彼女たちの実力
以前はぼろぼろだった『寒がり店主の休憩所』も今は立派な清潔感のある宿となりました。
色々あって少し土地も増やしたそうで、少し広めの裏庭もありました。
「まだ何かを植える予定も無いので、ここなら小さい魔術を使っても良いですよ」
木の枝を使って小さな丸を描きました。おそらく魔術を放って良い場所という意味でしょうか。
「ゴルドが居たら鉄の釜とか道具とか作ってくれたのかしら」
「お願いすればもしかしたら作ってくれるかもしれませんね。ゴルド様は以前兵士の装備や仲間の装備の手入れ等もしていましたから」
鉱石精霊としての扱いってそんなので良いのでしょうか?
そもそも精霊の作り出した武器ってそれなりに凄いと思うのですが、それを『パムレットを作る道具』を生成してもらうって……。
「……トスカ。時代は変わりつつある。そもそも影の支配者のフーリエが宿屋の店主をしてマオ達とパムレットを楽しく作っているのをどこかの王様等が知ったら大騒ぎ」
「一理……ありますね」
「影の支配者ってなんですか! ワタチはただ少しだけ長生きしているだけですよ!」
とりあえずフーリエが丸を描き終え、そこにマオが魔力を込めました。
「というか魔術って便利ですね。こうした道具等も作れるとなると、鍛冶屋って実はそれほど儲けが少ないのでしょうか?」
僕の住んでいる村は魔術師が少ないので、一応鉄製品を加工する人はいますが、都会だと魔術でなんでも解決しそうですね。
「トスカ様は少しだけ勘違いをしていそうなので、ここで一応補足しておきますね」
「はい?」
「マオ様は『規格外』です。ワタチや静寂の鈴の巫女ミルダ様、過去を遡って出てくる有名な魔術師を挙げても、マオ様には敵いません」
「へ?」
マオに……敵わない?
「悪魔だからこそ分かるマオ様の魔力量。そして『普通ではありえない』同時に二つ以上の術を使う能力。正直、マオ様だけでも相当な力を持っています」
「それほど凄いのでしょうか……」
あまり実感がわかないといいますか、今も全力で石の釜を作っている小さな女の子にしか見えませんよね。
「ちなみにシャムロエ様も規格外の能力を持っていますよ?」
「へ? そうなの?」
シャムロエの身体能力は確かに凄いとは思っていました。男の僕よりも力があり、以前大量の兵士が襲ってきたときも一瞬で蹴散らしましたからね。
「シャムロエ様の娘様……シャルドネ様はとある事情ですさまじい身体能力を得ました。しかしその本質はやはり親である貴女から受け継いだものだとワタチは思います」
「うーん、難しいことはよく分からないし、実感がわかないわね」
と、シャムロエが苦笑しているとマオが呼び出しました。
「……シャムロエ、生成に失敗した。壊して欲しい」
「はーい。てえい」
ばあああああああああああああん!
「いやいやいやいや、実感わかないって言っておいた直後のそれはおかしいですって! そもそもマオが壊せば良いじゃないですか!」
「……生成だけで結構疲れる。究極の釜を作るには魔力を無駄にできない。それに引き換えシャムロエに頼めば一瞬かつ魔力も使わなくて良いから色々とお得」
「まあ、私は別にかまわないわよ。ほら、マオ。次は成功させるのよ?」
「……がんばる。全てはパムレットのため」
そう言って再度取り組みました。マオの背中にはシャムロエがついています。
「トスカ様。ご覧の通りです。そしてこれが証拠ですね」
先ほど破壊した釜の破片ですね。僕も手に取るとなかなかの固さ……いや、両手を使っても簡単に壊れませんね。鉄でしょうか?
「普通、魔力で土を生成するとこうなります。『ソイル・ボール』」
「おっと」
土で作られた丸い球を僕に投げてきました。そういえばフーリエは悪魔ですが魔術も使えるのですよね。神術などが使えないのでしたっけ?
「って、どんどん砂のような……おや? そもそも手に残らないですね」
「そうです。それが『魔術』です。もちろん生成物として残る術もあり、それが『精霊術』です」
「じゃあ……マオが生成したこれは」
まだ僕の手の上できらりと輝く鉄の様な破片。全く消える様子もありません。
「精霊術。魔術。聖術。神術。その他色々が混ざり合った混合物と言えるでしょう。そしてそれを一発で破壊する力。そのすさまじい人たちが今……パムレットを作るためだけに全力をだしているのです」
なんだか凄い才能を持っているのに、使い方を間違っているような気がし始めました。