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ノームの歓迎

 日が暮れて、今晩はどうしようかと悩んでいたところ、命を救った恩人を是非歓迎させて欲しいということで、ノームの集落に一晩お世話になることになりました。


「……ノームの集落のご飯……少し興味がある」

「そうね。精霊のご飯となると、他では味わえない物よね」


 わくわくする二人。そしてゴルドは苦笑していました。


「んじぇ! この度は命の恩人のトスカ様御一行の歓迎会を行うんじぇ!」


 ぽんぽんぽんぽん


 ノームたちは丸いおなかをたたき始めました。人間で言う拍手に近い行為でしょうか。

 そもそも短い手足ですから、拍手が難しいのでしょうか。


 そんなことを思いながらふと奥を見ると、大きな皿をノームが持ってきました。


「ノームのご馳走ね! 何かしら!」

「……ワクワクが止まらない」


 そして出された料理……ん? 料理?



「んじぇ! 素材を吟味し、腕にヨリをかけた一品。『高純度の鉄鉱石』盛り合わせんじぇ!」


 きらきらと輝く鉄。それはまるで一つの工芸品に見えます。ミッドガルフ王が見たらきっと驚くでしょうね。


 そして僕の隣の女性二人は先ほどの笑顔から一転して無表情になりました。


「むぐむぐ。まあ、精霊の料理ですからね。むぐむぐ。こうなることは。ごくん。予想していましたよ」

「ゴルドしか喜ばないこの状況下でよく平然と食べれるわね!」

「……燃やす。いや、溶かす!」

「んじぇ! お、お気に召さなかったんぼ!」


 ノームがあわて始めました。


「ノーム、彼らは人間です。一人は鉱石精霊の魔力を保持していますが、ほとんど人間です」

「忘れていたんぼ! 人間は土を食べ無いんじぇ!」


 種族が異なれば常識も異なる。それを今垣間見たという感じでしょうか。


「となると……一族の中で唯一野菜を育てることを生きがいとしているノームにお願いするしかないんじぇ」

「……やさい」


 あ、今あからさまにマオががっかりしています。


「空腹は全ての敵よ。苦手な食べ物でも空腹ならおいしく感じるわよ」

「んじぇー。ちなみにノーム達は基本的に土を食べるから、人間のところの『リョウリ』をしないんじぇ」

「……希望が……薄すぎる」


 とはいえ、ノームの手で育てられた野菜です。ありがたく頂戴することにしましょう。食は感謝です。


 ☆


「……マオ、野菜に新たな可能性を感じた。いや、トスカが影で野菜をおいしく感じる音色を出しているとも思ったけどトスカも隣で一緒に食べていると言うことはこの野菜本来の味と確定。つまるところ今まで食べていた野菜は何かしらの問題があり、苦味・えぐみ・酸味など、色々なものが複雑に混ざり合っていたけれどこの野菜は違う。確かにこの野菜は苦いけれど、それ以上に『旨み』がある。数値にすることが難しいこの『旨み』成分にマオは今感動している」


 目をキラキラと輝かせて生野菜をボリボリ食べるマオ。それを見て涙を流すシャムロエ。


「あの野菜嫌いなマオが……こんなに立派になって」


 まるで親ですね。シャムロエはマオの頭を撫でますが、マオは気にせずに野菜をボリボリと食べています。


「お気に召していただき光栄んじぇ」

「貴方が野菜を?」


 周りのノームと比べて少しだけシワがあるノームが現れました。周囲のモチモチとしたノームと見比べると明らかです。


「これはこれはゴルド様。お久しぶりでございます」

「ボクと面識があるノームでしたか」

「ええ。かつてゴルド様がここを訪れたときに、襲撃させていただいたノームでございます」


 何か凄く物騒な会話をやんわりとし始めましたよ。何ですかこの空気は!


「あのときの鉱石の精霊術はお見事でした」

「いえいえ、それよりも知り合いが居て良かったです。見たところ周囲のノームは皆若いノームばかりに思えたので」

「はい。ゴルド様を知っているノームはきっとオイラだけでしょう。オイラはゴルド様との戦闘で鉱石精霊の魔力を多少なりとも吸収し、少し長く生きております。他の精霊は魔力へと変わりました」


 魔力へ変わった……?


「そう、でしたか」


 ゴルドが少し悲しげな顔をしました。というと、『そういう』ことですね。


「……精霊は寿命を迎えると魔力に変わる。まるで砂山が風に吹かれて徐々に飛ばされるように消えていく」

「つまり、あのノーム以外は魔力になり、そして他のノームは新しく生まれたノームなのね」

「人間の死と同じですね。あの一体だけが事情があり長生きしていますが、いずれは……」


 ふと、マーシャおばちゃんを思い出しつつ、老いたノームを眺めました。


「長生きして良いことは無いと思っていたんじぇ。でもゴルド様に会えて良かったんぼ。人間様もどうぞオイラの野菜を存分に楽しんで欲しいじぇ!」

「……おいしくいただく」

「そうね。頂きましょう!」


 そして切なくも楽しい宴会が再開しました。


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