会いたくない神様再度登場
激務も終わり、最終日と告知された夜はお客さんが来ないということで、大浴場が貸しきり状態となりました。
「男湯僕一人と言うのも寂しいですが、足を伸ばしてゆっくり入りますか」
『……マオは子供。そっちに行ってもマオは別にかまわない』
女子風呂から声が聞こえました。
「気を使わなくて良いです。それに十歳は子供でも大きいほうです。しっかり女子風呂で体を洗ってください」
『なら、私はゼロ歳だからそっちにいけるけど、背中でも流す?』
「見た目が僕と対して変わらないので、駄目です。というか記憶が無いだけでシャムロエは大人ですよね」
『ワタチは』
「フーリエはもう年齢という概念を捨てているので女子風呂で二人を監視してください。大人の女性として!」
『ま、まだワタチは何も言っていませんが! 入るなんて言ってませんよ!』
……自意識過剰でしたね。すみません。
それにしてもここまで広いお風呂となると本当に寂しいですね。性別の概念は無いものの、見た目男性のゴルドが一緒だったら話し相手がいたのですが。
「それなら僕が話し相手になるよ」
「えーっと、どうしているんですか? 『カンパネ』」
お風呂の水が突然盛り上がり、人型に変形しました。
ギリギリ人の形ってだけで、細かい部分は再現されていません。
「ここは僕がお願いをして作ってもらった場所だからね。普通の場所よりも来やすいのさ」
「そうですか。ちょうど良いです。話し相手が欲しかったところでしたから」
「話し相手というよりも、相談相手だろう? 『この世界』の神の僕が聞いてあげよう」
「聞く必要も無いとは思いますが……時の女神クロノの居場所を教えてください」
「無理」
即答でした。
「あはは、そんな目をしないでくれ。無理なものは無理なのさ。というのも、『クロノ様』は管轄外の地域の神なんだよ」
様?
神様の中でも上下関係があるのでしょうか?
「神様事情っていうやつですか?」
「そう。『ヒルメ様』管轄の世界に僕のような下級の神が関わってよいはずが無いんだ」
また新しい名前が増えましたね。これ以上覚える単語は増やしたくないのですが。
「ちなみにここの女将のミズハも『元神様』だったんだよ?」
「そういえばあっちでは神様って言ってましたね」
「そう。ここへ呼んだとき、神から精霊に降格させて、ここで魔獣退治を行ってもらっているのさ」
「……え、ここへ呼んだということは、その『ヒルメ様』という神様の世界にガッツリ干渉しているんじゃ?」
カンパネ(と名乗る人の形をした水の物体)は頬をかく動作をしました。
「あはは、ちゃんと深い理由もあるんだよ?」
「深い理由ですか?」
「『ヒルメ様』にお願いをして、神様くらい強い人材を一人こっちに貸して欲しいとお願いをしたのさ」
「あ、ちゃんとそこは打ち合わせをしたのですね」
「まあ、期限はとっくに切れているんだけど」
「駄目じゃないですか!」
様を付けるほどの神様なら、きっと凄く怖い神様ですよね!
「だ、大丈夫大丈夫。『ヒルメ様』はお日様のごとく優しく温かい心の持ち主だから、きっと許してくれるよ!」
「はあ、まあ神様業界については人間の僕が深く関わらないとします。とはいえ、僕はその『ヒルメ様』の世界に行かないと行けないわけですが」
「あー、それだけど、本当にやるの?」
予想外の反応でした。
「え?」
「あ、いや、正直なところ時の女神クロノに会うのは最後の手段かなとは思っていたんだ。でも、あっちの世界は『僕の管轄外』だから、僕が見守ることも助けることもできないんだよ」
「今まで助けてもらった記憶が無いのですが」
「えー、ここまで目的地を示してあげたのに!」
バシャバシャと水がはじきました。
「でも、本当にあっちの世界に行くなら、『オトヒメ』……いや、ミズハが忠告したけど、覚悟したほうが良いよ」
「言葉なら問題ありません」
「言葉ではないさ。あっちの世界へ行った後……いや、行く前に一人説得しないといけないモノがいるよ」
「説得ですか?」
そう言うと、カンパネと名乗る水の物体は温泉に沈み始めました。
「鉱石精霊は一分一秒も早く、『僕の世界』に来たがっているからね」