

「んじぇー。インプは全身が木に近いから無理に動かすとセンイが傷ついて痛むって言ってたんぼ。人間は体を動かすと翌日痛むことを筋肉痛って言ってたからインプも似た感覚から勝手にそう言っているんぼ」

「妖精が人間の言葉を借りている事実になんだか衝撃を受けました……。そういえばインプって本来人間と仲が良いのでしたっけ」


 コロコロ変わる表情に少し笑いつつ、事態は変わりません。

 せっかくインプが作ってくれた船ですから、無駄にはしたくないですね。


「はあ、仕方が無いわね」


 そういってミズハが近くに来ました。


「木。つまり水より軽いから、このまま外に出せば上に浮くわね。それにインプの作った木となれば水圧に耐えられるわね」

「ミズハ? 一体何をブツブツと言っているのですか?」

「送迎くらいするわよ。三人を水上まで連れて行けば良いわね?」

「み、ミズハ様!?」

「いいのよ。そこの小さい女の子とは同郷だし、これも何かの縁よ。それに……」


 ミズハは僕をじっと見ました。


「きっと、何か大変な事態が見えないところで起こっている気がするからね」


 ミズハは『元』神的存在で、『神術』を使えば何かを見ることができます。それは未来なのか、それとも……。


「さすがに私でも『遠い』未来を見ることはできないわね。ただの女の勘よ」


 そう言って木の船に何か術を放ちました。小さく輝いている気がします。


「地上に出るまでこの船の倉庫に居なさい。外に出たらふわっと浮くから気がつくと思うけど、それまでは絶対に外へ出ないことね」


 そしてミズハはリュウグウジョウへ向かって歩いていきました。


「ミズハ、ありがとうございます!」

「いいのよ。また帰ってきたらここへ来なさい。フーリエの友人なら大歓迎よ」

「何を言っているのかしら」


 シャムロエがミズハの言葉を遮りました。


「私と貴女は友達じゃないの?」

「ふふ、人間が面白いことを言うわね。まあ、それも悪くは無いわね」


 そしてミズハは建物の中に帰りました。

 見送りが無いのは少し寂しいですが、ここまでしてくれたのには感謝ですね。


「ではトスカ様、お気をつけて。ここから浮上して北に進めばゴルド様の居る孤島へ到着します!」

「わかりました。では、行きましょう!」


 そして船の中へ入りました。


 ★


 部屋に戻ったミズハは布団に横たわっていた。

 来る客の殆どは人間で、十年に一度会えれば常連。一度だけであればもう覚えていない。

 しかし、今回の客は今までと違っていた。


 一人は鉱石の魔力を持つ少女。性格は少し似ているから何故か気に入らない。でも仕事はしっかりと行ってくれて助かった。

 ありがとうの一言も言えなかった自分が少し許せない様子だった。


 一人は人間……いや、人間という括りから外れた存在の少女。

 何故魔術を放てるのか、何故神術を『二つ同時に』使えるのか、ミズハには理解できなかった。

 人間によって●●され、●●として生まれた人間。それが何を意味するのか、そして地球が今現在どうなっているのか容易に想像できた。

 だからこそ、今回送り届けるか『迷った』。


 精霊には基本的に心が無い。直感的に行動したり何かをする時に知識を出すことはあっても、基本的に人間に感情移入などしない。

 いや、ミズハには『ありえない』ものだった。


「あの日から、人間に思い入れはしないと誓ったのに」


 タマテバコは一度だけある男性に授けたことがあった。

 その男性はとても愉快で、一緒にいるだけで楽しかった。それはミズハにとってありえない状況だった。

 楽しいという感情こそ、人間にだけ与えられたものであり、神や精霊にとっては無縁のものだった。

 しかし、その男性はミズハに教えてくれた。


 だからこそ、その男に『タマテバコ』を使い続けて時間を吸い取った。

 人間の寿命は短い。永遠の命を与えられたミズハにとっては瞬き同然のものだった。だからこそ、ずっと一緒にいたいと思った。


 しかし、彼は拒んだ。


 大事な用事があると言い、ミズハ元から去ると言った。

 ミズハは迷った。『タマテバコ』の中には彼の時間が入っている。つまり彼の『モノ』である。

 迷った挙句、彼に時間を返した。説明のしようが無く、ただ『開けないでください』と言って渡した。今思えば説明すれば良かったと後悔している。


 そして彼はこの世から消えた。吸い取った時間が急激に入り込み、彼は一気に寿命を迎えた。


 コンコンとドアの音が鳴り響いた。


「どうぞ?」

「ミズハ様。大丈夫ですか?」

「何が?」

「いえ、あんな大量の魔力を使って、疲れていないかと思いまして」

「ああ、あれくらい……まあ、少し疲れたわね」


 船一個分に魔術壁を使うのは相当な力が必要となる。魔力の底が知れないミズハでも少し疲れるほどだった。


「でも、あの少女なら簡単だったでしょうね」

「あの少女?」


 人間によって●●された少女。あの子は『ちょっと疲れる』と言っていたが、それこそありえない。

 普通の人間なら魔力を全て注いだところでインプの作った妖精の木に魔術を付与となれば扉一つくらいだろう。それが『少し疲れる』だけで船全体だ。


「フーリエもこれから大変なことに巻き込まれそうだけど、こっちもこれから大改造を行うわよ」

「大改造ですか?」

「ええ。この先何が起こるかわからないからね。リュウグウジョウをさらに大きくして、最終的には海の上に浮上するわよ」

「ええ!?」


 ★


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