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あなたが死ぬまでのデスゲーム  作者: Estella
第一章 第一回デスゲームファースト
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準備フロア―1

『まず、何回かデスゲームは繰り返されるのですぅ~、一回のデスゲームは三つのメインゲームに別れていますよぉ~、例えばこの先行われる第一回デスゲームも三つに分かれてますねぇ~。

 第一回と第二回の違いですがぁ、階層の違いですねぇ~、第一回デスゲームファースト、セカンド、サードが終わりましたら、二階フロアへ移って第二回デスゲームを開始するのですぅ~、どうですかぁ、私の説明、分かりやすかったですかぁ~? えへへぇ~?』


 つまり、第一回デスゲームは第一階で行われ、それぞれファースト、セカンド、サードがあり、それをデスゲームが進むと同時に第二階第三階と階層を変えて連なっていくという事だろう。

 どこまでこのデスゲームが続くのか、あなたは思わず諦めてしまいそうだった。此処へ来た時のように、足がふにゃりと柔らかくなるのを感じる。

 目の前がちかちかする。ジョーの声が非常に遠くから聞こえるように感じる。


「――カンナちゃん、大丈夫だ。脱出の方法をみんなで探せばいい」

「ジンさん……ありがとうございます」

『―――もぉ~ぅ、ちゃんと私の話を聞いてくださいよぅ。ですがぁ、そぅ簡単にファーストゲームを始めてもつまんなぃと思ぅんですよねぇ~! ですからですから! 色んな休憩場所、施設を用意していますょ! 私が用意したんですよぉ~、褒めて下さぃ~!』


 そんなあなたの肩を支えたのは、目尻を下げて薄く微笑む刃だった。先程からこの人に世話になってばかりだ、と思ったあなたは感謝の言葉を口にした。

 更に先程のことも感謝しようとしたが、口をとがらせわいわいと騒ぐジョーに止められる。そして、彼女の口から更に物騒な台詞が飛び出たのを、あなた達は聞き逃さなかった。


「ハァ!? 簡単に出すつもりはねぇってことかよ! つーか、第一回デスゲームファーストが始まる前になんかあるってことかよ……一体何なんだよ!?」

『んー、ファーストだけじゃないですよぅ? セカンドも、サードも、その前にはスペシャルサービスが待ってぃますよぉ~、楽しんでくださぃなぁ~、えっへへへ~』


 微妙に会話がかみ合っていない。

 ふにゃっと笑みを浮かべるジョーは傍から見れば可愛いかもしれないが、ぬいぐるみの口から飛び出しているナイフや拳銃を見れば全くそうは思わない。

 恐らくジョーは全身に凶器を持っているのだ。いつでもプレイヤーを制圧できるように。あなたは口から飛び出しそうになった悲鳴を堪える。

 先程までは自身の恐怖と怒りでさほど気にならなかったが、彼らの怒りを買うことが―――どんな結末に繋がるのか、想像もしたくない。


 大声を上げて質問をした本人である雪絵も気が付いたようで、のどまで出かかったのであろう言葉を引っ込めていた。

 そんな雪絵と微笑むジョーを見かねてか、雅人がため息をついてジョーを見る。


「それよりも、そのファーストの前に行われるナニカの説明をしてくれないかな。そうじゃないと何も進まないんだけど」

『んぅ~、わかりましたよぅ~。お望みとあらばっ、なのですぅ、私は仕事熱心な情報係なのですよぅ~。さて、説明なのですがぁ、実は皆さま、今回の『準備フロア』では、殆どやることがないのですぅ。ですが、あちこちを探索したり休憩をしたリしてほしぃのですぅ、お疲れのようですからねぇ!

 そして、皆さまが全員私達の思い通りのものを探し当てましたらぁ、第一回デスゲームファーストに進みますよぅ~、なので、探さなぃとかは無理なのですぅ~!


