ノームの集落の祭壇
修復されたクラリネットの音色は、自分で出した音とは思えないほど綺麗なものでした。
細工しなくてもまっすぐ飛んでいく音。その音に心を躍らせながら楽しく吹いていたら、予想外なことが発生しました。
「ん?」
「どうしたのよ?」
「……楽しい演奏、終わり?」
「いえ、音が戻ってきて……いや、響いている?」
違和感を感じつつ、軽く口笛を吹くと、再度音が返ってきました。
「やっぱり。あっちから音が跳ね返ってきます」
「んじぇ? あっちは『祭壇』があるんぼ!」
ノームがぴょんぴょん跳ねながら答えました。
「トスカ様はおいら達の恩人じぇ! 特別にトスカ様御一行は祭壇に入ることを許すのじぇ!」
「祭壇……」
ゴルドが首を傾げました。何か心当たりがあるのでしょうか?
まあ良いです。そもそもノームの集落に来るという貴重な経験から、さらにノームの集落でも神聖な場所とも呼べる場所に行けるなんて、光栄なことですよね。
「案内してもらえますか?」
「んじぇ! こっちんぼ!」
「あ、インプは待機してんじぇ」
「ぎゃー」
落ち込むインプ。ですがインプはノーム達を苦しめた張本人でもあります。原因はどうあれ、何かしらの罰はあるのでしょうか。
「あの、インプにそこまでひどい罰を与えないでもらえますか?」
「んじぇ? と言うと?」
「その、クラリネットを直してもらったので、僕にとってこのクラリネットは親の形見の様な物なのですよ」
「んじぇ。わかったんぼ。そもそもインプにそれほどひどいことはしないんじぇ」
「良かったです」
「土に養分を分けてもらうくらいんじぇ」
基準がわかりませんね。もしかしてインプにとっては呼吸をするくらいの難易度でしょうか。
「ぎゃー! 超重労働が宣告されたのぎゃー!」
あ、つらいみたいですね。頑張ってください!
☆
案内された場所は、中央に祠らしき建造物があり、周囲は太い鉄の棒が数本ありました。
鉄の棒は中心から枝分かれして、根元が一本、先が二本という形状になっています。
「なるほど、この鉄の棒が音を響かせていたのですね」
僕の声が鉄の棒に当たると、鉄の棒は音に反応して揺れました。そしてそれが一時的に増幅されて跳ね返ってきます。
「ここは神聖なばしょんじぇ。かつて神の書物が眠っていた場所ともいえる場所で、ノーム以外は立ち入り禁止んぼ」
「そうなのね。確かに神秘的な雰囲気ね。特にこの鉄の棒が雰囲気をかもし出しているわ」
「……神々しい」
シャムロエもマオも感動しています。実際巨大な鉄の棒が(……あれ、ボクが生成した鉄の棒なのですが……)祠を囲うような形に見とれて……。
「ゴルド、僕は今聞き逃しませんでしたよ」
「あはは、あの小さい声でも聞こえましたか」
「ん? 何かあったの?」
「なんでもありません!」
せっかくこの神秘的な雰囲気に浸っていたのに、実は目の前の仲間の手作りだったなんて、ぶち壊しにも程がありますよ!
「ぶち壊しとは何ですか! ボクだってきちんとした鉱石精霊ですよ!」
いやまあそうですけど、もう『静寂の巫女』や『魔術研究所館長』と出会っていると、『鉱石精霊』がどれくらい凄いかわからないのですよね。
「……今回ほど『心情読破』を使って後悔したことは無い……知らぬが仏とはこのこと」
「ホトケというのは意味がわかりませんが、とりあえずマオががっかりしているのでゴルドは謝ってくださいね」
「わかりました。パムレットの形をした銅の塊を差し上げましょう」
うっ、何かそれは卑怯ですね。
ある意味無限に鉱石を精製できる精霊の特権乱用ですか!
「……食べれないパムレットは、パムレットでは無い」
「かはっ!」
ゴルドがダメージを負いました。予想外だったのでしょうか。
そんな会話をしていたら、急に鉄の棒が揺れ始めました。
「ん? 声が『見えます』ね」
「私もなんとなく聞こえるわね。何?」
しばらくすると、声らしき音がはっきりと聞こえました。
『父様、父様。そこにいるのですか?』
ちち……さま?
一体なんでしょう。
するとゴルドがはっと思い出したかのような表情で声を出しました。
「が、『ガナリ』ですか!」
『父様! お久しぶりです! 生きていらしたのですね!』
しっかりと声が聞こえました。その声はシャムロエとマオも聞こえている様子です。
「あの、ゴルド。『ガナリ』とは?」
「あーそのー」
そして次の言葉に全員が驚きました。
「ボクの子供……みたいなものです」