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あなたが死ぬまでのデスゲーム  作者: Estella
第一章 第一回デスゲームファースト
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準備フロア―3

「私はあちこちの扉に入って、どこか隠し扉がねぇか見てたんだよ。そしたら、右二番目、つまり右の扉でこの部屋に一番近ぇところだな、そこに隠し扉がありやがった。私はそこを通ってここまで来たんだよ。まァ、あの扉が本当にここに通じるかどうかは知らなかったからな、色々試しながらだったわけよ……ちきしょぉ、強がらずに貴様らと同じグループに入っとけばよかったぜ」


 ぺらぺらといきさつを喋る雪絵に、あなた達はやや拍子抜けする。もっと警戒されるかと思っていたのだから。

 だが先程初対面である優とこのデスゲームの中楽しそうに喋っていたので、もしかしたら状況適応性が高いだけなのかもしれない。


「私達のこと、警戒しないんですか? 私なんか、あとから入ってきましたし、というか、ペア作らなかったんですね……」

「警戒したって意味ねぇだろうよ。私はもう吹っ切れてんだ。あいつらの話聞いてると、好き勝手私達を殺せる可能性がある。だからこそ……生きて帰って……小説のアイディアにするんだ。絶対超大作を産んでやるから、待ってろ! 貴様ら、少なくとも十冊は買いやがれよ! あとアレだ、ペアは単純に合わなさそうってだけだよ。私に友情も信頼も無理だ。サイコホラー小説が得意なんだよ!」

「えぇ……。……はい! 勿論です。なのでまずは情報を整理しましょう」


 雪絵の目に宿る熱情。クリエイターとしてのプライド。彼女は逃げていなかった。現実という最も目を背けたい物から目を逸らさなかった。

 デスゲームなんていう、現実ではありえないような最悪のゲーム。それを二階堂雪絵という女は、クリエイターとしてバネにした。

 そうだ、確かに実際デスゲームを体験するなんて普通に生きていてできる経験ではない。

 小説家ではなくても、クリエイターならこれを見逃すはずはないのだ。精一杯やって生き残って、その成長も緊張も恐怖も全て文字にする。

 確かに、今までの常識を覆すレベルで話題のデスゲーム小説が出来上がりそうだ。


 全員で生き残ろう。

 そして全員で十冊ずつ買って、彼女の売り上げに貢献するのだ。

 心も体も疲れ切ってしまっているあなた達は、そうして己を鼓舞することでしか生き残るための力を摂取できなかった。

 ふと気を抜けば、もう死んだほうが楽なのかもしれないと思ってしまう。

 対立するネガティブとポジティブな精神が、正常な思考を邪魔する。それを防ぐためには、気力を、精神力を、どこかで摂取しなくてはならない。


 でも、多分雪絵にそれは必要ない。

 知識がないだけなのかもしれないが、普通の人間とは違う小説家としてのプライドが、彼女の諦めという感情をせき止めているのだ。

 その強さに感化されたあなたは、今度は自分が役に立たなくてはと情報の整理を申し出た。


「おう。私がここに来た時は、何故かベッドの下だったんだ。勿論、扉から出たんだ。階段を上った覚えもない。そんで……今、あっちの鉄の扉を開ける鍵を探してたんだよ。隅っこにありそうだったからな。あそこ、開かねぇんだよ、クソ気になるってのに」

「そうだねー、ちょっと刃さんがカギ探してみようか。カンナちゃんと刃さんの二人じゃあ不安かな?」

「……いえ、私は、特には」

「あ、私ですか? 丁度今、探索手伝いますって言おうとしてたんです」


 くそー、と背中を逸らせてとてもとても変な体勢で顔を抑える雪絵。そんな彼女の変人ぶりを刃が華麗にスルーし、あなたや澪規(と雪絵)に声をかけた。

 あなたは彼が信頼してくれたことに喜び、澪規は短い意思表示だが反論はせず、雪絵は未だ引っ張っているのか地面に這いつくばっている。彼女には漫画に出てきそうな効果音がふんだんに使えそうだ、とあなたは場違いなことを考えた。

 まあ、それを雪絵に言ったのならば、創作家クリエイターとして冥利に尽きる! と今にも踊りださんばかりの勢いで叫んだことだろう。


 澪規は扉や地面に仕掛けがないか探索してくれるそうだ。雪絵は引き続き鍵なしで例の、奥へ通じるのだろう扉を突破するべく努力するらしい。

 まず、あなたが探索したのは彼女が通ってきたと言うベッドの下だ。確かに、飾り付けられたベッドとは不釣り合いな閉じられたシンプルグレーのドアがある。

 だが彼女は別に体を倒して入ったわけではない。普通に歩いたのだ。そしたらベッドの下に出たのだという。

 もしベッドの高さが低かったら、頭をぶつけていた事だろう。高さは、人二人が這いつくばることができるくらいだ。気を付けていれば問題はない。

 地面に手をかけて、隅っこに姿勢を低くして体勢を整え、扉を閉める。不可能ではない。だが果たして手は扉に届くのだろうか。


(でも、ユキエさんが嘘を言っているとは思えない。彼女は過去の回想をしてから苦々しい表情をしたはずだ。それは恐らくジンさんやレイキさんも分かったから、追及はしてないんだ……でも、やはり疑問はいくらでも出てくるな……)


