♪ガラン王
ある人物の登場に今回も劇中歌を制作しました。あとがきのURL(Twitter)にありますので、よろしければどうぞ!
「……パムレット一つでこの労働。割に合わない」
「そう言わずにお願いします」
先日演奏を行った場所に再度来て、マオに『心情読破』を使って城下町の人の心を読んでもらう事になりました。
「……お菓子は本来、嫌な事を忘れさせてくれる最強のアイテム。でもそれはあくまで個人の思想であり他人の心の声まではかき消してくれなかった」
「ちょっとトスカ、マオがどんどん元気を失っているけど、大丈夫なの?」
僕は魔術師では無いので『心情読破』の負担がどれほどかわかりませんが、なかなかきついのでしょうか。
「……超大変。パムレットがあと三つあればなんとか」
「全然大丈夫そうなので続けましょう」
「……マオは悲しい」
演技でしたか。もし本当だったらもう一つくらいならとも思ったのですが。
「!」
……マオ?
「……トスカの心なんて読んでない。だけど、この大勢の心を一気に読んでいるから、間違ってトスカの心も読んでいるかもしれない」
「はあ、わかりました。もう一つ買いますから頑張ってください」
「……(こくり)」
「トスカって子どもとか面倒見るのが好きなの?」
不意にシャムロエが質問を僕に投げました。
「いえ、むしろ年下は初めてです。村では一番若い人が僕だったので、今でもどのように接して良いのかわかりませんよ?」
「じゃあその敬語口調も周りが年上だったから?」
「そうですね。マーシャおばちゃん以外は全員敬語でした」
この口調の方が楽と言うのもありますけどね。
「……む?」
と、マオの顔つきが鋭くなりました。何かあったのでしょうか?
「……奥から何かが来る。あれは……兵士?」
「多くの兵士の真ん中には大きな人がいますね。誰でしょう?」
徐々に僕達の前に近づき、兵士の大群の中から黒服の男が出てきて僕達に近づいてきました。そして強く言い放ちました。
「そこをどいてくれますか?『ガラン王』の道を邪魔する人は極刑ですよ?」
♪
兵士数名から奏でられる音楽。
何かを湛える音楽ともとれるその音楽は、僕の中で衝撃を受けました。
今までマーシャおばちゃんの音楽しか聴いたことがないため、数十の合奏は初めて聞きました。
特に目の前で奏でられると驚きですね。
「……マオはトスカの音が良い。落ち着く」
「同感ね。それで、一体これは何かしら」
僕達は黒服の男に忠告され、広場の隅に移動していました。流石に極刑は洒落にならないです。
「……中央のデ……大きい人はこの国で一番偉い人らしい」
「そうなるとあの黒服の男が言っていた『ガラン王』っていう人でしょうか」
ガラン王国という名前は大陸でも有名ですが、小さな村に住んでいるとその王様の姿すら知らない人は多いです。
それにしても……随分と横に大きいといいますか、あの体格で歩けるのが奇跡と思えるくらい大きいです。
顔も豊かに太っていて、顎がどこかわかりません。
「ガラン王の声を聞きなさい!」
黒い服の男が大声で言うと、周囲の人は皆ガラン王を見ました。
「新たな制度を設ける!」
周囲はざわつき始めました。
「民にとって良い知らせである。本日をもってゼイキンを減らし、民の負担を軽減させる!」
「おお!」
「ありがたき幸せ!」
周囲の人は皆喜びました。しかし、その声を止めるかのようにガラン王は右手を挙げ、続けて話します。
「軽減はする。しかし、それでもなおゼイキンを払えぬ者は救済措置として『ガラン王国兵』として働いてもらう! 喜ぶが良い!」
「「「おおおおおおおお」」」
すごい歓声です。にしてもゼイキンを払えない人に働き口を与えるなんて、ただ贅沢をしている王というわけではないのでしょうか?
「……トスカ、違う」
「また心を読んだのですか……。にしても違うって何がですか?」
僕の言葉にマオが低い口調で話しました。
「……ここにいる人は全員喜んでいない。恐怖と憎悪、それらが入り混じっている。兵になることを誰もが拒絶している」
「それって……」
「……さらに言うと、あの黒服の男。『心情読破』が使えない。怪しさの塊そのもの」
僕は思わず黒服の男を見ました。偶然か必然かわかりませんが、その黒服の男と目が一瞬合った気がしました。
偽りの歓声に不思議と空は曇り始め、嵐の予感がしました。
今回のお話の劇中曲です!(Twitter)
https://twitter.com/kanpaneito/status/1109578242204196864