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あなたが死ぬまでのデスゲーム  作者: Estella
第一章 第一回デスゲームファースト
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最初の試練―4

 男は怒りマークが頭に浮き出そうなほど眉を吊り上げ、仁王立ちをする。先ほどの零夜より威圧感があり、迫力がある。

 上下ジャージで、ジャージのフードを深くかぶっている。それでも、若干青い髪の毛が見え隠れしている。

 もしかして彼も加奈子と同じなのだろうか、とあなたは思う。異質だったり特別な人ばかりが集められているのだとしたら可能性は高い。

 だが、自分や楓は一般人だし、あの小さな男の子も物凄い能力があったり、とんでもない身分であったりするようには、とてもではないが見えない。


「オレの名は木之下きのした佐助さすけや。二十五歳、みんなが嫌い恨み嘲笑うご存知ニートじゃよ。嘲笑いたきゃ嘲笑えばええ……クソや……」


 良い終え、彼は片手で顔を覆った。ぎりり、と奥歯をかみしめる音が室内に響く。恐らく彼の身にも何かあったのだろう。

 かと思えば、片手を降ろした後の彼はいかつい面をしたただの男性に戻っていた。悪態をついていた態度も、暗い顔も、全てががらりと変わる。


「すまねぇ、取り乱しちまったんじゃ……。続けてくれや」


 にかっと笑った彼の笑顔は、やや引きつっていたが爽やかだった。顔の奥にちらりと伺える影。あなたは見えないふりをするしかなかった。

 男性―――佐助に何か言葉をかけようとしたが、その前に「ふぅ」とため息をついた、これまた中性的な顔つきをした少年に遮られた。

 紺色の髪の毛に黒のローブ、灰色のシャツ、茶色の毛糸で作られたベスト。少し気弱そうに下げられた目尻。彼の存在そのものが、何故か緊張感を緩める。


「そうだよね、僕が過剰に緊張してても意味ないか。僕は陰神かげかみ雅人まさと、二十歳の大学生なんだけど……家系の問題で陰陽師やってるんだ。失礼だけど、カンナさんの姓を聞いて少し驚いちゃったよ。漢字は違うみたいだけど反応しそうで」

