本気で疲れたので、死にたいと思ってたら美少女JKが俺の部屋に上がり込んできた。
ああ、疲れた。
頭が回らない。
とにかくもう……、疲れて疲れて疲れすぎて。
ああ、死にたい。ああ~、死にたい死にたい死にたーい! 健康的に死にたい!
あ? 今日は何月何日だったか?
――今日は12月24日ですよ!
そういえば次の納品の日、いつだったか?
――カレンダーによると納品は26日。あと二日あります!
頭がまるっきり動かないこの状況で。
頭の中に響くこの声は……。
ん? 本当に誰だ??? へいしり? おっけーぐーぐる? 言ってないな。
とうとう、疲れすぎて幻聴まで聞こえるようになったか。
だってもう、自分でも何を考えてるのか、よく分からないしな……。
なんだかな~と思いながら首をぐきりと後ろに向けると、そこには女子高生がいた。
んあ?!
「こんにちは、ヨウスケさん。ヨウスケさんは疲れているんですね。だから死にたいとか思ってしまうんですね。私、あなたを元気にしに来ました」
「……君は?」
「私はJKというやつです」
「女子高生のJK?」
「はい」
確かに服装はまごう事なきJK。
どうみてもJK。
なんてったってJK。
古いか。
それにしても、可愛い。少し茶色のウエーブがかった髪に、くりっとした幼い瞳。若さを感じるぷるぷるとした唇。
俺の唇なんてガサガサなのになあ……。
ぞりっ、と触ってみて唇の嫌な感触に少し凹む。
最近ずっと体調悪いしな。内臓の調子って、唇に出るよな。
「いやいやいや、なんで俺の部屋にいるの?」
「理由がいりますか?」
「いるだろう」
「え~、そうですかあ? じゃあ、あれですね。ええと、私は最近流行りのユーチューバーです。『32歳のおじさんの部屋に美少女JKユーチューバーが押しかけてみた』。この光景は後で編集してユーチューブに乗せたくて」
「えっ。なにそれ無差別テロ?」
32歳 豊井洋輔、未成年者略取で逮捕。うかつにも決め手はユーチューブへの動画UP。
なにそれ、怖いんだが。
「ダメですかあ。じゃあ他のを考えますね」
「考えますねじゃないよ。本当の理由を教えろと言ってるんだ。ていうか、出て行ってくれよ。俺は忙しいんだ」
「そうやって、なんでも撥ね付けてしまうのは、良くないと思います!」
えっちなのは良くないと思います! みたいな感じで言われても。
なんなんだこの押しの強さは。
「えっちなのも大丈夫です。JKですけど年齢はあれなので。AV仕様なので」
「やめろ」
頭が混乱していく。いや、元々混乱していたのがさらに混乱してきたというか。
「うーん、納得のいく情報が必要ということですかあ。なかなか難しいものですねえ」
うんうん唸るJK。くそっ、可愛いな。
「もう、よく分からんが帰ってくれよ……。頼むから」
「困りますよお」
「困ってるのはこっちだよ」
「ヨウスケさんのお母さんから頼まれたので」
「は? それ本気で言ってるのか?」
「はい、本気も本気。本気と書いてマジですよ」
いちいち古い……。
18歳以上というのも本当かも知れないと思ってしまう。
「本当だな!? 嘘だったらすぐ帰ってくれよ」
「はい」
JKはなぜかるんるん言いながら、エプロンをつけて俺の部屋を片付けていく。
制服にエプロン……いいな。
片付けてもらえるのは正直有難い。なにせ、俺は片付けるのが苦手で、本当に苦手で……。時折出てくるGKさえも、挟まって死んでしまうくらいだ。
恐らく潰れているGKの片づけをJKにさせるのは心苦しいが……、まあ仕方ない。
JKが片付けてくれている間に俺は、母親に電話することにした。
「もしもし、おかん?」
『あっ、洋輔か。今電話しようと思てたんや』
「えっ、もしかしてこっちに派遣された女子高生について?」
『そうそう派遣女子高生。いやいや、間違えてないけど、それだけ聞くとなんや卑猥やな』
「卑猥て。おかんが言うなや。おかんから卑猥とか聞きたないわ。いや、まあええわ。けどそんなん来るんやったら先に言うてもらわんと、こっちかって準備ってもんがあるやろ?」