 ―――ちなみに、違反者は即粛清いたします。私が、この手で。

 ―――ですので、変な気を起こしたりしないでくださいね、みなさん?』

「っ……!?」

『皆さまはお客様なのでぇ~、私ぃ、手荒な事はできればしたくないのですよぅ、では、始めなのですぅ。私は隅っこに立ってますから、情報が欲しい時はいつでも! あ、ナラシは向こうの隅っこにいるので、向こうでも大丈夫ですよぅ~』


 急に口調と態度、そして威圧感が変わったジョーに、あなたは足がすくむのを感じるが、決して倒れぬよう鋼の自制心を持ってして耐えた。

 もうさすがに刃に助けてもらうなんてことはない方が良い。女子高生だからとはいえ、このデスゲームで弱くなってはいけないのだ。

 あの瞬間のジョーは、口だけ笑っていても目は笑っていなかった。そして、ぬいぐるみの口から様々な武器が飛び出て、ガシャンと無機質な鉄の音が室内を支配していた。


 嬉々としてフロアの暗い隅っこに体操座りをして座り込む今のジョーとは、比べるべくもない。ちなみにナラシもゆっくりとした足取りで反対側の隅っこに体操座りをしに向かっていた。

 二人の目がまるでスイッチが切れたかのように光が無くなった所で、あなたは体を縛り付けていた威圧感のようなものが霧散した気がして、ほっと一息ついた。

 そこで、ぐるりと室内を一周回って見る。

 扉が四つ。あなた達から見て左に二つ、右に二つだ。そしてまっすぐ進むと、大きな鉄の扉がひとつ。それ以外はやはり全て青色に染まっている。


「なんで、気が付かなかったんだろう……」


 あなたはぽつりとつぶやく。こんなに大きな存在感のある扉五つを、あなたは今の今まで見つけることができなかったというのだ。

 周りに気を配っていなかったわけでも、視力が悪いわけでもないのだが。

 平和な日本でデスゲームをするような組織だ、こういうことがあってもおかしくはないのだろうか。


「さて、どこの部屋にどんな罠があるかもわからない上にこの中に敵がいる可能性も考慮して、何人かのペアで探索しよう」

「分かりました、ジンさん。リーダーシップ、あるんですね」

「あー、そうかなー、刃さんはそう思わないよ。ただね、守れるものは守りたいだけなんだ」


 淡々と話して居ても良く声が通るカリスマ性を発揮する刃に、あなたは真剣な顔をして頷きながらそう言った。

 だが刃はやや苦笑いをして、次にありがとう、と零すようにして言った。

 その顔は困っているような、悲しいような、寂しいような、複雑な感情が入り乱れた表情であった。


 それについて考え込んでいると、あなたは突然ハッと思い出す。まず当面は捜索のためのペアを組まなくてはならない。

 そう思ってあなたは後ろに居るはずの楓に声をかけようとしたが、楓は既にほかの人に声をかけられていた。


「あぁ、ごめんね環奈。みんなを信用するために色んな人と交流しておきたいから……今回はマサトさんとカナコちゃんと組んでも大丈夫かな?」

「あ、ううん、大丈夫。気を付けてね、何があるかわからないから」

「うん、勿論。環奈も気を付けてよ、トラップとかたくさんありそうだし」

「だよねぇ、気を付ける。じゃあ、行ってらっしゃい」


 友人らしい会話を繰り広げたあなた達。だが、話して居る言葉は全く平和なものではなかった。何より、二人共表情が真剣である。

 さて、これであなたは他に組むペアを探さなくてはならない。

 どうしよう。誰が一番信用できるのだろうか。同じ高校生である優達だろうか、それともリーダーシップのある刃だろうか。

 あなたは周りをきょろきょろしながらも、誰が本当に信用できるのか不確定な今は下手にペアを組むのが少し恐ろしかった。

 普通ならまだしもこの状況で知らない誰かに話しかけるのが怖い、とも言える。


「……カンナさん、ペア、どうですか」

「あ、カンナちゃん、刃さんも良かったら頼むよ。知り合いもいないし」

「あ、レイキさんにジンさん」


 無表情ながらも和らかな雰囲気である澪規といつも通り優しく刃が声をかけてくる。それはあなたにとっては渡りに船だった。

 何度も助けてくれた刃から声をかけてくれたのは、とても嬉しい事である。

 澪規が声をかけてきた理由は分からないが、楓の言う通りそこまで交流したことがない人とも交流し、信用を深め敵を見極めた方が良いだろう。


 デスゲーム、なのだから。

 この先―――誰かを殺すこともあるのだろう。たぶん、きっと。絶対にそんな事したくないけれど。でも、誰かが死ぬゲームだ。

 だから、信用を深めていざというときの発言権をとっておくのは悪い事ではない。けど、生き残るために手段を選ばないという文字だけを見ると、あなたはどうしても眉をひそめてしまう。言い方の問題でもあるのだろうが、それでも……。

 

