ゴルドの子供?
「……衝撃。まさかゴルドに子供がいるとは思わなかった」
「そうね。見た目が同い年くらいだったから考えなかったけど、実は既婚者だったなんてね」
「あの、忘れていませんか? ボクは精霊ですよ? 結婚という概念はありません」
慌てふためく中、鉄から聞こえてくる声は冷静でした。
『父様がご無事で何よりでした。それっぽい声が聞こえたと思ったのですが、気のせいだと考えていました』
「すみません。フーリエにお願いして手紙でも届けてもらえばよかったですね。あ、声だけでも紹介します」
そう言って鉄の棒に向かって僕達のことを紹介するゴルド。何か滑稽ですね。
「ボクの隣にいる人がトスカ。その隣の少女がマオ。そしてその隣がシャムロエです。ガナリの妹ですね」
「え!?」
『え!?』
いや、何を言っているんですかこの鉱石精霊は!
「あ、いや、人間の兄妹の定義が分からないのですが、ガナリはボクの魔力によって生まれた存在です。シャムロエもボクの魔力の影響で生まれたので、兄妹かなと……」
「話がややこしくなるわよ! だって私には娘もいるのよね? 記憶はまだ戻っていないから分からないけど」
「あ、シャルドネの母親でもありますね。たしかシャムロエが人間の時にとある事件で亡くなって、その後にガナリが生まれたので……年下の……兄?」
「嫌よ! 年下なのに年上扱い? しかも精霊よね? 性別不詳の兄妹ってどういうことよ!」
「……混沌の塊。これはもうどこかで区切りをつけないと終わりが見えない」
マオの言う通りですね。とりあえず手を『パン』と叩いて二人を止めました。
『その音……もしかして『原初の魔力』の音の使い手ですか?』
「え、わかるのですか?」
『数百年前に出会ったことがあります。確かここではない別の世界の人間が、ガナリのところへやってきました』
「音操人が?」
まさかの予想していない展開です。ノームから何かを聞こうと思いましたが、まさかこの鉄の棒から情報を得られる流れになるとは思いませんでした。
「この『音』が操れる自分について、色々と知りたいのです」
『知ってどうするのですか?』
「僕がこの先、何をすれば良いのか、一つの道しるべになればと思っています」
『なるほど。と言っても、ガナリが知っているのはかなり少ないものです』
「それでも教えてください。貴方が出会った人について」
そして、ガナリはふうっと一息ついて、昔話を始めました。
☆
その昔、父様はこの世界の外……『神々が住む世界』に帰りました。
すぐにまた会えると思っていたガナリは周囲の草木に触れて待っていました。
一日……一年……十年。どれくらい待っていたでしょう。
父様の反応は微かに感じるものの、決定的な魔力は見つかりませんでした。
そんなある日、一人の変な服装の男がガナリの前に現れました。
彼は『迷ってここに来た』と言いました。しかしガナリの周囲は『認識阻害』によって守られているはずでした。
どうやら彼は『音を感じて』来たそうです。
そんな彼はガナリにお願いをしました。
『楽器が壊れてしまってね。すまないが作ってくれないか?』
ガナリはその楽器と言うものの重要性がわかりませんでした。ですが、これと言って断る理由も無く、楽器を生成しました。
楽器を渡すと彼は楽器を吹いて、帰り道を見つけました。
冗談だと思い、ガナリは『音を聞いて』彼を追いました。
すると、突然彼はこの世界から消えたのでした。
☆
不思議なお話を聞いた感覚でした。
ガナリが出会った男の話。そして彼の必要としていた楽器とは一体何でしょう。
「えっと、ガナリも音が見えるのでしょうか?」
僕は鉄の棒に向かって話しかけました。
『ガナリは地中を通して世界の音を聞けるだけです。原初の魔力の持ち主の様な能力はもっていませんね』
そういうとゴルドが補足の説明をしました。
「ガナリはここから少し離れた孤島に住んでいます。そこにはボクが生成した大きな鐘があり、小さな音でもガナリなら聞こえるそうです」
「凄い能力ですね。では世界の現状もわかるのですか?」
『残念ながら『音に反響しやすい物質』が無いと聞こえにくいという弱点はあります。それに、こうしてお話できるのはそこに父様が用意した鉄の棒が有るからです』
なるほど。限定的な能力ではありますが、世界の事情を知るにはかなり有効な力ですね。
「……というより、そんな重要な人物……いや、精霊がいるのに忘れていたゴルドもゴルドだと思う」
「そうね。子供を忘れる親なんて最低ね」
「マオの意見は最もですが、シャムロエには言われたくないですね。事情が事情ですからそれ以上は言えませんが!」
わいわいと話す中で、僕だけは少し考えを整理していました。
まずゴルドが『神々の住む世界に帰った』と言われた部分です。そもそもゴルドはこの世界出身ではないと言うことにもう少し聞いたほうが良いでしょうか?
「ゴルドはそもそもこの世界出身では無いのですか?」
「そうですね。ボクはもともとあの『カンパネ』と同じ世界出身です。色々あってこの世界に落ち、色々あって一度『神々の住む世界』に戻ったのですが、返り討ちにあってここに再度落ちてきました」
「想像以上に波乱な人生ですね。精霊ですけど」
ゴルドの事情を深く聞くときっと一日では収まらないほど長いお話になりそうですね。後日断片的に聞くとしましょう。
『父様、ガナリのところへは来るのですか?』
「あー、そうですね。次の土地へ行った後に行こうと思いましたが、ボクだけ先に孤島に行くのもありですね」
「と言うと、この先は別行動ということかしら?」
「……少しさびしい」
シャムロエとマオが少し落ち込みました。
「あはは、ありがとうございます。ただ、次の場所はボクも知らない土地ですし、何よりかつて『海の地』と呼ばれた地域でしょうですから、ボクはなおさら行けないのですよ」
精霊にとって何か不都合な場所なのでしょうか……もしや悪魔が大きく関わっている場所とかですか?
だとしたらシャムロエも他人事ではありません。
シャムロエと僕はつばを飲み込み、ゴルドの発言をよく聞きました。
「海ですからね。『サビ』るのですよ。体のあちこちが」
想像以上に僕とは縁の無い悩みに、反応に困りました。