『まあ、ほらサプライズってやつ。流行ってるやろ? あれあれ、あれよ。メリークリスマース』
なんだか投げやりに聞こえるのは気のせいか。
「じゃあ、今ここにいる女子高生はおかんが派遣したってことで間違いないんやな?」
『えー? うーん、まあそういうことになるかなあ?』
なんだか歯切れが悪いな。
「なんやねん。なんでうちに女子高生がおるかちゃんと説明してくれ。こっちは納品締切近くで頭回ってないのにいきなり女子高生が現れてびっくりしてるんやぞ!?」
『いや~、なんやあんた忘れてんのかいな。従姉妹の陽菜ちゃんやんか。あの子がなあ、いきなり『私、洋輔お兄ちゃんが大変だと聞いたので行ってきます!!』言うてやな……。あんた忙しい言うて何十年も何百年も帰ってきてへんから、そら陽菜ちゃんも女子高生になるっちゅう話やで』
「モノマネみたいな裏声やめろや。きしょい。あと何百年ってなんやねん。死ぬわ。五年くらいやろ、帰ってへんのは」
『十年くらいや! あんた、おかんに向かってきしょいってなんやの!!』
「あー、もうええ。分かった。分かったわ。ほな切るで」
『久しぶりに電話してきて、こんだけてあんたそれ――』
――ブツッ。
「はー、うるさ」
「どうですかあ? 分かってもらえましたかあ?」
「!!」
びっくりした。背後からいきなり話しかけるんじゃない、撃つぞ。
まあ、銃持ってないけど。
「なんで最初からそう言わないんだ?」
「何がですか?」
「陽菜、だろ。もう何年も会ってないから分からなかった」
合わない間にいろいろ立派に育ってカワイイJKになっていて、びっくりした。ただ、従兄弟の家に押しかけるのに制服はどうかと思うが。
頭が疲れているのもあってか、ぼんやりとしか像を結ばない昔の顔。
「えへへ、やっと分かってもらえましたか! そうです。私、陽菜です!」
にっこりと笑いかける彼女は……、天使かな?
「最初からそう言えばいいんだよ、全く。びっくりさせて、何がしたいんだ」
「何がって……、それはサプライズプレゼントですかね?」
「プレゼント?」
「はい、もうクリスマスなので」
ええ……?
いや、まあ今日は24日だが……。
「じゃあ、本当に……、東京に観光に来たとかじゃなくて、俺の世話を焼きにきたのか?」
「そうです!」
「うーん、そうか……悪いな。でも、片付けてもらえるのはすごく助かる。じゃあ、任せるよ……。後で美味しいもん食わせてやるから、それでいいか?」
「はい!」
「じゃあ、俺はまた仕事に戻るよ。なにかあったら言ってくれ」
「はい!」
元気いっぱいに返事をして、JK陽菜は俺の部屋の片づけを引き続き進めるのだった。
俺の仕事は、テレビ番組の編集。
この季節は、年末年始の特番の準備やらなにやらで大忙しだ。
一本編集しては、また次の編集……。在宅でやれることがあるだけまだましかもしれない。特番は一本当たりの単価は悪くないし。最近はネットで送受信ができるし、光通信様様だ。
この仕事には、休みがない。完全にオフにするつもりでも、どこかしらから電話がかかってくる。その時点で完全なオフとは言い難いだろうし、旅行なんてもってのほかだ。ま、キー局勤めの奴はちゃんと休みがあると聞いたことがあるが。下請けの俺がそれを欲しがっても、手に入らないのが現実だ。
まあ、食いっぱぐれず、仕事もなくならず……、食べて行けるのだから御の字と言えるだろうか。
世話を焼いてくれる女性がいればなと思ってはいたが、JKがいいとは一度も願ったことはないが……。
いや、JKは好きだが。
ちらりと後ろを振り返ると、ごしごしとキッチンを磨いている陽菜の姿が見えた。
もうすでに、編集機材も置いてあるリビングは綺麗に片付いていた。必要そうな資料は避けて、絶対に必要ないだろうと思われるものだけゴミ袋に入れてくれてある。
ここまで綺麗にしてくれるとは…、飯は奮発してやらないとなあ。