「先にどこを調べますか?」

「うーん、どうしようか。誰も調べてないそっちの扉から調べてもいいかもな。ちょっと、デカくて怖いのは本音だけどねー」

「……罠が、あるかもしれません」

『罠なんて仕掛けないだのよ』


 並んだ扉を見てあなたが刃に言うと、彼はここからまっすぐ進んだ先にある中央の扉を指差した。壁全体を占める巨大な鉄の扉だ。青で染められた空間で、錆びた鉄が恐ろしく存在感を出している。

 いくつかのペアは端四つの扉に進んだが、誰も中央の扉へ行く勇気がないらしい。それもそうだ、罠があるぞと言っているような扉なのだから。

 しかしそれとは反して、アナウンスを告げるアラームもなく鳴り響いたのは統括連絡人レーン・ラックーの声であった。

 

 他でもない罠があるかもしれないと口にした澪規が、まさかという表情で―――もちろん表情はそこまで変わっていないが―――声がする方向を見た。勿論レーンの姿は見えないので、声のする場所だけが頼りだが。


『特別に教えてやるだのよ。お前達は今から、それぞれ用意されている部屋へ案内されるだのよ。もちろん、休憩用の部屋だわよ。お前達の家ともそう変わらない、ごく普通の部屋だわ。言ってくれれば、ジョーが色々アレンジするだわよ』

『……』


 ジョーから返事はない。人間にスイッチがあるかどうかは不明だが、そういうものがオフになっているのかもしれない。

 そもそも彼らが人間なのかどうかというのも、まだ分かってはいないが。

 彼女の言う部屋とは、いわゆる家やホテルのような間取りをしたアレのことだろう。ベッドがありソファーがありテレビがあってくつろげるアレのことか。

 それにしても自分の家の間取りにもアレンジしてもらえるのが、とても嫌だ。故郷に帰れるかどうかも分からない今の状態でそれは、あまりにも鬼畜だ。


『ベッド、ソファー、机、椅子、テレビが用意されているだのよ。不満なら言えばジョーがテレビ以外なら撤去したり増やしたりしてくれるだわよ。テレビはタブレットのデカい版みたいな感じだのよ。これから行われるゲームで使うだわよ。様々な機能があるだわ、お前らが自己紹介時に言った情報が見れたりするだのよ。まあ、そのほかは自分で確かめるだの』

「レーン・ラックー、貴方はいつも突然アナウンスをするの?」

『しないだわよ。これはお前らにしか聞こえてないだのよ。他の奴らには、あとからジョーが説明するだわよ。幸運に思うだの』


 ―――絶対に嫌だ。

 口には出さないし表情にも出さないが、あなたは内心でそう強く思う。だが、レーンが話したことはしっかりと心のメモ帳に記しておく。


『まぁ、他のことはゲームを進めながら聞けばいいだわよ、優しい優しいアタシたちがいつでも応えてやるだのよ。やれば分かるだわよ、じゃあ、アタシは続けて観察するだのよ』


 それっきり、レーンの声は聞こえなくなった。代わりに、アナウンスを切った音だろうかぶちっという音が聞こえてくる。

 ひとまずあなたの質問に彼女が怒ったり呆れたりしなくてよかったとあなたは一息つく。聞く人によっては、あなたの質問は嫌味に聞こえるから。

 あなたは刃にあの扉の場所へ行こうと言おうとして、鉄の扉の前に光る物があるのを目にとらえた。


「ジンさん、あれ、見えますか? なんか光ってません?」

「ああ、刃さんが見に行くから二人とも動かないで待ってな」


 言うか早いか、あなた達が何か言う前に刃は早足でそちらに向かっていった。

 何やともあれ、とりあえず探索の開始だ。もしかしたら何か見つかるかもしれない。やっと進展が始まったのだ。

 あなたは――勿論澪規もだが――ひと筋の希望を抱いて、頼もしい刃の後姿を見守った。

準備フロアがようやく始まりました。

ちなみに、第二回デスゲームや第三回デスゲームなどでは、こういうフロアの名前がまた変わります。

作者はとても小さなことに本編よりこだわってしまうタイプなので、小さなところにも注目してみると、もうちょっと面白く見られるかもしれません。

例えば、ジョーよりレーンが統括であると知らされた後は、地の文を要所要所でレーンを統括連絡人にしていたりします。

もっと良いこだわりが見られるのは、第一回デスゲームファーストからだと思いますが(笑)

あと中々考察ができるよう仕上げていますので、第二回、第三回デスゲームからは考察日和です。

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