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あなたが死ぬまでのデスゲーム  作者: Estella
第一章 第一回デスゲームファースト
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準備フロア―2

 しばらくすると、白衣をなびかせながら刃が戻って来た。その手には先程まで地面で光っていたものが握られている。

 鍵の形をしているようだ。もしかしたら、そのカギでしかこの巨大な扉は開かないのかもしれない。

 刃があなたの隣まで戻ると、彼の手にあるものが鍵であることが明確に分かった。


「どうやらこれはあの扉を開ける鍵みたいだよ。見てみたが、鍵穴が合っている。多分間違いないだろう。行くか行かないか……どうする、カンナちゃん?」

「もうみなさん各自他のところを探索していますし……行かないという手はないでしょう。信じれるかは分かりませんが、レーン・ラックーも罠はないと言っていますし」

「真実を確証できない今は、敵の言葉でも信じるしかないという事だねー」


 今更皆の行った扉へ行っても、もう何か見つけているかもしれない中で、何も知らないあなた達が入るとかえって捜索の邪魔になるだろう。

 そう思ったあなたは意見を言葉にしたのだが、刃はすぐにそれを採用した。

 少し驚いたあなたは澪規の方を見たが、彼もまたあなたの意見に同意しているようだった。無表情無機質無感情ながらも、少しの熱意が瞳から伺える。


 あなたは先を行こうとしたが、刃と澪規に止められる。結局、あなた達は横に並んで歩くことになり、あなたは真ん中に挟まれることとなった。

 あなたは別に一番前でも良かったのだが、いくら強かろうと女子なのは変わらないからと二人は妥協しなかった。

 それはそれで有難い。怖くないと言えばうそになるからだ。

 並んだまま、扉の前へ立つ。鍵を差し込んだ瞬間に何か起こる可能性もあるので、刃が出来るだけ遠くから腕を伸ばして鍵を差し込むことにした。

 勿論澪規とあなたは何メートルか離れたところに立たされた。何を言っても一切聞かないという刃の表情の圧力に押され、話を聞くしかなかった。


 その威圧も、レーンたちのような殺意によって生み出されたものではなく、心配と思いやりに満ちたものであるとわかっているから、何とも心地いいものではあるのだが。

 見れば、澪規もほんのわずかに口角を上げている。そう、表情筋が誰が見ても分かるくらい動いているのだ。

 それが見えたのはあなたの幸運であり、彼の表情はまたすぐに消えてしまったが。


 カチャリ、と鍵を回す音が聞こえる。ぴん、と緊張の糸が張りつめる。だが、何も起こらなかった。緊張の糸が、緩やかにほどけていく。


「鍵を開けるのに手間取ったなー、入って良いと思うぞ、多分な。あ、刃さんが先に入るからレイキくんとカンナちゃんはそこで待ってな」

「いや、さすがにそこまでは大丈夫です! いつまでもジンさんを頼っているわけにはいきません!」

「んー、そうか? 危険だけど……いいんだね?」

「えぇ、私も構いませんよ……」


 やはりあなた達を守ろうとして体を張る刃に、さすがにそこまではとあなたが反論する。澪規も同じだったようで、こくりと頷いて珍しく言葉を発していた。

 刃はそうか、と言いながらも、悔しそうだったり悲しそうだったりはしなかった。たまに見せる複雑な表情は、稀にしか表れないのかもしれない。


 扉を開けて中に入ると、中は真っ暗だった。あなたは冷静を努め、電気がないかどうかを探した。スイッチは壁にある事が多いので、壁に半ば張り付いて探す。罠がないというのなら、壁に罠がある危険性を考慮する必要はない。

 今まで罠がなかったからと言って軽々と敵の言葉を信じるのは確かに難しいが、びくびくしていたら話は進まない。

 デスゲームなのだから、死に、生に向き合わなければいけない――。


 すると、あなたの身長と同じあたりに小さなスイッチが見つかる。押したら爆発―――なんてことはないと思うが、少し不安にはなる。

 押すべきか押さないべきかと戸惑いたじろいでいると、唐突に音声が鳴り響く。


《電気作動開始まで 残り 一分》


 無機質な、このデスゲーム会場に来てから、そして日常の世界でも聞いたことのない冷たい機械の声だ。


「えと、一分後に押しても大丈夫だと思います?」

「大丈夫だと思うよー。それに、罠がないのは本当だと思うんだ。これでも、言葉の内を読み取るのは得意でね……カンナちゃんもそうだろう?」

「そうですね……嫌いではありません。私が人の感情に敏感なのはそんなに好きじゃなかったのですが、こんなところでは役に立つのですね」

「そう、だな」

「……刃さん、一分間カウントお願いします。一分後に押しますので」


 心配そうに振り返ったあなたに、刃はひらひらと手を振って笑い返した。澪規も無言だが頷いている。

 それに続いたあなたの言葉に対して、刃は詰まった返事を返してきた。表情は確かにいつものままだが、何処か陰りが見える。それには少し、心配するような暖かい感情があった。あなたはそれをなんとなく感じ取って気恥ずかしくなり、カウントをお願いすると言ってごまかした。

