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夢見る精霊

『あら、久しぶりね。貴方が『タマテバコ』をあけてから何年がたったかしら。そう苦い顔をしないで。別に貴方に意地悪をしたわけではないの。ずっとあのまま『リュウグウジョウ』で一緒に楽しく過ごしたかったから、貴方の時間を箱の中に入れていただけよ。貴方が帰ると言ったときは驚いたけど、仕方が無いわよね。貴方は人間で私は神。そもそも生き方が違う時点で貴方を長居させてはいけなかったわ。反省している。本当よ? ふふ、でもまた会えるなんてね。私? うーん、記憶が曖昧だけど、小さい女の子に吹っ飛ばされたみたい。その後は……え? どうして離れていくの? ちょっと待ってよ! ねえ!』


「……ていう夢を見ているから大丈夫」

「きゃー! はあはあ、え、ここは……ぎゃー!」


 マオが凄い魔術を使って広場を破壊し、一旦ミズハを安全な場所へ寝かせた後僕達は『リュウグウジョウ』の復旧作業に取り掛かっていました。

 フーリエとマオの魔術で瓦礫はすぐに撤去でき、シャムロエの腕力により吹き飛んでしまった置物などを配置。僕はクラリネットで演奏して周囲の従業員の疲労を取るなど、良い感じの役割分担で作業を行っていました。

 まだまだ細かい場所の復旧が残っていますが、それらはフーリエとシャムロエが行い、僕とマオはミズハの様子を見に来ていました。


「というか、マオは人の夢の中も覗けるのですか?」

「……『心情読破』で心を読んでいるだけ。風景は見えない」


 つまり僕の心の唯一存在する安全地帯である『夢』すらも魔術師にとっては簡単に入れるのですね。もう僕の心はマオに乗っ取られていますよ。


「ふざけないで!」

「わ! ど、どうしました?」

「……ミズハ、落ち着いて。マオ、良い子の塊。怖くない」

「怖いわよ! それに……『アレが夢』?」


 ミズハは動揺している感じです。普通は心臓の音などでわかるのですが、この人は……ああ、そういうことですか。


「すみません。僕が『安眠』の音を奏でました」

「あん……みん?」

「マオに吹き飛ばされて、完全に気を失っていた感じだったので、『良い夢を見れるような音』を奏でました。もしかしてミズハも普段は寝ないのですか?」

「そもそも『寝る』という概念が無いわ。気を失ったとしてもその時の時間が一瞬で過ぎている感覚に陥るだけ。だから『夢』を見るという体験は初めてよ。これが原初の魔力の力ということかしら?」


 僕をじっと見るミズハ。


「……トスカ、少し照れてる?」

「いや、綺麗な女性にじっと見られると、照れもしますよ」

「……じー」


 いや、マオにじっと見られても慣れてますからね。


「……む、なんだか悔しい」

「それよりも貴女よ。マオって言ったかしら? どうして『私の心が読める』の?」

「……質問の意味が分からない」


 確かに。ミズハも僕も『心情読破』を使えば心を読めるはずです。僕は魔術が使えないのでわかりませんが。


「私のような神……いや、この世界では精霊ね。精霊に心は無いわ。たとえ私が何かを考えていたとしてもそれは心ではなく概念。だから精霊に対して『心情読破』は本来使えないのよ」


 そういえばゴルドも言ってましたね。

 ゴルドの知り合いには『精霊でも人間でもかまわず心を読める人がいた』とか。後はフーリエのお姉さんもゴルドの心が読めたみたいですし。


「え! フーリエに姉がいたの!」

「僕はもう考えを発しながら行動したほうが良いですか? もう僕の心に自由はないのですよね!」

「……トスカ、大丈夫。マオが守る。具体的には『パムレット』しか考えられなくなる方法だけど、怖いのは最初だけで後はパムレットが好きに」

「嫌ですよ!」


 というかフーリエも人間のときは『心情読破』を使ってゴルドの心を読めるみたいですし、ぜんぜん変では無いと思うのですが。


「そもそも『心情読破』は神が作った術式で、精霊や神には通用しないはずよ。もし私やそのゴルド? という精霊に使えるなら、頭の構造が普通と異なっているわね」

「……ま、マオ、良い子の塊。ふつうふつう」


 今更そんなことを言われましても、僕だって音が見えるという面では普通と異なるので、何が普通なのかは今更考えても無意味という物です。それよりも今までの行いなどが重要なわけで、マオは『パムレットの案件以外』はおとなしい子供です。特段怖がったりなんてしませんよ。


「……ありがと」

「はあ、もう貴方の周りには普通ではない人が多くて普通というのがブレブレなのは分かったわ。というかゴルドって人物は私の同族かしら?」

「ゴルドはフーリエの古い知り合いで、鉱石精霊って言ってました」

「こっ」


 固まりました。


「え、そんな原初の魔力の所持者が二人今いるの? まさかこの小さな世界に? 一体あの神様は何をしたいのかしら……」


 ブツブツと何かを言うミズハ。神様と言うのはカンパネのことでしょうか?


「カンパネとは知り合いですか?」

「ええ。私が別の世界……『地球』という世界にいたんだけど、ちょっとした事件に巻き込まれてここに来たのよ。その時に色々と説明してくれた神ね」

「チキュウ……確かマオの世界もその世界出身でしたっけ?」

「……多分」

「あら、同郷? でも多分って?」

「……記憶がないから正確にはわからない。だから、記憶を戻すために『時の箱』が必要」

「ふーん、あの金髪の少女と貴女は色々と事情があるみたいね」


 そしてしばらくミズハは考えた後、こういいました。


「ちょっとマオ、一旦席を外してくれるかしら? そこの少年とお話がしたいわ」


 ☆


 マオが部屋を出て離れていきました。


「ドアの向こうで盗み聞き等はしていません。もう結構離れました」

「さすがは音を操る選ばれた人ね」

「僕だけを残して何を聞きたいのですか?」

「あの二人の保護者って感じがしたのよ。ちょっとした質問よ」


 そして僕の目をジッと見て話し始めました。


「貴方の言う『時の箱』、タマテバコを使えば記憶を戻すことはできるわ。でも、必ず幸せが来るとは限らないわ。それでも良いの?」

「と言うと?」

「私はこっちの世界だと精霊扱いだけど、別の世界だと一応神様なの。かなり力は抑えられちゃったけど、これでも『神術』は殆ど使えるわ」

「しんじゅつ?」

「貴方がさっきから言っている『心情読破』や『認識阻害』など、かつて神が人の世界で使ったとされる術式ね」

「神様の術ですか」

「そうね。で、その中に『過去透視』という術があって、すでに私はあの二人に使ったのよ」


 つまり、二人の過去を知っていると?


「そうよ。正直どちらも良い記憶ではないわね。金髪の子は千年以上前に事故にあい、銀髪の子は地球で『作られた』……こほん。正直どちらも記憶を戻して自我を保てるとは思えないわ」

「どちらも……」


 ゴルドやフーリエ。そしてカンパネが話さなかったことをミズハはすらすらと話しました。

 いや、もしかしたらゴルドがどこかでシャムロエに話したかもしれません。

 マオについては知っている人がいないので不明でしたが、まさかそんな過去を持っていたなんて。


「それでも、僕たちの旅の目的は記憶を探すことです。ここで足踏みをするわけにはいきません」

「そう。なら記憶を戻すなら早いほうが良いわよね」


 そう言ってミズハは立ち上がりました。


「タマテバコは広場の近くの小屋にしまってあるわ。早速取りに行きましょう」


 そう言って、僕はミズハについて行きました。



 ……広場の近く?

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