夜の八時ごろになり、仕事もひと段落ついた。一度送って向こうでのチェック待ちになるか。
「飯でも食いに行くか? 今日はクリスマスだし、どこも混んでるかもしれないけど」
「いえ、もう用意してありますよ!」
さながらそれは、魔法だった。
ごちゃごちゃだったテーブルの上がきれいに片づけられて、ローストビーフやらターキーの足やら、サラダやらコーンスープやらが、所狭しと並んでいるではないか。
「いつの間に作ったんだ?」
「ヨウスケさんが、頑張っている間にですよ! 匂いで気づきませんでしたか? お仕事お疲れ様でした!」
エプロンを外して、陽菜は僕の前に座って、赤ワインを注いでくれた。
「この食材はどうしたんだ?」
「ここに来るまでに買ってきてありました! もちろん、この材料費はいりませんので心配しないで下さい」
「それは、悪いよ……」
別にこちらは金がないわけではない。材料費くらい、出すのに。
くっ、とワインを飲む。あ、これブドウジュースだ。
「未成年なので、ワインは買えなくて。ブドウジュースですみません」
「いや、十分だよ。でもやっぱりちゃんと払うから」
「いいんですよ! ヨウスケさんは、いつも頑張っていますから!」
「でもなあ」
帰りに、いくらか持たせることにしよう。片付けてもらった挙句飯も作ってもらって……。見返りの一つもないんじゃそれはあんまりすぎる。
「うーん、じゃあ、キスも含めたそれ以上の事をしてください」
「えぁ?」
なんだ、鱚? 魚? それ以上? キスって出世魚だったっけ? 幻聴か?
「いや、ちょっと待て! ちょっと待て!! それはまずい!」
だって、相手はJKで。
俺は32歳のもっさりした無精ひげのおっさんで。
「さっきも言いましたけど、私大丈夫です。若く見えますけど、こう見えても18歳以上なんですよ?」
「んなわけあるか!!」
「んなわけあるんです!!」
突然服を脱ぎだして、俺の方にずいずいと近付いて、ついには膝の上に乗ってくる。
「おい! こら! やめろ!」
「やめません! ヨウスケさん! 私のこの体を、受け取ってください」
「できるかそんなこと!!」
「できます!」
「できない!」
「できますってば!!」
埒が明かない。
「どうして、俺にそんなに構うんだ。君みたいなかわいい子が。俺はただのおっさんだぞ」
「ヨウスケさん……、今日はクリスマスなんです」
「え?」
「一年に一度、良い子にサンタさんがプレゼントを渡す日です」
「……ああ」
「私を18歳だと思ってくれないなら、プレゼントとしてヨウスケさんをください。18歳以上だと思ってくれるなら、プレゼントとして私を受け取ってください」
「いや、その理屈はおかしい」
どっちも最終的には同じじゃないか。それに俺は子供じゃないから、片方は成り立たない……はずだよな?
「ヨウスケさん、ヨウスケさん、ヨウスケさん……」
「や、やめろ! 俺の服を脱がしにかかるんじゃない!!」
なんて強引なんだ。なんなんだ一体!?
「思い出してもらえなくてもいいんです、ただ思い出が欲しいんです! お願いですから!!」
「思い出ってなんだ! 思い出す!? 思い出すって何を?」
「思い出さなくていいです。クリスマスの奇跡ということでどうかひとつ……」
「なんだ、いったいなんなんだ。……お前は本当に、陽菜か?」
「そうですよ、陽菜です。あの日、病院にいた」
「病院……?」
『君も陽菜ちゃんっていうのか。俺の従姉妹も同じ名前なんだ。同じ字だよ』
「――!?」
細切れに、頭の中に流れていく映像。
この業界に入りたての頃、ADとして行った小児病棟にいた、彼女の名前。
「あの時の……」
「思い出さなくて、いいって言ったのに……」
ただ、撮りたくもないお涙頂戴だけを題材にしたその画を撮っていくのを、俺は傍らで見ていたのだ。あの部屋にいる子は……、ほとんどがもう長くないと分かっていた子達だった。
え……じゃあ目の前にいるこの子は……?
