まるでここは別の世界
知る人ぞ知る娯楽施設『リュウグウジョウ』。
場所は海の底。そこへたどり着くには何人もの優秀な魔術師を雇い海へ潜るか、選ばれた人は近くまで行けば転移できるとか。
ともあれ、そこへ行く人の殆どはそれなりにお金を持っている人とのこと。
本来その『リュウグウジョウ』は噂でのみ知られている幻の場所と言われているそうですが、なんと言うか……。
「あ、トスカ様。いらっしゃいませ」
知り合いが働いていると一気に新鮮味が無くなりますね。
「待たせたわねフーリエ」
「いえ! むしろ長旅で疲れたのでは? まもなく『リュウグウジョウ』です! 今『女将』は仕事をしているので後ほど挨拶の場を設けますね!」
洞窟を進むとフーリエが出迎えてくれました。
と、同時に先頭を歩いていたノームたちが僕たちの後ろに隠れました。
「うう、ワタチもノームに嫌われたものです。昔は仲良く接していたと言うのに」
「フーリエ殿! 勘違いしないで欲しいんじぇ! フーリエ殿の近くに居るとめまいがするので、それを少しでも和らげるために離れているだけんぼ! 決して嫌いというわけではないんじぇ!」
と言いつつさらに離れているノームたち。説得力に欠けるというかなんと言うかですね。
「あはは、冗談です。ノームたちもありがとうございました。洞窟はこのままつなげてもらってて良いですか?」
「んじぇー。地殻変動が起こらない限り大丈夫んじぇ」
帰りもここを使えば大丈夫ということですね。
「んじぇ。ではトスカ殿御一行。これからの旅も良いものになることを祈っているんじぇー」
「ありがとうねー」
「……んー」
シャムロエとマオが手を振り、僕は軽く頭を下げました。
……いや、ここは送ってくれたノームたちに感謝を込めて誠意を見せましょう。
僕は思いっきり息を吸いました。そして。
「んじぇ!」
静まる場。
冷たい視線。
「……トスカ、暗い洞窟で頭が壊れた……? 心情偽装で何とかしようか?」
「いえ、殴って何とかするしかないわね」
「悪魔的治療もあります。今準備しますね!」
そんな声が背中から聞こえましたが、その瞬間でした。
洞窟の出口でノームたちが一斉に並び始めました。そして。
「「「「んぼ!」」」」
声をそろえてノーム達は僕に言いました。
「……トスカは時々、『心情読破』が使えるんじゃないかと思う」
「あはは、ノームのまねをしただけですよ」
僕の行動は間違いではなかったみたいですね。
☆
洞窟を抜けるとすさまじい光が射し込み、目の前には大きな城が建っていました。
そして城の上。最初は青いから空だと思いましたが、魚が泳いでいます。これは海です!
「ようこそ!『リュウグウジョウ』へ! 改めましてここのワタチは『寒がり店主の休憩所』の店主ではなく、『リュウグウジョウ』の店員です」
「え! てっきりここもフーリエのお店かと思いましたが」
「いえ、ここへは偶然ワタチがやってきて、流れでお手伝いをすることになり、時を経て今の形になったのです」
再度巨大な建造物を眺めますが、何度見ても驚きです。
ガラン王国でもミッドガルフ貿易国でもゲイルド魔術国家にも似つかない、全く異なる建造物。まるで僕は別の世界に来た様に感じます。
「……なるほど、これが『懐かしい』という感情」
「え?」
マオがぼそりと言いました。
「……記憶は戻っていないけど、この建造物はなんとなく『懐かしい』と思えた。つまりこの建造物の形はマオの世界のモノ」
「さすがはマオ様ですね。ワタチも聞いた話ですが、この建造物は別世界の建物を表現しているそうです」
「へー。三角の屋根に赤色の壁。うーん、見慣れないわね。綺麗だとは思うけど」
そして歩いていくと違和感を感じました。
「ん? そういえばここは海底ですよね? 僕たち普通に呼吸をしていますが」
「はい。ここは娯楽施設として運営を始めてから魔術で結界を作り、空気の層を作りました」
「フーリエ、貴女凄いわね」
「いえ、残念ながらその術式はワタチではなく、『女将』です」
『女将』。つまりここの代表者ということですよね。
「まずはお部屋にご案内します。少しご休憩された後お呼びしますね」
そして僕達は『リュウグウジョウ』の客室へと案内されました。