ガラン王国の危機……?
ガラン王国。
村を出て最初に来た場所であり、懐かしさもあり最初の問題発生箇所でもあるため、色々と思い出深い場所ですね。
「まずはフーリエの店に行きましょう」
そう言って裏路地を歩いていくと、やたら大きな建物がありました。
うん。アレはフーリエの店ではありませんね。だって立派ですもの。
隣には小さな木箱がありますね。きっとこの中にフーリエが居るのでしょうか。
「……トスカ。現実逃避は良くない。目の前の大きな建物にしっかりと『寒がり店主の休憩所』と書いてある」
「だってあのぼろぼろだった宿がこんな立派な建物に変わっているなんて信じられませんよ!」
全体的に石で作られ、色も研磨されているからか少し輝いています。
意味深なモニュメントまであり、まるで一つの高級な宿泊施設ですね。
そこから一人の『物体』が歩いてきました。
「あ、トスカ様! お帰りなさいませ!」
「トスカ、現実を受け止めなさい。あのぼろぼろだった店が、今ではこの通り綺麗に。これは良いことよ」
「そう……ですね」
いや、なにが不満って、フーリエの宿が綺麗になったのって、僕たちが事件に巻き込まれて、原因の半分以上がガラン王が関係しているから、国から膨大な援助をもらえたとのこと。
良いんですけどね! でも少しくらいは僕達の旅に役立つ金品があっても良かったのでないのでしょうか!
「トスカ様達には色々とお世話になっているので、特別に一番豪華な部屋を宿泊できるように手配しますよ?」
……別に良いんですけどね!!
☆
「そうですか。ゴルド様は孤島へ向かいましたか」
お茶を出すフーリエは少しだけ落ち込んでいました。
「まあ、全く会えなくなるわけでもないわけだし、また会えるわよ!」
「そうですね。孤島にも一応寒がり店主の休憩所は存在しますし、多分『あっちのフーリエ』は会えますね」
「やっぱりあるのですか」
「はい。ガナリ様の存在も知っています」
「知り合いなの?」
「いえ、一瞬だけ話したことがあるだけです。初めて会ったときワタチはすでに悪魔だったので、あまり話せませんでした」
精霊と悪魔は基本的に相性が悪いですからね。
シャムロエは比較的人間成分が大目なのでフーリエとは普通に接していますし、ゴルドは結構我慢している様にも見えました。
もしかしたら他の精霊……例えばノーム達はフーリエが近寄るだけでちょっと困るのでしょうか。
「それにしてもノームの集落ですか。ノーム達は元気でしたか?」
「なんというか、個性的だったわね。話し方とか」
「……もちもちしてた」
いつの間にかマオは触ってたみたいですね。僕もあのやわらかそうな生物?は触っておきたかったです。
「ふふ、あそこの集落はワタチが人間だったときに一度足を踏み入れたことがあって、ワタチも思い入れの深い場所でしたね」
「そもそもフーリエって、人間のときは何をしていた人なの? 宿屋の店主?」
「もしそうならかなり歴史ある宿屋ですね……いや、今でも数百年ほどの歴史はありますけど」
無くなったお茶を追加で注ぎ、話を続けました。
「ワタチが人間だったとき、当時魔術研究所の館長は『マリー』様という方でした。その方も別の世界から来た人だったのですよ?」
「ずいぶんとこの世界には別の世界の人が多いですね」
といっても知る限りではマオとそのマリーという人だけですが。カンパネも……まあ別の世界ではありますね。
「マリー様は心を読む神術『心情読破』が得意で、相手が人間や精霊問わずにすぐに読むことができるのです」
「……それは凄い」
「え? そうなのですか?」
普段からマオに心を読まれている身としてはぜんぜん凄さが分からないのですが。
「……基本的に精霊……例えばゴルド等は直感で行動しているから、心を読む瞬間を捕らえるのが難しい。ずっと『心情読破』を使っていないとできない」
「え、ずっと使ってちゃいけないのですか?」
「……『心情読破』は相手の心にひたすら耳を当てている感じ。だから、ずっと使い続けるのは結構大変」
確かに、目を金色に輝かせてジッと見られていますからね。
「ワタチが人間だったときはミリアム姉様もゴルド様の心を読んだりしていて、凄かったのです!」
「……この大陸の昔は相当な猛者が多かったらしい」
「一度手合わせしてみたいわね」
マオが恐れるほどと言うと凄いですね。シャムロエは相変わらず考えていないそうですが。
「……それよりもフーリエ。早く」
「な、何がでしょうか?」
唐突にマオは目をキラキラさせて、フーリエを見始めました。
ああ、この目は『あれ』ですね。
「……本場のパムレットを食べにマオは来た。これはもう食するしかない。以前はあまり考えなかった。今日はじっくり味わう」
「あー、それなのですが」
フーリエが唐突に苦い顔をしました。
一体何があったのでしょうか?
「今、パムレットの原材料が不作で、量産できない状態らしいです」
この言葉の瞬間、一番近くに居たシャムロエの顔が青ざめました。
「な、え、ちょ! あ、きゃあああ!」
おそらく、シャムロエの頭の中は今、とんでもないことになったのでしょう。
そう。無限の『パムレット』という単語がまるで滝のように流れて入ってきたのかと思います。
……僕じゃなくて良かった。