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うぇるかむ!ニャンズ・ハウス   作者: たま ささみ
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第4章  ~ハウス界隈の人間模様編~

 僕はショタ。


 人間から生まれ変わって猫になり、生まれ変わって、またもや猫になった。

 それも、人間時代には、『かなり』美男子だった僕が、ハンブサ顔のキャラ猫として・・・。


 野良猫として生まれたがゆえに、自力で食糧調達の憂き目に遭い、生まれて間もなく動物センターに連行された。彩良さんたちに救われなかったら、あのまま、動物センターのガス室で苦しい最期を迎えていたことだろう。


 僕は思う。

 人間の中には死刑に反対する人も多い。人権としてそれは認められるべきかもしれないし、それ自体にとやかくいうつもりもない。

 しかし、動物、僕たち猫にだって生存権はあると思う。

 なのに、人間の勝手な都合で捉えられ、ガス室に送られ、アウシュビッツ収容所のような場所で、ガス殺処分の恐怖に苦しみ、もだえ苦しみながらこの世を去る犬や猫がどれだけ多いことか。

 死刑反対と言う人間は、動物の生存権まで考えてモノを言っているのか。死刑になるからには、それ相応の罪を犯したはずだ。

 一方で、僕たち犬猫は、罪も犯していないのに、病気の仲介をしているわけじゃないのに、理由もなく捉えられる。猫の嫌いな人間も多いからか、それは知らない。

 それでも、この世に生まれたのが人間か、その他の生物だったかだけの違いで、ここまで差別されていいのかと常々疑問に思っている。


 僕は、人間の皆に伝えたい。

 ガス室の恐怖を。

 そこに連れて行かれる瞬間の、あの心臓の鼓動を。


 アウシュビッツのような施設が復活したら、世界中の多くが「人権問題」として取り上げ、議論の的になるだろう。

 果たして、その対象は人間だけでいいのだろうか・・・。

 意味あって、人間以外の生物が地球上に暮らしていると思う僕は、間違っているのだろうか。


 とまあ、お堅い話はここまでにしよう。

 現在僕は、とある猫カフェで「お・も・て・な・しサービス」に勤しんでいる。

「おもてなしサービス隊」のメンバーは、サービス隊を統括指揮する大人猫のハナミズキさんこと通称ハナさん。サビ猫のミルキーちゃんこと通称ミーちゃん。茶トラ猫の 茶々丸くんこと通称チャチャくん。ロシアンブルーの、ロシアンこと通称ロッシ。


 ここだけの話、ロッシは普通の猫じゃない。


 笑う。


 いや、突っ込むべきは其処じゃない。

 ロッシは、「向こうの世界」と呼ばれる異世界に住んでいる。クラウス・カルラロイド・ロマノフ。向こうの世界じゃ、あるじクラスなんだそうだ。相当の地位にあるらしいのは確かだ。クラウスの名が、本名なのかさえ分かったものではない。

 はは、偽名だったりして。


「偽名に決まってるだろう」

 急にロッシの声が聞こえる。


 ぎょえっ。真後ろにターゲット、じゃない、お仲間が。

「や、やあ、ロッシ。気付かなかったよ」

「猫たる者、背後からの奇襲に備えなくてはならない」

「僕、猫らしく無い猫だからさ」

「確かに。猫らしくはないな」

 ロッシは真面な奴には違いないが、ちょっと俺様傾向がある。いや、ナルシストといった方が合っているかもしれない。

「僕はナルシストじゃないよ。俺様なのはジョーイだろう?」

 あああ、向こうの世界の連中は、心が読めちまうんだと。おかげさまで、僕の考えることがいちいちジョーイやロッシに分かってしまう。少し黙っててほしいものだ。

「黙っているじゃないか。人間にキミの本性告げるわけじゃなし」

 少し静かにしろー!

