パムレットの子供爆誕
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一旦別行動を取ったゴルドは、トスカが向かった方角の逆、西へと向かった。
向かう先はゴルドの魔力から生まれた自称ゴルドの子供『ガナリ』の住処の孤島。つまり、海の向こうである。
「あそこに行くには船が必要なんですが、サビだけが心配ですね。まあ、海の地と呼ばれる場所よりはマシかと思いますし」
ボソッと呟き、それでも歩み続ける。今頃トスカ達は元気だろうか。いや、あの異常な力を持つ女子二人と原初の魔力を持つ者が揃えば、多少の困難は乗り切れるだろう。
そう自分に言い聞かせ、今は自分のことを考えることにした。
「精霊の森から東に進んでも、平原があって、その先は海ですね。道中にフーリエの店があれば良いのですが……」
少し歩くと徐々に地形が草地から砂地へと変わり始めた。潮の香りもし始めて、海が近いと知らせてくれている。
「ゴルド様。お待ちしていましたよ」
「貴女はどこにでもいるのですね。フーリエ」
「トスカ様から伺っていました。ミッドガルフ貿易国から少し離れている小屋担当のワタチが出張してきました」
なるほどと頷き、ゴルドはフーリエに歩み寄る。
「ふむ、ここは変わっていませんね」
「懐かしいですね。約千年ぶりでしょうか?」
「ボクは寝ていたのでわかりませんが」
ゴルドにとっての千年とフーリエにとっての千年では、感覚が全く異なる。そして目的があって生き残った者と、封印されて生き残らされた者ではわけが違う。
「ワタチは信じていました。絶対会えると。ですがゴルド様はこの海を渡り、ガナリ様と出会ったらまた『あの世界』に行かれるのですか?」
不安気な表情を浮かべるフーリエの頭に手を置くゴルド。答えは否定でした。
「いえ、まず孤島へ行きガナリには会います。しばらく滞在して策を練ります。というより、滞在するしかできません」
「というと?」
ゴルドはいつも持っているかばんを開き、フーリエに見せました。
「『神々が住む世界』へ行く鍵である『ネクロノミコン』は今、ボクは持っていません。それに、『あの神』に勝つにはトスカたちの力が必要なのです」
「トスカ様たちを……巻き込むのですか?」
フーリエの表情は少し強張った。
「ボクも悩みました。正直死よりも恐ろしい出来事が待っている可能性が高いでしょう。ですがあの少女……シャムロエは少なからず無関係とも言えません」
「そう……ですか」
フーリエは少し悩み、一つ提案をしました。
「では、ワタチの提案を一つ受け入れてください」
「何でしょう?」
「それは~~」
★
ガラン王国の市場は大盛況でした。特にパムレットを扱う店は新商品『パムレ』に行列ができていました。
「パムレ一組!」
「パムレ三組!」
「パムレットとパムレの組み合わせで!」
まるで人が川のように流れていきます。パムレットは元々焼く時間が長かったり、クリームを詰め込むのに時間がかかったりしていましたが、パムレの場合は大きい板に平たく丸めた生地を乗せて一気に焼けるため、一度で沢山の量産が可能です。
そしてマオの(ありえない)魔術とフーリエの(悪魔的)魔術により火力は十分。大きな鉄板もシャムロエの(超人的な)怪力で軽がると持ち上げ、僕はせっせとお菓子を袋に入れていました。
「こ、これ、魔物退治よりも辛くないですか?」
「……労働は辛いもの。労働が有るからこそ報酬はより輝きを見せる」
「マオも目を回しながら火を出しているじゃないですか! 少し休みましょうよ!」
「トスカ様、ワタチもそろそろ限界が。火の当番を代わっていただけませんか!」
「無理ですよ! 僕は音しか操れません!」
「トスカ、私は」
「シャムロエは大丈夫なはずです。さっきから汗一つかいていませんからね!」
「ひどいわね! 事実だけど!」
そんなこんなで材料も無くなれば営業も強制的に止まります。買えなかった人は残念な表情を浮かべて帰って行きましたが、初日でこの売り上げは大盛況でしょう。
「トスカ殿! 遠くから見ておったが、本当に良い盛り上がりだった! 礼を言う!」
ガラン王が頭を下げ、周囲がざわつき始めました。いや、止めてください! また逮捕とか嫌ですからね!
「しかし、この『パムレ』はどうしてここまで売れたのかが分からない。他の国では味の異なるパムレットが好評だが、ここまで人気になるという話は聞いたことが無い」
ガラン王の疑問にフーリエ……おっと、今は寒がり店主と言ったほうが良いですね。寒がり店主が話し始めました。
「ワタチの推測ですが、手軽さだと思います」
「手軽さ……とな?」
「色々と偶然もありますが、まずガラン王国ではパムレットの物価は高すぎました。そこから安いパムレット味の食べ物が出たとなれば、住民は買うでしょう。次に基となった食べ物が兵士の保存食です。つまりこの『パムレ』も保存食ともなり、兵士にも好評となります。最後にこのパムレは今このガラン王国でしか作れず、そして日持ちするため輸出が可能です。そういう意味で色々な場面で活躍できる食べ物と言えるでしょう」
凄く長いお話にマオは寝てしまいましたね。
シャムロエは途中から頭に疑問を浮かべてそうですが、ガラン王はしっかりと聞いていました。
「うむ、さすがは長年ガラン王にて経営をしている店主。その推測はおそらく正しいだろう」
「このパムレの作り方や輸出量をどうするかによって今後のガラン王国の経済が変わります。気をつけてください」
「うむ。心に刻もう」
そう言ってガラン王は近くの兵士に何かを命じ、そして再度僕達を見ました。
「今回活躍してくれたトスカ殿、シャムロエ殿、マオ殿、店主殿には何かお礼をしたいところだが……」
「それならまたここに戻ってきたときにおいしいご飯を用意してくれれば良いわ」
「む? それで良いのか?」
現状、今すぐに作物が育つわけでもなく、この『パムレ』は一時的な物に過ぎません。作物が育てばパムレも作れますが、それ以上の食べ物も作ることができます。
「空腹は敵よ。逆におなかを満たせば解決するわ。この国の職を守ったということで私達の名を刻んでくれれば良いわ」
「嫌ですよそんな肩書き! もう少し格好良いものにしてください!」
「……パムレットの子を作った」
「それも語弊があります! 事実ですが!」
そしてガランは決心したのか、気合を入れて大声を出しました。
「分かった。この『パムレの親』をガラン王国の歴史に刻むと共に、今後の困難には最優先で駆けつけるとしよう!」
だからパムレの親ってなんですか!