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一時的な別れ

 夜。


 ふと目が覚めて、夜風に少し触れようと外に出ると、シャムロエが椅子に座って空を眺めていました。


「あ、そういえば寝れないのでしたっけ」


 転生し、見た目は人間と同じ様に見えますが、中身は鉱石精霊の魔力でてきています。なのでシャムロエは睡眠が不必要でした。

 当然ゴルドも睡眠は不必要で、おそらくどこかでノームとお話でもしているのでしょうか。


「ええ。まあマオを寝かしつけたり、こうして夜空を見ることは嫌いじゃないわね。トスカは寝なくて良いの?」

「目が覚めてしまいましたので。少しお話しませんか?」


 時々シャムロエとはゆっくり話したくなるのですよね。いつもは空気を読みませんが、真面目なときや悩んでいるときは一番聞いてくれる存在かもしれません。


「鉱石精霊の魔力を宿っていますが、ここでの調子はどうですか?」

「そうね……正直インプの所為でかなり消費したから分からないわね。少なくともミッドガルフよりは良いけど、ゲイルドの方が調子は良いわね」

「空気中の魔力の濃度は僕にはわからないので、なんだか聞いていて新鮮ですね」

「それを言ったら私だって、トスカの『音が見える』という能力はまだ信じられないわよ?」


 先代から受け継いだ謎に満ちた能力。そしてゴルドの子供のガナリという精霊は何かしら接点があった『音』という魔力。

 生まれてから最近までは自分のこの力について深くは考えることはなかったのですが、やはり他人から見たら不思議なんでしょうね。


「腰痛治療以外に役に立つとは思いませんでしたね」

「使いどころが狭かったのよ。時々私も寝たいと思ったときは吹いてくれたりしてたし、感謝しているわ」

「シャムロエに関しては腰痛治療や頭痛の治療の印象が大きいので、記憶があいまいですね」


 お互い苦笑し、そして同時に空を眺めました。


「実はね、ゴルドから少し『私の娘』について聞いたの」

「えっと……シャルドネという名前でしたっけ?」

「そう。記憶が無いからこそ聞けたのだと思う。いや、記憶があったらすぐに聞いたかもしれないわね」

「何か教えてくれましたか?」

「ええ。正直、聞いて良かったと言うべきかしら。それとも聞いて後悔もしているわね」


 少しだけ沈黙し、そして僕を見ました。


「私の娘、シャルドネは生きているかもしれない。そう言われたの」


 待ってください。そもそもゴルドとシャルドネがいた時代って千年前ですよね?


「転生でもしたんですか?」

「違うの。どうやら私の娘のシャルドネはゴルドが元々居た世界で捕まっているらしいわ」

「ですが、それって……」


 千年も前の話ですよね? 生きている保障なんて……。


「ゴルドの世界では時間という概念が不安定らしいの。一日経とうが一年経とうが、肉体は変わらない。もしシャルドネがずっとそこに居るなら、今でも生きているって言われたわ」


 そんな話、いつ言われたのでしょうか。それにしても急な話で頭が追いつきません。

 ですが、一つだけ確認したいことができました。


「シャムロエ、貴女はこれから何をしたいのですか?」


 この冒険で僕は一歩前進できた気がします。それはシャムロエやマオ、ゴルドのお陰とも言えます。

 できることなら協力したい。そう心から思いました。


「ワガママに付き合ってくれるかしら?」

「今更ですよ」

「記憶を戻して、娘に会いたいわね」


 その眼差しは真剣でした。


「分かりました。どの道マオの記憶も戻す必要もあるので、お手伝いしましょう」

「ありがとう」

「それにしても、フーリエの話では南に行けば記憶を取り戻せると言っていましたが、どうやるのでしょうか?」


 そんな発言をしたら、後ろからごそっと音が聞こえました。


「んじぇ。それについては心当たりがあるんじぇ」


 ☆


 ゴルドと唯一の知り合いのノームが現れました。このノームだけ一番年老いて見えるので分かりやすいですね。


「ずっと聞いていたのかしら?」

「んじぇ? 人間の話を盗み聞きする悪い趣味は無いんぼ。畑の様子を見に行った帰りんじぇ」

「そう」


 なんか精霊らしからぬ予想外の返答に僕もシャムロエも困りました。


「心当たりって、話せる内容かしら?」

「んじぇ。別に問題は無いんぼ。おそらく『フーリエ様』のことだから『リュウグウジョウ』の秘宝を使うんぼ」

「フーリエ……さま?」


 フーリエって確か悪魔ですよね。精霊が悪魔を『様』付けで呼ぶって不思議というか変と言うか。


「フーリエ様はその昔、ゴルド様と一緒にこの地域を助けてくれた恩人んじぇ。今は悪魔の姿に変わってしまったんぼが、敬意は変わらないんぼ。ただ、フーリエ様を知っているノームは今ではオイラだけんじぇ」

