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どこか近い二人

 客室はとても落ち着く雰囲気でした。フーリエの話だと『ワフウ』という別の世界の昔を再現しているのだとか。

 今まで忙しかったので、こういう場所で現実を忘れるのも悪くはありませんね。


 と、そんなことを思っていたら扉がこんこんと叩かれました。


『トスカ様、『女将』の準備が整いました』

「あ、今行きます!」


 そして扉を開けるとシャムロエとマオも居ました。


「どんな人か気になるわね」

「……うん」


 いつもより緊張している二人。当然かもしれませんね。これから記憶を取り戻すかもしれないのですから。


「こちらになります」


 そして廊下を歩いて数分。大きな広間……まるで謁見の間のような場所へ到着しました。


「ようこそ『リュウグウジョウ』へ。私はここの女将をしている『ミズハ』です」


 黒く長い髪。そしてひらひらとしたドレスを着たとても綺麗な女性が大きな槍を持って立っていました。


「あら、綺麗な女性とはうれしいことを思ってくれますね」


 そしてこの人も問答無用で僕の心に入ってくるのですね。僕の心はすでに無法地帯。出入り自由の遊び場ですよ。


「……トスカ、その、いじけないで。これからはマオ自重する」

「なんだかよく分からないけど、そこで地面の模様を指でなぞるのを一旦止めましょ? 後で散歩に付き合ってあげるから」

「え、私、何か悪いことをしたのかしら?」

「ミズハ様、とりあえず謝ってください。トスカ様はワタチの大事なお客様です!」

「そ、それはすまなかったわね。悪気は無い……いえ、貴方にとって不快と思ったのなら私が悪いわね。この通りよ」


 頭を下げられてしまいました。半分冗談のつもりがここまで来ると……いや、これも心を読まれている可能性があるので、とりあえず咳き込んで本題に入りましょう。


「こほん。とりあえず話が進まなそうなので、一旦保留で。早速本題に入って良いですか?」

「ええ。どうぞ」


 そう言ってフーリエ含め、他数名の従業員が椅子を持ってきてくれました。

 見たところ人間のようですが……。


「人間よ?」

「こんな深海に?」

「ええ。ここで働く人達は全員共通して『生き場を失ったもの』よ。海へ身投げした人から親を殺された者まで、色々な人が居るわね」

「へえ、慈善事業かしら?」

「シャムロエ、ちょっと言い過ぎでは?」

「いいのよ。従業員は三食で寝床まである。私は低賃金で雇える。色々と都合が合致しただけよ」

「ふーん」


 どこかシャムロエは納得のいかない様子でした。


「まあ、そこのフーリエは別だけどね。そもそも人間じゃないし」

「そういう貴女も人間じゃ無いのでは?」


 またしても突っかかるシャムロエ。どうして今回は色々と口を挟むのでしょうか?


 そんな疑問を浮かべていたら、マオが僕の服をつんつんと引っ張ってきました。


「どうしました?」

「……強気な性格。自信の有る目。口調。ついでに一人称が『私』。いわゆる『かぶり』」

「なるほど。二人は色々と似ているということですね!」

「「どこがよ!」」


 おおー、凄いです。音の形も一緒でした。


「まあ良いわ。確かに私は人間では無いわね。『あっち』の世界では神様に近い存在。こっちでは精霊に分類されるわね」

「せいれい」

「そうよ。この世界だと精霊は珍しいのよ。かといって人間を見下すわけでも無いわ。まあ少しでも尊敬してくれればうれしいわね」


 ふんす! と鼻息を鳴らすミズハ。えっと……。


「あのー、ミズハ様。シャムロエ様の体内には精霊の魔力を宿しているので、半分精霊です。マオ様は精霊を超える膨大な魔力の持ち主で、トスカ様は原初の魔力を保持しています」

「ええ! それを先に言いなさいよ! 大事なお客としか言われてないわよ!」

「最近あちこちのワタチが忙しくて、言いそびれました!」


 フーリエも失敗をするのですね。いや、むしろこっちのフーリエの行動は若干雑な感じもします。なんというか、他の従業員がいるから任せている感じですね。時々動きが止まります。


「はあ、『久々』の客にちょっと舞い上がっていたけど、私よりも珍しいと聞くと一気にやる気が……フーリエ、あとは頼んで良いかしら?」

「そうは行かないわ。私達は目的があってここへ来たのよ」

「目的?」

「ええ。私達の記憶を取り戻す『箱』の力を借りに来たの」

「へえ」


 にやりと笑うミズハ。


「あの箱の力。『タマテバコ』の力が欲しいと?」

「箱の名前なんて知らないけど、まあそうね」

「なら貴女達の力を見せなさい。久々に私、槍を振りたくなったわ!」

「え、ミズハ様!?」


 ☆


「えー、審判はワタチが行います。気絶をした場合や相手が降参を申し出た場合はすぐに手を止めてください」


 フーリエが大広間の真ん中で話しました。


 フーリエの右には女将のミズハ。


 そしてフーリエの左には。



 マオです。



「いや、そこはシャムロエじゃ無いのですか!」

「作戦よ。どの道相手しないといけないのだし、相手の実力をしっかり見てからの方が良いでしょう」

「だからって年下のマオを……マオを……」


 いや、どっちが年下でしたっけ。言ってしまえばシャムロエってゼロ歳ですよね。


「この際どっちでも良いです! 見た目年齢年下のマオを先に行かせるってどういう性格をしているのですか!」

「これも作戦よ。マオが負けたら私が勝って、思いっきり頭を下げるのよ。まだか弱い妹がーって言えば大丈夫でしょう」


 なんというか、シャムロエって時々本当にどうしようも無いですね!


「ふふふ、最初がお嬢さんだとはね。まあ手加減してあげるから全力で来なさい」

「……? いいの?」

「え? 良いわよ」


 そしてフーリエの『開始』の合図と共に。



 大きな爆発音が鳴り響き、リュウグウジョウの結界が破けて、大量の水が流れ込んできました。



「ちょちょちょちょっと待ちなさいよ! 何今の! 魔術の領域を超えているわよ!」

「……まだいた。もう一発」

「しかも連発できるの! 待った! 降参! 降参!!」

「マオ様、止めてください! そして修復作業を手伝ってください!」


 鳴り響く悲鳴。

 流れ込む大量の水。


 娯楽施設が一気に地獄へ変わってしまいました。あはは。

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