「そうですね……マサトさん、よろしくお願いします」


 恐らくローブは陰陽師として必要なモノなのだろう。ひらがなに起こしたら一緒という親近性があってか、あなたは彼と親しみやすそうだなと思った。

 その腰の柔らかさもそうだし、にこにこと笑顔を絶やさない気弱そうな少年なので、話しやすいという事もある。

 この意味不明なデスゲームの中、少しでもストレスは解消させたいのだ。


 そのほかの五人が手を挙げようとしなかったので、あなたは雅人に色々聞こうと思い「あの」と声を上げた。だが、丁度よくその時―――、


「ぁぅ、ぅううう……ひぐっ……」

「仕方ありませんわね……こうしていても何も始まらないことが分かりましたわ。皆情報を交換し合っているのですし、そろそろわたくしも自己紹介をさせてもらいましょう」


 泣いている男の子の嗚咽が耳に入り、いつの間にか彼の傍に膝をついて頭を撫でていた、茶髪ウェーブの女性が立ち上がってそう言う。

 高級そうな革のコートにミニスカート、そして手に持ったサングラスとやけに高そうに存在を主張する金の時計、明らかに高級なもので作られた革の膝の下まであるブーツ。

 女性がお金持ちであるのは、その外見からも知れる。あなたは少しだけ話しづらさを感じながら、女性の話に耳を傾けた。


「わたくしの名は高峰たかみね佐保さほですわ。二十八歳、とある会社の社長ですのよ。……これ以上の情報は与えませんわ。それで構いませんわね?」

「別にそれでもいいさ。名前と職業さえわかれば、大抵の話は通じるだろう。さて、そちらの二人は刃さん達のこと信頼できたかなー?」

「皆さん情報交換も済んだことですし、そろそろ信頼してもよろしいのではなくて? 名前と職業と年齢……いや、年齢はなくてもよろしいのですわよ?」

「……嫌よ」


 己の髪の毛を優雅に払いながら問いかける女性に対し、中学生らしき美少女は一口で否定する。この中の誰よりも突出して美しい少女。

 中学生にしては美が大半を埋め尽くし、また女らしい要所と違って顔つきはまだ子供っぽい所があり、どこか儚げである。

 子供と大人の美貌を併せ持った今しかない女神のようなプロポーションを持った彼女は、顔をゆがめて嫌悪を露にしていてもやはり可愛かった。


 それは、あなたにとっても楓にとっても同じことである。


「だって、あんたたちが全員敵の可能性もあるし、偽名を使ってる可能性だってあるじゃない! 信じられないわ、こんな知り合いのほとんどいない場所なんか……」

「……私は咲合さきあいらん。この子は私の娘で、咲合さきあいれんって言うわ。私は三十六歳。彼女は中学生よ」

「お母さん!?」

「諦めなさいれん。何もしなかったら、どっちみち生き残れないわ」


 やはり生きてきた年数が違うのか、藍は冷静で、恋は混乱気味だった。藍は警戒しているし信頼もしていないが、一時の個人情報開示は諦めているようだ。

 しかし恋は未だ納得できない顔をしている。だが、己の最も信頼できる母が言うのならばとその不満を表には出さなかった。

 恋は赤いマフラーとワンピースを華麗に着こなした少女だ。一方の藍はシンプルな青色の大人っぽい服と、黒いくるぶしまでのスカートを質素に着こなしている。

 どちらもファッションは非常にうまいようで、服装の合わせ方が絶妙に良い。


「えーっと、君は話せる?」

「ユウちゃん、無理強いはしない方が良いと思うんだ―――」

「ねぇ、キミ、大丈夫? 怖くないよ、私がそばにいるから落ち着いて、ね?」


 気まずそうに縮こまり涙する男の子に話しかけた優と、そんな彼女を止めながら男の子を観察する刃。そんな二人を追い越して彼に駆け寄り言葉をかける―――あなた。

 あなたの言葉に男の子は顔を上げ、小さくうなずいた。そしてハッとしたかのようにごしごしと涙を拭いて懸命にこらえるが、目尻にはまた涙が溜まる。

 目元の隈は佐助よりもひどく、更に目が赤くなっていることから壮絶な試練を潜り抜けたのだとわかる。


 男の子は鼻水を啜り、のどの奥底から絞り出すようにしてか細い声を出した。


「ボ、ボクは陽彩ひいろ蒼矢そうやだよ……十三歳で、来年中学に上がるんだ……ひぐっ、うぐぅ……」

「ソウヤくんだね、有難う。良く出来たね」


 あなたはぽんぽん、と蒼矢そうやの頭を撫でてやる。すると彼はぴたりと涙を止め、あなたを見上げる。頬には何重もの涙の後が見え、唇は噛み切られていて痛々しい。

 黒く潤った、光を失った目がまっすぐあなたを捉える。次の瞬間、彼は嬉しいような、寂しいような、悲しいような儚げな引きつった笑顔を浮かべた。

 苦しそうな無理やりの笑顔はすぐに引っ込まれて、蒼矢はまたすぐに俯いてしまった。


 ジャケットと短いズボン、青い帽子。普通の小学生のスタイルだ。あなたは涙を静かに流す蒼矢を見て、ぎりりと奥歯をかみしめた。

 許せなかった。腹の底から怒りがこみ上がる。

 まだ子供だというのに、生死など分からなくてもいいのに。中学生である加奈子や恋、小学生の蒼矢、そして何人かの高校生。

 今更だし、変えられない事実だとわかっていても、あなたの感情は収まらない。


「……落ち着きなよ。気持ちは分かるさ」

「ジンさん……」

「うん、私もそう思うよ。落ち着いて環奈、みんな同じことを思ってるんだから」


 激昂するあなたの肩にそっと手を置いたのは刃だった。彼は心配そうに眉をひそめて、あなたの顔を覗き込んでいる。

 そしてあなたの手を握るのは大親友の楓。彼女は必死な表情であなたに言い聞かせている。

 何年も一緒に居たのだから、楓は誰よりもあなたの正義感を知っている。あなたの良さを知っている。あなたの怒りのポイントを良く分かっている。


