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御伽月詠  作者: 門部ラン
序章『奏士』
4/5

4『綻び』


少女の手首に手が巻きついた。


「!!」


「――――っ――――」


初めて術を破られた少女の戦慄も知らず、奏士青年は今一度、敵とみなした相手を掴んだ首ごと壁に押し付けた。


「っ......、!」


「久遠石は、どちらに」


「...見苦しいとは思わないの?」


窮地に立たされてなお、桔梗は非難の視線を彼に浴びせる。


「自分で記憶を他人に投げ出しておきながら、女の首を締め上げてまで躍起に取り返そうとするなんて...シビトさんだったかしら?同感よ。ご執心なんて、らしくない」


「久遠石は、どちらに」


「絶対に渡さない」


少女は強く言い切る。


「母の形見よ。あなたの身勝手な目的のために手放すなんてごめんだわ。他を当たって頂戴」


「......」


奏士は少女の言葉を無視して、彼女の身体を見回し――――短刀の柄で、細い右の二の腕を小突いた。


袖布を通して、コン、と鈍い金属音が響く。


腕輪(ココ)ですね」


「!」


目当てのモノを探し当てた物盗りに、少女の紫紺の瞳はいよいよ怒りを宿し――――矢先、青年の手が首から離れる。


疑問が湧くより速く、闇から飛び出した一振りの短刀が、青年を狙う。


「!」


青年は闇の向こうに刮目しながら、偶然持っていた短刀は冷静に投擲を叩き落とす。


「どなたです」


彼は懐に手を入れ、抜きざまに札を投げ放つ。

霊符と呼ばれる霊術師の小道具(てさき)は、点火したまま宙を漂い、路地裏を、その先にいる敵をほの明るく照らし出す。


真っ先に目に飛び込んで来たのは、鬼の面だった。

白地に青い塗料で描かれた、不気味に表情の抜け落ちている鬼の(カオ)

忍装束に身を包んだ刺客である。


「「――――!」」


驚きは二人に等しく、しかし、心当たりはそれぞれに異なった。


「あの面は...」


「――――来た」


思い出しかける青年に、悟ったように呟く少女。


そのどちらにも無遠慮に、鬼面(あちら)が短刀片手に飛びかかる。


「!」


刹那のうちに勝敗は決した。

霊符を使うまでもなかった。


斬られた忍者は血を吹くが、その様がおかしい。


命を絶たれた瞬間に、刺客の姿は噴き上げた血飛沫ごと、黒霧のなり損ないのような粒子となって消える。

それはまるで、人の手に歪められた輪廻の道を通って、またどこかへ還っていくかのような...


その眺めに呆然と立ち尽くす、少女の身体を手が捕まえた。


「っ...!!」


伸びてきた腕は二本に留まらない。

振り向けば、先の刺客と同じ装いの(シノビ)たちが、幾人も潜んでいた。彼らは寄ってたかって、少女の肢体を雁字搦めに締め上げていく。


「っ、卑しくってよ!!!」


鋭い声とともに、少女に触れていた手首が爆ぜ飛んだ。


長時間の心身干渉に加え、先に放った霊力波が、少女の消耗を引き起こした結果として...彼女はそのまま崩れ落ちる。


「!」


前方集団と対峙していた奏士が振り向けば――――コツン、と足元に何かが当たる。


精緻な彫刻の施された、腕輪だった。

中央に収まっている虹みがかった蒼い石は、間違いない。シビトの要求に見合う、大粒の久遠石。


青年は腕輪を拾い上げた。



そこで終われなかった(コト)が、すべての始まりであり、彼のすべてであり。




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