――幽霊か、なにかか……? こんなに、暖かいのに……?
「あ、でもそんなシリアスな話じゃないですよ。私あの撮影の時には、もうほぼ治っていたんです。たまたま、部屋が空いてなくてあの部屋に入れられてただけで。だから私は映されませんでした。それに私の入院理由骨折でしたし」
ずっこけた。
「え、でもじゃあ……ええ?」
ちょっと色々頭が追いついて行かない。
こっちは毎日毎日もう死にたいと思いながら、特番の編集をずっとずっとしていてだな……。
年末進行は本当に本当に、死にたいと思うほど忙しくてだな。
それにおかんのあの話が本当なら、この子は陽菜じゃなきゃいけなくて、あ、でもこの子も名前は陽菜で……。
ん、んん??? あ、だめだ。本当に全然頭が回っていない。
「なぜ、本当は従姉妹でもない私がここにいるか、知りたいですか?」
「できればね……」
「ずっとずっと、ヨウスケさんの事、探していたからですよ」
「へ?」
「最近の若い子って、みんな大体SNSやってますよね」
「へあ、へ、う、うん」
君も若いだろうと突っ込みたかったが、そんな空気ではなかった。
な、なんだ……? 本当にこの話は聞いてもいい話なのか?
頭の中に危険信号が流れている気がする。これ以上聞いてはいけないと。
「同じ名前なんだよ! って言うと、陽菜ちゃんはすっごく喜んでくれて、割と絡むようになりました。大阪にいるって知ってたので、大阪中の同じ名前の同じ年の女の子と交流を持ってたんですけどね」
あれ、さらっとすごいこといわなかったか?
「陽菜ちゃんがヨウスケさんの言っていた陽菜ちゃんなんだと知った時は、叫んじゃいましたよ。ヨウスケさんが映ってる写真をSNSに上げた時には、保存を一万回しました。あっ、一万回は言い過ぎですね。100回位? それで、陽菜ちゃん以外のはるなちゃんは徐々にフェードアウトしていって……」
「……」
えっ、なんだその執念……。怖い。
ていうか、俺の姿をSNSにアップって……。従姉妹の方の陽菜ぁ!!
「従姉妹の陽菜ちゃんは今、どこに居ると思いますか……?」
「ま、まさか……」
「うちの家にいます♪」
「!! ぶ、無事なのか!?」
「……あのお、なにか勘違いしているようなので言いますけど、陽菜ちゃんは私の友達ですよ? 普通に私の家にいますよ。なんなら電話しましょうか? 指定校で受験が終わってるって聞いてて、冬休みなので、遊びに来てって言ったんですよ。どうやら、陽菜ちゃん……嘘を吐いて東京に来たみたいですけど。それなら、それを利用しない手はないなと思って私が来ただけです。鍵はもちろん陽菜ちゃんから」
「な、なんだ……」
ほっとした。従姉妹が俺のせいでなにか変な目に遭っているのではないかと。
いや、変な目に遭っているのは俺の方か。
「でも、私気づくのが遅かったんです……」
「なにをだ……?」
ごくりとつばを飲み込む。
「別に、陽菜ちゃんをダシにしなくても、一人で来ればよかったなって!!」
「!!」
「無駄にヨウスケさんを怖がらせる結果になってしまって、後悔しています。さあ、これで謎は解けましたね? では、メリークリスマス! Let's性夜!」
「Let's!? 聖夜の字が違うな!? 違うだろ!!?」
ぎゃーぎゃー言いながら上に乗っていた陽菜をどうにかして退けて、ちゃんと服を着させる。
「制服で来たのはなんでだ? 別に普通の私服でも良かったよな」
「ヨウスケさんの出すゴミにJKものが多かったので……。折角今本物のJKなんだしと思って」
「Oh……」
やだ、俺の情報だだ漏れじゃない、やだ……。ていうか、俺のごみ漁ったのこの子……、やだ……。そもそも俺の住所いつ知ったの……。ゴミを漁ってたってことは、前から知ってたってことだよね。本当の従姉妹の陽菜が喋ったのもしかして?
