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あなたが死ぬまでのデスゲーム  作者: Estella
第一章 第一回デスゲームファースト
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最初の試練―2

『さァ、続きを言うだのよ。まず、あのダーツ板が見えるだのね? あれに向けて拳銃を放つだのよ。壁に放つのはダメだの。それで……お前の大切な大切なお友達に当てないように気を付けるのだわね。銃弾は六発。精々頑張るだの。じゃあ、アタシは退散するだわ、しっかりと楽しい光景を見せて頂戴!』


 もう一度楽し気な放送終了の音が響き、途切れる。恐らくレーンはもう二度とルール説明はしないだろう。もしくは、話すこともないかもしれない。

 わかるのは、拳銃を拾わなくてはならないこと。大親友を助けなければならないこと。

 だからあなたは、楓の元に駆け寄り、拳銃を手に取る。楓はハッと目を見開き、あなたをじっと見つめた。


「あいつが……レーン・ラックーがあたしをここに連れてきたんだ……あいつの言う通りにしたら危ないよ。あたしを見捨てて構わないから」

「そんな事出来るわけないでしょ!」

「大丈夫だよ。本当に殺せるわけがない、だってこんなの、日本で出来るはずがないんだよ」

「……でも、この拳銃は、本物。そして、時間制限があるかもしれない。私は楓を見捨てない! 絶対に助けるから!」


 あなたは手に取った拳銃を掲げる。楓が絶対に殺されないという確信がない以上、あなたは彼女を見捨てることなどできない。

 それに、見捨てたとして脱出はできないだろう。扉もなければ窓すらないこの空間。空気の確保すらも難しい。レーン・ラックーが未だこの室内の情景を見ているとは限らない。

 全てが不確定の中、確実とは言えないがレーンから提示されたものを信じるのだとしたら、あなたがその手で楓を助けるしかない。


 推測を採用するよりも、提示されたものを失敗せずにこなせばいいのだ。それだけなのだ。たった、それだけなのに―――手が、震えて止まらない。

 高校二年生。十七歳。平和な日本に生まれた平凡な高校生。

 それが、あなただ。どう考えても、誰がどう見ても、拳銃を正確な場所に撃つなんて不可能だ。でも、そうしないと救えないのだ。

 銃口をダーツ板に向ける。考えろ。平凡な女子高生をも呼んだという事は、このステージはクリアできる鍵が絶対にあるはずだ。


「―――環奈! 無理だよ、せめて環奈だけでも逃げてよ!!」

「ううん、考えるんだ、絶対に二人でクリアする……私は逃げない! 絶対に!」


 楓も死にたくない。親友に無理をしてほしくないのも本音だが、無理をされて手が滑ったら死ぬのは楓であるのも本当だ。

 関係を結ぶのは難しく、関係が消えるのは一瞬である。

 人間は、親子でもなければすぐに手のひらを返すのだ。もちろん、親子だろうと相当仲が良く無ければ裏切り合うことも往々にしてあり得ることだ。


 ―――親子ですらそうなのに、ただの友人同士が手のひらを返さないのだろうか?


 恐らく楓はあなたに逃げろと言い、あとから自分で解決しようと思っているのだろう。他人に己の命運を任せるより、納得できるから。

 それはあなたを信頼していないともとれるし、本心から逃げて欲しいと願っているのかもしれない。

 あなたはそこまで考えついたが、自分でもそうしたくなるだろうと思ったので、今は黙って楓を助けることだけを考えるべきだと振り払う。

 この手で救うんだ。


 そうだ、先程レーンは壁に撃ってはいけないとは言ったが、地面ならばどうだろうか。


「レーン・ラックー、いる?」

『……ふ』


 あなたのダメ元での問いに、あなたの考えている事を察知したらしいレーンが息遣いを漏らす。それは、あなたにとって行動に移して構わないという判断への鍵だった。

 否定も肯定もない。ただ、無言は肯定となる。あなたはそっと銃口を楓から地面に移す。楓はばっと顔を上げてあなたを揺れる瞳で見つめる。

 彼女は既に汗だくだ。開ききった瞳孔からはきらりと光る物が見える。


「楓……すぐに、助けるから」

「―――う、うん、この際、あたしも諦めるとするよ。あたしを助けて、環奈!」


 そうだ。それでいい。それならば、あなたも覚悟を決めることができるのだ。あなたは拳銃の引き金をぎゅ、と握った。

 拳銃は反動があると聞いたことがある。どこかのサイトで、ちらっとだが。大丈夫だ、高校生ならば反動に耐えられる。


 いくら誰も殺さないのだとしても、あなたは拳銃の引き金を引けなかった。

 後戻りできない気がしたから。


『おーい、はよやってくれないとだね、こっちも困るんだのよ。つーわけであと一分だわよ。さっさと撃てだのよ。面白くないから地面に撃つでも脱落するでもいいからさっさとしろだわ』

