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新たな息吹

 巨体が倒れた瞬間、ノーム達もパタリと倒れ始めました。


「ちょ、ちょっと! 大丈夫なの?」

「……魔力が安定しつつある。巨大な悪魔の魔力が無くなった事で安心したのか、気絶した……感じ」

「ほっ、良かった……と、言いたいけど」


 シャムロエの視線の先は僕です。僕は折れたクラリネットを持って、ただ呆然とその場で座っていました。


「トスカ……」


 目の痛みが無くなったのか、ゴルドが僕に声をかけました。


「まさか壊れるとは思いませんでした」

「ちょっとクラリネットを見せてください」


 そう言ってゴルドは僕のクラリネットに触れます。


「なるほど、これはいつ壊れてもおかしく無いですね」

「どういうことよ?」

「クラリネットの鉄の部分に触れたのですが、中身が空洞です。それにこの鉄……数百年も昔の物ですね」

「え?」


『そういえば』ゴルドは鉱石精霊でした。そういう部分も調べることは可能なのですね。


「そういえばとは失礼ですね。まあ、最近は馴染みすぎて『悪魔が来ない限り』ボクが精霊ということを皆さん忘れているようですが!」

「あはは、怒らないでよゴルド。私も鉱石精霊の魔力を持っているんだし、常に貴方を鉱石精霊だと思っているわよ」


 いじけるゴルドに少しだけほっとしました。


 その瞬間。


『ゴゴゴゴゴゴゴ』


 鳴り響く地響き。その音の中心は先ほど倒したインプからでした。


「ギャーーーー!」


 起き上がると同時に大声を出すインプ。あまりにも大きい声に思わず手を振って音を左右に散布させました。


「嫌がらせですか? 凄まじい音がボクに飛んできましたよ」


 うっかりゴルドに向かって音を飛ばしていたみたいですね。それはそうと……。


「……起き上がる。『魔壁』を展開」


 マオがすかさず魔術で壁を生成しました。しかし、インプから予想外の声が聞こえました。


「目の調子が凄く良いギャー!」


 巨体のインプから発せられた声はとても綺麗でした。先ほどまでの濁った音とは異なり、張りの有る良い声です。心なしかとても聞き取りやすいですね。


「ありがとうギャー。悪魔の魔力に乗っ取られて、制御ができなかったギャー」

「えっと、貴方は敵ですか? 味方ですか?」

「人間は大好きギャー。もちろん食べ物という意味ではなくだギャー。精霊は……いつもお世話になっております。インプと申します。この度私インプがご迷惑をおかけしなんと申し上げれば良いかと~~」


 急に口調が変わりましたよ!


「アレが精霊の縦社会ってやつね。よく分からないけど」

「……生物は上下を作りたがる不思議な生き物。精霊だけど」

「二人は何で冷静に反応できるのですか!」


 シャムロエとマオに突っ込むと、インプは巨体とは思えない動きで僕の背中に隠れました。というか僕の数倍の大きさなので、ぜんぜん隠れていませんけどね!


「ギャー。精霊様が目の前に……」

「見る限りでは敵ではなさそうですね」

「当然ギャー。むしろ人間とはオトモダチになりたいと思っているギャー」


 震えるインプ。巨体の所為で地味に地面が揺れるんですよね。だんだん酔ってきましたよ。


「……枝の妖精インプは基本的に友好的な存在。『チキュウ』のとある場所では小さな幸せを呼ぶ妖精とも言われている」


 ネクロノミコンを開いてマオは音読し始めました。


「ギャ? 人間、その木の破片はなんだギャー?」

「これですか? これはクラリネット……楽器という音を出す道具なのですが、壊れてしまいました」

「クラリネットは『知っている』ギャー。壊れたのギャ? 木の部分なら修復できそうだギャ」

「本当ですか!」


 え、ほ、本当にできるのですか?


「偶然って怖いわね。『枝の妖精』って木の枝を意味するのね。そして鉱石精霊もいるならできるんじゃないかしら? あくまで知らないから言える疑問だけど」

「シャムロエの言う通りですね。しかもノームの住む洞窟には鉱石が沢山あるので、より良いクラリネットを作れますよ」

「じゃあ……」


 今まで散々大変な目にあいました。


 しかし、全て無駄ではありませんでした。


 数百年も前の道具ならば、普通ならすでに壊れてもおかしくありません。


「精霊様と共同作業なんて、恐縮だギャー」

「こちらこそ、妖精と作業ですか。面白そうですね」

「んじぇ! 鉱石を準備するんぼ!」


 精霊と妖精が僕のクラリネットを見て、それぞれが打ち合わせをし始めました。


「トスカ、何泣いているのよ?」

「……今は心を読むのを自重する」


 シャムロエは僕の背中を強く叩き、励ましました。

 マオは僕の顔を見て、微笑みました。


 涙を流しながら、僕はゆっくりと確実に今一番言いたい言葉を発しました。


「皆さん、ありがとうございます」


 ☆


 枝の精霊インプによって修復された木の部分と、土の精霊ノームが持ってきた鉱石と、鉱石精霊ゴルドが操って鉄の部分を修復し、以前よりも輝きを増したクラリネットがそこにありました。


「これが、僕のこれからの楽器……」


 以前よりも少し重みがある感じがします。


「ギャー。凄いクラリネットと言うべきだギャ。木は百年もすれば劣化するギャ。もちろん先ほどのクラリネットも劣化していたけれど、数百年以上とは思えない木材だったギャ。時間でも止まってたのかギャ?」

「時間……ですか」


 もしかして、マーシャおばちゃんは自分と一緒にクラリネットの時間も止めていたのかもしれませんね。


「でも安心して欲しいギャ。劣化部分や侵食部分は取り除いて、強固な木材にしたギャ」

「鉄の部分も空洞だった箇所や錆の部分は全て修復しました。新品に近い状態ですね」

「なんとお礼を言えば良いのか」


 そう問いかけるとシャムロエは言いました。


「何を言っているのよ。トスカは今まで私達のワガママを聞いてくれたのよ? 私の腰痛、マオのパムレット、ゴルドの封印、ノームとインプの悪魔の魔力の対応。私の腰痛はともかくトスカの行動に対しての報酬としては足りないくらいね」

「さりげなくシャムロエの状況を下手に見ていますが、初回ですからね?」


 ふふっと笑顔が零れ落ちました。


「……うん。笑ったトスカが一番」

「ありがとうございます」

「何か吹いてみたら?」

「そうですね。では適当に音を出して見ますね」


 そう言って僕は新たに生まれ変わったクラリネットに初めて息を吹きかけました。

 気がつけば百話目だったのですね。楽しく活動できているのも、皆様の温かいコメントあってのことです!

 これからも楽しく書き続けますよー!

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