SNSってこわい。
ぐるぐる頭の中で回っている俺の思考を遮るように、彼女は言った。
「ねえ、ヨウスケさん。元気出ましたか?」
「え?」
「私がプレゼントというのは、半ば本気で半ば冗談だったんですけど、最近元気なさそうだなとは思っていました。元気出ましたか?」
「え……あ、まあ、うん」
花ような笑顔を見せる陽菜。
「そうですか! 良かったです! では、帰りますね」
「え、もう帰るのか……?」
「え、泊めてくれるんですか?」
「いや、それはちょっと……」
「ですよね? おかしなヨウスケさん」
えっ、おかしいのは俺なのか?
「で、でも、送るよ……駅まで」
「本当ですか! 嬉しいです!」
陽菜はキッチンの傍にあった濃紺のダッフルコートとチェックのマフラーを着て、俺は、とりあえずその辺にあったモッズコートを羽織った。
ドアを開けると、雪が降っていた。
大阪では滅多に振らなかったけど、こっちに来てから大阪よりはよく見る。
そうか今日はホワイトクリスマスか。
二人で傘をさして歩く。
何本かあるので、一本を渡そうとしたが、陽菜は受け取らないので、仕方なく相合傘だ。
どことなく嬉しそうな表情に、こちらも顔が綻ぶ。
「ヨウスケさん。思い出さなくていいって言ったけど、あの時、10歳の私になんて言ったか覚えてます?」
「あの時……、いや覚えてないなあ」
ずっと仕事で忙しかったし、次の仕事、また次の仕事と切れ間もなかったから、前の仕事の最中のことはどんどん上書きされていった。
「君みたいにかわいい子が傍にいてくれたら、僕も元気になるんだけどなあって言ったんですよ?」
「完全にロリコン発言だな、昔の俺」
あの番組は……陽菜が10歳の時ということはもう8年も前か。まだ24歳……ぎりぎり許される……のか?
いや、アウトだろうな。
あの時はまだ若さがあって、それでカバーできる部分もあって。三徹なんて無茶もしていたけど。今同じことをやれと言われても、絶対にできない。常に薬がキマってるようなハイな気分だったのは間違いない。アドレナリンが出まくっていたのだろう。
「あの時、私……死にたかったんです」
「え?」
「骨折で、入院してたんですけど。鎖骨と腕の骨を折って。原因は階段から突き落とされたからでした。そんなに嫌われてるなんて思いもよらなくて。ただただ、もう学校には戻りたくなくて怖くて」
「……」
「でもヨウスケさんのその言葉で、ヨウスケさんを元気にするのは私の役目なんだ。だから、死ねないなって」
「多分、あの時言った言葉にそこまでの意味を込めてはなかったと思うけどな」
「はい、分かってます。でも、言葉って不思議ですね。ヨウスケさんにとってはなんでもない一言でも、それだけで私は生きていく気力が湧いたんですから。だから、ヨウスケさん。私諦めませんよ」
「えっ」
「私はもう18歳です。結婚だってできる。ヨウスケさんの傍に居たいんです」
そう断言する彼女が、本当に美しく見えた。
「そうだ。私もクリスマスプレゼント、何かもらえませんか?」
「プレゼントって、なにを――」
そう言うが早いか、僕のがさがさとした血色の悪い唇に、彼女の潤んだ唇が触れた。
「――ありがとうございます。今日はキスだけで我慢します。髭が少しちくちくしますね」
ああ、髭を剃って、リップクリームを塗っておけばよかった。
「ヨウスケさん。メリークリスマス」
にっこりと笑って、彼女はICカードを軽やかにタッチして改札を抜けた。
―完―
師も走る師走……。
社会人のみなさん、お疲れかと存じます。
JKに癒されたい。ただその気持ちだけを前面に出して書きました。
よろしければ評価感想など頂けますと幸いです。