「……楓。私を、信じてッ!」


 膝を落とす。拳銃を構える。反動に備える。引き金を―――引く。

 あなたは思わず目を閉じる。準備は完璧のはず。楓に当たる距離でも場所でもない。銃口はきちんと地面に向いていた。

 ちゃんと確認はした。―――乾いた銃声が室内を充満し、あなたはそっと目を開ける。


 地面に穴が開いていた。そしてその穴から、煙が湧き上がる。ゲームオーバーを告げる声はない。レーンは黙ったままである。

 あなたは今度は目を閉じずに地面に向けて銃弾を放つ。


 放つ。

 放つ。

 放つ。

 放つ。


 手が震える。思ったより反動がない。さすがに高校生でも扱えるように、反動がないもしくは少なめの拳銃が用意されているのだろうか。

 どちらにしろ、そちら方面の知識がない以上、あなたからは何も言えない。


「はあ、はあ、はあ……ちゃんと六発撃ったよ、レーン・ラックー!」

『はいはい、あーあ、もっと面白いの見れると思っただわよ。まぁいいだのよ。最後・・まで絶好調なわけないだものねぇ……さて、いってらっしゃいだのよ』

「は……どこに!? っていうか、楓を解放して!」

『あーもううるっせぇだのよ。向こうに着いたら指導員と情報係がいるだわ。アタシにごちゃこちゃ聞くなだのよ。早く行けだのよ!』


 レーンは苛立ったように叫び、ぶちッと何かを切ったような音が室内に響き渡る。既に空気が薄くなり始めていて、確かにもうこの部屋からは出たい。

 けれど、けれどだ。レーンは果たしてあなた達を元の世界に戻してくれるのだろうか。

 恐らく、そんなはずがない。指導員と情報係、そしてレーン・ラックーがいるだろう場所。そんなところが、現実であるはずがない。


 少なくとも、拳銃を扱うような奴らが普通に日本で生きていけるはずがない。


 そして、そんな事を考えている場合でもなかった。

 あなたの目の前はちかちかと光り、まるで最初ここに来た時のように歪み―――体が徐々に軽くなって行くのを感じた。

 何も考えられない。体全体が柔らかく力が抜けていく。力が入らない。どうする。どうしようもない。怖い。何なんだ。仕舞いにはその考えすらもできなくなって―――、


 ―――気付けば、見知らぬ場所に立っていた。


「は……?」


 あなたは疑問の声を漏らすしかなかった。

 青いタイル。青い壁。今度は白ではなく、全てが青に染まっている。そしてその中心には、様々な服と髪の色をした男女が立っていた。

 冷静に話し合う者、気にせず笑い声を上げる者、泣く者、狂う者、怒る者、様々だ。

 見知らぬ場所。見知らぬ人達。異質な空間。膝が柔らかくなり崩れ落ちそうになったあなたを支えたのは、大親友、佐藤さとうかえでその人であった。


「楓……! 良かった、良かった! 良かったあ……」

「うんうん、あたしも良かったよ、また環奈と一緒に居られるなんて。分断されると思ってたからさ。まぁ、多分ここにいる人達も、同じ状況だと思うけど」

「ぁ……そっか。みんな被害者ってこと?」

「うーん、行って聞いてみないとわかんないね。とりあえず自分から行動するしかない」

「でっ、でも!」

「……絶対生き残るんだよ、環奈」


 思わず涙目になるあなたに対し、力強くそう言った楓をあなたは見上げる。彼女の横顔は、既に覚悟が決まったものだった。

 決して、適当に言っているわけではない。彼女はもう覚悟も決心も付いているのだ。

 絶対楓と一緒に脱出するのだ。あなたはそう思い、掴んでいた楓の腕を話す。すでに何人かが二人の存在に気が付いて、こちらを向いている。

 自分から歩み寄るのだ。


 あなたは楓と共に、比較的若い者達が話し合いをするグループに挨拶をする事にした。一番に挨拶をするのなら、同年代に見える者の方が良いかと思ったからだ。

 あなた達とは違う高校の制服を着たポニーテールの少女、そしてその少女と同じ制服を着た黒髪黒目の少年。そして、燃え上がるような真っ赤な髪の毛を地面まで伸ばした、膝まである明らかにぶかぶかな灰色のシャツを着た少女があなた達を歓迎する。


「やあ、どうもだね。二人来たら……っと、これで十四人、全員揃ったってことかー、長かったよ、ねえ零夜れいや

「いやてめぇ何を言いやがる! 俺は死にかけたんだっつーの!」

「生きてるんだからいいじゃーん、はははは!」

「ぁぅ、お二人とも、ぁの、自己紹介をしないと始まらない、です……」


 話しかけてきたかと思えば言い合いを始める高校生らしき少年と少女。主に少年が怒っているようだが、少女の方は適当にはぐらかしたり言い回しで罠を仕掛けたりと巧みな話術で、彼の反論を封じている。

 あなたが目まぐるしい会話に目を回しそうになった時、背中を丸めてシャツを着た少女がか細い声で正論を言う。

 うんうん、と楓が頷いている。少女は「あはは、ごめんごめん」と軽く流し、少年は「ちきしょぉぉう!」と未だ会話の余韻を引きずっている。


「さて、自己紹介もかねて色々説明するよ」


 高校生の少女が真剣な表情をしたのをみて、グループ全体の表情が引き締まる。凡人ではできないカリスマパワーがあるのだろう、妙に影響される人だ。

 あなたはそう思いながら、大人しく少女の説明を聞くことにしたのだった。

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