 彼の言う通り、あなたは人の感情に敏感だ。

 楓をいじめから助けたときも、体をちくちくと刺してくる不快な雰囲気に耐えられなかったからだった。例え自分に向けられていなかったとしても、他人にこれが向けられているのだと思うともっと耐えられなかった。


 でも、助けられる時と、助けられない時がある。

 例えば中学生の時だ。楓を助けてから一か月もない時、彼女が不良に絡まれた。その時、あなたはいじめグループに椅子に拘束され助けに行くことはできなかった。この目で楓の顔がしっかりわかる――楓からは死角であったが――、そんな距離に居たと言うのに。

 心に突き刺さる少女の恐怖心と、不良の汚らわしい快楽心と、いじめ集団からの楓とあなたへの侮蔑と殺意、そして恨みと怒り。

 その時をあなたは今も決して忘れられない。出来るすべての事をして、口を塞いでいたいじめグループの少女の手を外し、楓の名前を叫び、不良集団が逃げていったその事件の結末を、あなたは決してハッピーエンドなどと思いはしない。


 あの後、いじめグループは白を切った。私達は何も知らない、と、彼らはあなた達のいる前でそう言ったのだ。

 不良集団を呼んだのは彼らだと言うのに。

 結局彼らには何も罰は下されず、あなたも楓も何も言われなかった。ただ、心理カウンセラーが何日か家を訪ねてきただけだった。

 ただ、楓はそれについて何も言わなかったため、心理カウンセラーが彼女の家も尋ねたかどうかは分からない。

 普通ならば彼女が最も訪ねられるべきなのだが、あなたは詳しく聞かなかった。

 思い出したくもないくらい―――あなたにとっても楓にとっても、心の傷(トラウマ)になった事件だったから。


 ―――話が大きくそれてしまったが、これが、あなたがあなたの特技を嫌う原因のひとつだ。

 時に役立ち、肝心な時に全てを察してしまうのに何もできないこの、虚しくて無力な自分の特徴が。好きじゃなかった。嫌いだった。大嫌い、だった。

 あなたはこのデスゲームが大嫌いだ。

 けど、この能力はやはり大嫌いなデスゲームの肝心な所で役に立つ。立ってしまう。―――微塵も嬉しくはない。悲しい。嫌いだ。やはり大嫌いだ。

 こんな能力を持っている自分も。それなのに守る能力はない自分の事が。


 ―――だから、心が揺らいだとかじゃないのだ。

 今までの楓や、刃や澪規が心配してくれているのかもしれないとか察してしまって、嬉しくなったわけでは、決して、ないのだ。ないんだよ。

 好きじゃない。心配される自分が。嫌い。察してしまう自分が。大嫌い。この特技を最大に役立たせてしまうこのデスゲームが。


 ―――大好きだ。こんな自分でも心配してくれるみんなが。

 ―――心配されて喜んでしまうのだから、やはり好きなんだ、自分の事が――。


「……一分」

「行きます……!」


 電気のスイッチがゆっくりと押される。カチリと小気味いい音がして、部屋が急激に明るくなった。そこは、子供部屋のように見えた。

 ピンクで揃えられた可愛らしい家具。そして、部屋の奥の隅に置かれた高級そうなベッド。明るい雰囲気に見合わない、そのベッドの横に置かれた錆びた鉄の小さな扉。

 ―――そして、ベッドの置かれている方ではない隅で縮こまって何かを調べている、二階堂雪絵が、そこに居た。


「ユキエさんっ!?」

「なァッ!? 少年、少女よ、貴様ら、どう入って来たのだっ!?」

「どうも何も、向こうの大きい扉からだよ」

「何だクソ……あそこは開かないのかと思っちまったぜ……」


 あまりにもの驚きで、あなたは強制的に意識を回想から現実に戻すしかなかった。それと同時に、あなたは縮こまる女の名前を口にする。

 雪絵が目をこれでもかというくらい見開いて、刃の指差した巨大な鉄の扉の方向を見、そして落胆する。

 どうやら鍵が落ちるタイミングに遭遇したあなた達が幸運だったようで――恐らくレーン以下二人組が仕組んだのだろうが――雪絵はあの手この手を試してこの部屋に入ったらしい。


「クッソォー、めっちゃ頑張ったのによォ……貴様らは正面突破かッ!! 理不尽ッ!」


 落胆したかと思えばヒステリックに全身を震わせながら叫ぶ変人さ。創造家クリエイターとは皆こうなのか、とあなたがやや呆れたのは仕方のない事である。

 現に刃も大きくため息をつき、


「まーまー、とりあえずどうやって入ったのか説明して欲しいんだがね」

「あァ、説明してやるぜ。私はな―――」

自分を好きだって言える人は凄い人。

自分を好きだと言えるのは大切な事。

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