 そう思いながらも、ひとまずは扉に何か引っかかっていないか探る。これ以上雪絵に聞いても意味はないだろう。

 下手したら私を信じてくれないのかと余計な解釈を招くかもしれない。

 それに、よくわからないという返事しか来ないだろうというのがあなたの予想だ。本当に必要ならば聞くが、今は良いだろう。


 あなたは光の届かない、暗くなっている隅に手を伸ばした。正確には、扉が開く危険性も考慮して体半分だけをベッドの下に入れてしまっている。

 なので、大きなベッドではあるが辛うじて手は届くのだ。

 すると、何か引っかかるものが手に当たる。あなたはそれを手に取り、確認する。掌より一回り大きいカードだ。一番先に目に入ったのが―――。


『このカードに書かれている内容の他言を禁ずる』


 あなたは急いでカードをあなたにしか見えない、体で隠れている死角に置いて、内容に目を通した。


『裏側の、役職の書かれているカードを表にして『開け』と念ずればステータスが開くことだろう』

『この面のカードを表にして念じれば、ルール説明が出てくることだろう』

『そして、カードを一度空中に放り投げキャッチすれば、各ゲームの役職の説明が表裏に出てくることだろう』

『以上が、準備フロア試練内容だ。このカード発見で君の試練は終了である』

『引き続き、デスゲームを楽しんでくれることを期待する』


 あなたは目を見張る。そうか、このカードを見つけることが準備フロアで提示された試練なのか。あなたは糸がつながった気がした。

 ジョーがあちこちを探索してくれと命じたのは、このカードを見つけやすくするため。

 第一回デスゲームのマスターの一人としては、はやめにメインのデスゲームを始めたいと思うだろう。なので、そのための前置きは簡単めにしておくのかもしれない。


 それにしても、カードの内容は他言無用か。

 これではこのカードをどうするべきか、楓にすら相談はできない。カードのことすら話せないのは、友人としては少し首を捻ってしまうものがある。

 カードを隠すのは問題はない。制服のポケットにすっぽり入る大きさだからだ。


(ん……?)


 唐突に、あなたはある事に気が付く。もう一度カードの言葉を複数読み返してみる。読み間違いはなかった。

 もしあなたの仮説が間違えていないのなら。

 けれど、もし間違えていたのなら、この活殺自在のデスゲームで、あなたは果たして生きることはできるのだろうか。


(内容は他言無用―――他言無用なのはカードに書かれた内容だけ。つまり、このカードの存在自体は、人に喋って良いという事?)


 恐らくこの仮説は間違っていないと思う。もし本当に刃の言う通り、フロアリーダー達が嘘をつけないようになっているのだとしたら。

 このカードも、微妙な言葉回しで惑わしているだけなのかもしれない。

 けど――けれど、もし違ったとしたら?

 あなたは思わずその場に固まって動けなくなってしまった。あまりにもの、恐怖。そして、みんなに、楓にこれを伝えたいという気持ちが駆け巡ったために。


(でも、ユキエさんの言う通りだ。吹っ切れなくちゃいけない。デスゲームを生き残るためには、時には危険な賭けも必要なんだ。この説は絶対に間違っちゃいない! だって間違っていたら、わざわざそうは書かないはずだ。これから様々なゲームをして行きたいのなら、ここで罠にはめて人をどんどん減らすことは控えるだろう……後が続かないからだ。という事は、この内容は嘘じゃない……! 気を確かに持て、私! いつまでも怖がってちゃ……、


 ―――また、あの時みたいに誰も守れやしないんだ)


 あなたはポケットにカードを入れて、立ち上がる。楓のことではない、あなたの人生までをも左右した大きな事件を思い出したがために。

 あなたにとって心の傷となった事件は、二つある。楓の例の事件。そしてもうひとつ―――。


「ジンさん、レイキさん、ユキエさん、少し、相談したいことがあります」

「んー、何だい? なんでも言ってごらん」

「……」

「おうっ! きちんとネタにしてやるから、覚悟しとけよッ!」


 笑みを浮かべる刃。無言でうなずく澪規。この状況でも明るくふるまえる――強がりかもしれないが――雪絵。

 三人の顔を眺めて、あなたは冷汗を浮かべながら口を開いた―――。

雪絵姐さんの胆力は見習いたいものです。

ここまでくるともはや作家パワーではなく、天性の胆力が鋼なだけ……。

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