「そう。フーリエって精霊にも顔が利くのね」


 ただの寒がりで宿屋の店主では無いのですね。まあ魔術研究所の館長をしていればそれなりに凄いのでしょうけど。


「『リュウグウジョウ』の秘宝には記憶を戻す魔術でもあるのかしら?」

「記憶では無いんぼ。『リュウグウジョウ』には『時間』を吸い取る不思議な箱があるんじぇ」

「時間を吸い取る……不思議な箱」


 時間。その言葉に少し引っかかりました。


「あの、それって『原初の魔力』に関係しますか?」

「さすがはトスカ様んじぇ。その箱は『時間』の魔力に関係するんじぇ」

「そもそも原初の魔力というのもまだピンと来ていない状態だし、何か知っていたら教えてくれるかしら?」

「聞いてどうするんじぇ?」

「トスカの『音』の魔力についても気になるのよ。この魔力の重要性や、なぜそれをトスカが持っているのかとかね」


 僕の言いたいことを代弁してくれた感じに話してくれました。


「んじぇ。真意は分からないんぼ。ただ、原初の魔力は『使い手』と『道具』がそれぞれあることくらいんぼ」

「使い手と道具?」

「そうんぼ。例えばトスカ様は『音の魔力』の使い手。そして道具は『静寂の鈴の巫女』が持っている鈴んじぇ」


 あれが!?


「いやまあ、不思議な音を出していましたけど!」

「同様に音の魔力を持つ『クロノ』という人物と、音にまつわる秘宝。そのように原初の魔力には二つ分けられているんじぇ」

「じゃあゴルドは『鉱石』の使い手ということですか?」

「そうんぼ。もちろん鉱石の『道具』もどこかには存在しているとは思うんじぇ。ただ、心当たりは無いんぼね」


 ますます原初の魔力というものの奥深さに驚きです。生まれてから身近にあったものが、実は静寂の鈴の巫女の持ち物と同類だったとは。


「それはそうと、『リュウグウジョウ』にはどうやって行くんぼ?」

「へ?」


 え、だってとりあえず南に行けば良いのでは?


「『リュウグウジョウ』は海底にあるんじぇ。人間が泳いでいける場所では無いんぼ」

「聞いていませんよ!」


 かなり重要な部分ですよこれは!


「えっと、マオの魔力でこう……空気の膜を」

「魔力が尽きたら終わるんぼね」


 容赦ないですね!


「仕方がないんぼ。借りもいつかは返さねばいけないし、人間は長生きしないんぼ。ここはノームたちに任せるんぼ」

「どうするのですか?」

「時間が欲しいんぼ。長い穴を作って『リュウグウジョウ』直結の道を作るんぼ」

「助かります!」


 偶然とはいえ助かりました。ただ、時間が欲しいといわれてどれくらいかかるかわかりませんね。


「それなら一度ガラン王国に行かない? フーリエにも色々『文句』を言わないといけないし」

「そうですね。ガラン王国に行った後に『リュウグウジョウ』とやらに行きましょう!」

「んじぇ。それまでには開通するように頑張るんじぇ」


 そう言って、ノームの小さな手と握手を交わし、ちょうど眠気も来たので一眠りすることにしました。


 ☆


 僕とシャムロエとマオは西のガラン王国へ。ゴルドは東の海を超えたところにある孤島へ行くことになりました。

 今まで一緒に旅をした仲間だったということで、少しさびしさもあります。


「フーリエにはよろしく伝えてください。もしかしたら孤島にも寒がり店主の休憩所があるかもしれませんが」

「わかりました。『リュウグウジョウ』で用件を終わらせたら孤島へ行きますね」

「寂しくなるわね。でもまあ、また会えるならそれまで元気でいなさいよ」

「……パムレットを所望」


 マオのお別れの挨拶は意味不明ですが、とりあえず寂しいという感じは伝わりました。


「んじぇ。トスカ様御一行の旅路が良いものになるよう、土の精霊一同祈っているんぼ」

「ガラン王国は今、色々と変化している最中んじぇ。気をつけて行ってきてんじぇ」

「また会おうんぼ!」


 わらわらとモチモチの物体が手を振っています。振っている手も小さいため、実際はピコピコ動いているだけのように見えますが、まあ見ていて和むので良いでしょう。


「ではゴルド、気をつけて」

「ええ。トスカも」


 そう言って、僕達は一旦別な道を歩むことになりました。


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