 でもって、本性ってなんだ、本性って。


 僕はただ、人間の思考回路が働いて、人間とある程度意思の疎通が出来るだけだ。

 猫たちとだって話すことができる。

 だから結構な確率で、猫絡みの事件に巻き込まれやすいだけのことだ。

「そりゃ、キミの本性そのものが為せる技だろうに」

 ロッシの口ぶりは容赦がない。


 向こうの世界に言わせれば、僕は狭間のような役割を果たす力を持っているのだという。向こうの世界から逃げた犯罪猫達や、こちらの世界で猫絡みの犯罪に手を染める輩を排除するため、僕の力は必要なのだという。

 とするならば、僕のような力を持つ者が、非常に少ないのだろうという予想が付く。

 僕は力と言っても武力とか妖力は持ち合わせていないから、いつもジョーイが助けてくれていた。ジョーイもこの世と来世の橋渡し役、なんて自分では言っているけれど、多分、嘘だ。

「そ、嘘だよ。彼は将軍クラスって言ったじゃない」

「ロッシ。僕の心の中が読めてしまうのはキミのせいじゃないと思う。でも、心が自動で読めるわけじゃないだろう。少し休めよ」

「大丈夫。僕の体力は無限大だから。僕らは寝なくても良い存在だしね」

 マジすか。

 僕なら無理です。

 人間時代同様の睡眠時間保たないと、おもてなしサービスできません。ただでさえ、人間が一日朝昼晩と食べるところを朝晩の二回に減らされ、腹が満たない僕。

「僕は基本食べなくて済むから、キミにあげるよ。ただし、太らないようにね」

 ロッシ。良い奴だけど、やっぱりひとこと多い。少々・・・むかつく。


 人間万事塞翁が馬という諺があるらしい。

 僕は何故か、人間時代から諺には全く脳が反応せず、この言葉の意味も、実は良く理解できていない。

 確か、人間の吉兆・禍福は変転し、予測できない。それゆえに吉兆・禍福の毎に、安易に喜んだり悲しむべきではない、ということらしい。

 要は、いちいち細かいことで一喜一憂するな、ということなんだろうか。


 その意味で正しいとするならば、実は僕、この諺は猫にも当てはまると思っている。

 ライオンやトラなどは、同じネコ科でも、ある程度群れて暮らすらしい、犬や猿のように序列があるのかどうか、知らないのだが。

 え?人間だったくせに、それもわからないのかって?

 いやあ、面目ない。

 知らない。


 僕はねえ。

 生物という教科に興味なく生きてきたんだ、人間時代には。学校の成績も、生物だけは下駄を履かせてもらったくらいだ。『下駄を履く』の意味?若い諸君は知らなくてよろしい。

 兎に角だ。猫になってからかな、生物とは何か、とか、周囲は何をする人ぞ、とかいって周りをよく観察するようになったのは。マーケティングとかは仕事で齧ったことがあるから、なんとなくわかる。説明しろって言われると、辛いけどね。

 で、思った。

 観察は、難しいけど楽しい。

 今、おもてなしサービスを通じながら行う人間観察ほど、面白い物は無い。目下、僕らが熱中している話題というか、遊びというか。

 推理観察ゲームというヤツだ。

 お客さんが来て、みんなでおもてなしをする。カフェの営業時間が終わったら、一番気になったお客さんのことを細かく観察し、皆であーでもないこーでもない、とやるわけだ。

 それは、お客に限らない。

 人間全般に当てはまる。


 そうでーす。彩良さんや歩夢あゆむ、もといあゆみさん、聖司たちのスタッフさんも、全てターゲット。

 前から怪しい素性だと思っていたんだ。ぜひ、皆の考えが聞いてみたいところだ。


 まず、動物愛護団体の代表、彩良さん。

 彼女は代表ということであちこち駆けずり回って猫を保護し、四階建てほどのビルを借り切って保護場所に充てている。サラリーマンしていた僕の記憶から換算すると、ビルの賃料は何十万、いや、何百万単位になるはずだ。

 以前にも僕の考えを述べたかもしれないけれど、血縁の所持物件か、余程のパトロンがいないと、活動が続かないのは目に見えている。ボランティアさんが働いてくれるから、月々のお給料までは考えないとしても、猫達にかかる経費だってバカにならない。


 カフェの猫仲間たちは本人に聞けよと言うが、いやいや、助けてもらってご飯まで貰っている身の上で、

「あんた、パトロンいるんっすか?」

 などと正面切って聞けるわけもなかろう。

 怒ってガス室送りにはしないまでも、喧嘩始めたら怖いんだ、彩良さんは。

  