「んじゃあ、私もそろそろ言っておくか。私は二階堂にかいどう雪絵ゆきえだ、十九歳で小説家やってるぜ。大学は中退してるんだ、仕事優先のつもりでな」

「すげー、小説家とか憧れてたんだよねぇ。無事に帰ったら師匠してくれないかなあ」

「あぁ、構わねぇさ」

「おいおい日之内……お前が小説なんか書けるわけねーだろ」

「む、少年。小説とは可能性。書けない奴なんざぁいねぇよ。そこにつぎ込む心の問題だ。少女――ヒノウチの心があれば書けるようになるだろう」

「わーい、やったねー!」


 わいわいと喜ぶ優を呆れた目で見る零夜、そしてまんざらでもない雪絵。上にセーターを着、下は緩めのズボンで、ラフなスタイルだ。

 黒い瞳と紫色のくせっけな髪の毛がよく似合っている。なんとも彼女らしいスタイルだ。

 なお、零夜も含めてノリノリな三人組を見ていると、デスゲームだとは思えないくらいくすりと笑えて来る。


 雪絵や零夜は分からないが、優は確実に場の空気を緩めるために行っている。何となくだが、あなたは彼女の気づかいが分かるのだ。

 やはり彼女とは仲良くなれそうである。そう、あなたは思ったのだった。

 だから、刃が優を見てやや辛そうな顔をしたことに、あなたが気付くことは無かったのだ。


 二人にこれからどうするか聞こうとしたあなたは、やけに近くから聞こえた足音に遮られ―――、


『はうぅ、皆さまぁ、第一試練と紹介会場はお楽しみいただけましたかぁ~? 心を込めてっ、すごぉ~く真剣に作ったんですよぉ~』

『ああ……親睦会……作ってやったんだ……優しいだろう……?』

『ふん、わざわざアタシたちが気を使ってやってるだのよ。楽しまなきゃ損だわ』


 ぬいぐるみを体のあちこちに着け、辛うじてパステルカラーのキャミソールが見えるピンクの瞳をした女。薄い水色の髪の毛を二房だけ後ろで結んでいる。彼女が情報係、ジョー・ハッカーだ。

 そして教会の神父のような服を着た、眼帯を付けていてあちこちに包帯が巻き付いている黒髪の男が、指導員ナラシ・カイだ。

 並びにアイドルのような華やかなワンピースを着た金髪縦ロールツインテール女がご存知の通りレーン・ラックーだ。青い目が吊り上がっていて、威圧感と存在感を出している。三人の中で性格も服も顔も最も目立つのは彼女だ。


『話すのはストップしな。アタシが説明してやるだわよ。このフロアは、第一回デスゲームファーストへ行くための準備をするフロアだわよ。準備フロアで死んでも文句は言わないだのよ。もちろん、何もしないというわけではないだわよ。これから説明するだのよ、ナラシ』

『質問は……俺にしてくれ……』

『情報係のジョー・ハッカーですぅ! ゲームの情報は全て持っていますぅ~、施設に不満がありましたらお申し付けくださぃ~、お腹が空きましたら料理もできますよぉ~、あ、調理道具もお貸ししますぅ、はぅぅ~、いっぱい聞いてくださると嬉しいのですよぉー、えへへぇ~』


 それからも三人は三人それぞれの役目について説明していたが、一向にこのフロアで始まる何かについての説明は始まらなかった。

 まとめると、連絡人レーン・ラックーは会場アナウンスを担当するそうだ。タイムアップや、場所を移動するときはアナウンスをするらしい。

 指導員ナラシ・カイはレーンのアナウンスに従って皆を案内してくれたり、質問に答える役目を持つらしい。

 情報係ジョー・ハッカーはナラシと似ているが、行うことは全く違う。ナラシは質問に答えても、実行することは無い。道に迷っても言葉で話すだけだ。だがジョーはゲーム内のモノを『動かす』権限を持っている。


 レーンは『導く』。ナラシは『与える』。ジョーは『動かす』。


 似て非なる三人の役目だ。


「それで、このフロアで私達が何をすればいいのか説明してくれると、助かるんだけど」


 そして優がお前たちの話は興味ないと言わんばかりに、三人の詳しい自己紹介をばっさり切り捨てる。まあ、ノリノリなのはジョーだけのようだが。

 ちなみに三人の中では一番偉いと思われるレーンは先程からジョーを視界にすら入れず、ナラシもぼそぼそと自分の事を聞こえない音量で喋っていた。

 そんなあべこべちぐはぐな三人に対する優の言葉は、満場一致で頷けるものだった。


『はぅぁ~、ひどいのですひどいのですっ、とってもとってもつまらないのですぅ~、まぁ、良いのです。ただいまより情報係がこのフロアの説明をするのです~。あ、まず覚えていただきたいのは、第一回デスゲームマスターはレーンですぅ~。

 そして、ここからデスゲームセカンドまでのマスターが私、セカンドからサードまでのマスターはナラシなのですぅ~、レーンは統括ですからねぇ~』


「あの、そもそも第一回デスゲームとか、セカンドとかサードとかを説明して欲しいよ。いきなりマスターって言われても分からないから」


 ジョーの言葉に頭がパンクしそうになったあなたが彼女の言葉を切る。ジョーは首を傾げ、しばらく考える様子を見せた。

 何秒か経ち、ジョーは首を傾げた体制のまま、ぽんと手を打った。

 その様子はまるでロボットのようで、あなたを含めて全員が不気味な感覚を背中に感じた。


『仕方ありませんなのですねぇ~、まずは仕組みを説明いたしましょぉ~う!』

『んじゃぁ、アタシはアナウンス会場に戻るだわよ』


 不気味に気合を入れるジョー、自分の出番などないと言わんばかりに黙るナラシ、そして気にせずどこかへ歩きだしてしまうレーン。

 あなたは次から次へと襲ってくる疑問に、頭がくらっとしそうになるのを堪えるのだった。

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