 彩良さんは一般の人とは喧嘩しない。

 唯一喧嘩するのは、カフェオーナーの歩夢くらいか。


 この歩夢が、これまた不思議な人物で。

 オネエなんだが、怒ると極道或いはナントカシネマ張りの声で怒鳴る。こいつはマジもんじゃねえか?と思うくらいだ。

 ドッカーン。

 爆弾が投下されたのと同じですね。

 投下される前に、危険を察知して逃げる。これが僕等の常套手段だ。

 ロッシは、さすが向こうの世界で修羅場を潜り抜けているだけあって、この怒鳴り声にも動じない。

「だって、キミ。人間一人廃人にするなんて、赤子の手を捻るより簡単だから」

 ロッシ。

 キミもかなり極道な猫だと思う。



 歩夢あゆむが本名だけど、あゆむと読んだら、極道の嵐が吹き荒れるのは必至だ。あゆみと呼べば、機嫌が直る。

 本当に、見かけは女性そのもの。

 元々色素の薄い顔立ちではあるが、しなやかな髪の毛は、かなり明るい色に染めていても眉やまつ毛との色差を感じさせない。まあ、化粧のなせる技もあるのだろうが、僕が見る限り、厚化粧というわけでもない。本当に元々から外国の血が混じっているように感じられる。

立居振舞には一瞬たりとも気を抜かない。頭のてっぺんから爪先まで、どうしたら女性力を高め保持できるのか、そればかり考えているような気もする。


 でも、そればかりじゃない。

 カフェを不定休にして消えていくときもある。

 彩良さんの手伝いもあるようだが、そればかりではないらしい。たまに電話が入るから。

 そのときの歩夢は、地声だ。それも、とても丁寧な言葉を使う。女性的な要素は一切封印して、男性として話しているとしか思えない。


 電話が来ると、まずそうやって丁寧に話をしたあと、すっかりオネエ言葉に戻ってボランティアさんのヘルプを探し、ヘルプが確保できれば店は継続。確保失敗の折には「また来てね」の不定期休業看板が店先に立つわけだ。

 どこへ行くモノやら、間違っても色物やフリフリモノは身に付けない。質素に、モノトーンを基本とした格好に着替えて、付け爪を外し髪を束ねてから、店を後にする。

 窓から眺めるその後ろ姿は、凛として歩いているものの、何処となく寂しげな背中だ。

 

 僕が思うに、あれは、実家からの電話だと見た。

 男にとって、実家からの電話ほど面倒な物は無い。

 中味が何であれ、ハッピーな呼び出しなど年に1回あればいい方だ。

 ふっ、大学卒業し結婚後、何回もそういう呼び出しを受けた僕だからこそわかる、歩夢の心理状態。

 用件は人それぞれだから、わからないけどね。


 もう一人、近くにいる人間といえば、聖司だ。

 彼は、隣の動物病院に勤務する獣医師だ。

 勤務とはいっても、ほぼ中心的な役割を担っている。

 スタッフシフト管理や万が一の場合に備えたマニュアル作成、役所関係書類の作成など、あらゆることを一人でやってのける。

 それでいて、医術にも長けているから動物からも飼い主さんからも、スタッフさんからも厚い信頼を寄せられている。


 が。僕と聖司は、永遠に交わらない線の上を歩いているようなものだ。

 聖司が、僕の存在を認めようとしない。

 人間の思考ができる猫などいない、それが彼、聖司の持論だ。近頃はいくらか譲歩してくれる時もあるが、基本的にヤツは僕に与しない。

 まあ、僕としては、僕たち猫に必要な時、彼が働いてくれさえすればいいから特に異論もなく、殊更声にしたいこともなく。


「僕もヤツは苦手だ。あいつ見てると、笑い掛けたくなるんだよ」

 ロッシ。

 お願いだから、これ以上聖司を挑発するのは止めてくれ。


 あ。

 そういえば。

 僕は彼等の名字さえ知らないような気がする。

 いや、聞いたけど忘れたのかもしれない。人間時代は名前を忘れないよう心掛けたものだけど、猫になると名前だけ覚えればいいや、って思ってしまう。

 郷に入れば郷に従え。

 え?違う?あれ?どこが違うんだ?

 やっぱり僕は諺が苦手だ。

 

 まあ、名前さえ覚えれてば別に苦労もないし、いいかあ。

 カフェ組の他の猫たちも、人間たちの過去とか背景とか、わかってないようだ。

 そうだよね。猫にとって重要なのは、ご飯を与えてくれる、寝床を与えてくれる誰かなのであって、それが人間だろうが鬼だろうが関係ない。僕のように、彩良さんたちがどういう背景を持っているかなんんて、気にする方がどうかしている。


 でも、聖司はそれなりに収入を得ているはずだからいいとして、動物愛護団体の設立や猫カフェはそんなに儲かる仕事ではあるまい。

 僕が亡くなった歳と同じくらい、アラフォーの彼等がどうしてそこまで猫に拘り、情熱を燃やし前に進んで行けるのか。正直、僕は不思議でならなかった。



 その答えは、突然僕の目の前に言霊という形で姿を見せた。

 3人が閉店後のカフェで語り出すのが聞こえた。

 耳を澄ませた。


「お疲れ、歩夢。大変だったね」

「マジ疲れたあ。イヤなのよね、あそこ行くの」

「おいおい、実家だろう。そんなに嫌なのか」

「当たり前じゃない。アタシみたいな異端者が居ていいとこじゃないんだから」

「異端者ねえ。伊集院の御曹司でも悩みは尽きないってことか」


 僕は耳を疑った。伊集院の御曹司?もしかしたら、何社もの系列会社を持つ、あの伊集院商事のことだろうか。更に耳を澄ます。


「はあ、あんた幸せ者ね。御曹司がどうしてこんなとこでオネエ生活してると思うの」

「知らん」

「これでも一応勘当された身なのよ、ね?彩良」

「勘当されたかどうかは別として、うちに来たときは驚いたな」

「あの頃は半端なく荒れてたからねえ。八神の門を叩きたくなったわけよ」


 八神一門といえば、任侠の世界じゃ有名処じゃないっすか。極道といえばいいんですね、素直に。

 で、もしかして、彩良さんは其処の娘さんだということですね。


「そういや彩良ん家で聞いたんだけど、お前マジ極道になるつもりだったって?」

「オネエが極道すんのかい、ってオヤジサンに笑われたの。今でも思い出す」

「家に暫く居て下働きしてくれたからね、そっち方面の流儀には慣れたでしょうが」

「とっても勉強になったわ。金持ちのそれとは違う、任侠の世界だったもの」

「俺は金持ちになりたかった」

「聖司、あんた・・・」

「金のない辛さは嫌というほど味わったよ。伊集院のおやっさんに会ってなかったら、今の俺は無い。底辺でジタバタしていたかもしれない」

「そんなことないでしょ。アンタ前向きだもの。奨学金でも何でも借りて勉強したはずよ」

「田舎から出てきた俺にどこまでできたと思う?たかが知れてらあ」

「あたしら、トライアングル関係だもんね」


 おい、彩良さん。トライアングルいうたら三角関係やないか。あんたたちほど三角関係という言葉が似合わない人たちもいないだろう。


「オヤジサンのところで初めて彩良に会って、猫の保護活動しないかって誘われて。保護場所で獣医学部からボランティアで参加してた聖司に会って」

「俺の身の上話を聞いたお前が、伊集院のおやっさんに引き合わせてくれた」

「パパはね、本当はアタシに会社を継いで欲しいのよ、今でも。でもアタシがこんなんで結婚する気も毛頭ないから、聖司に会ったとたん、後継者を聖司に決めちゃったのよねー。正しくは、アタシの妹を聖司の婚約者として現在婚約ちう」

「女探す手間、省けたじゃん」

「まあな。歩夢の妹、滅茶苦茶美人だし。歩夢を見てるから、立居振舞もきちんとしてるよな」

「アタシと違うのは、身長と声だけよ」


 なんとなくだが、三人の関係性が見えてきた。

 彩良の家は、任侠の世界に生きるモノたちが集っているのだろう。そして、実家を勘当され荒れ果てたオネエの歩夢が、何かの縁でそこに現れた。極道目指すつもりが、彩良の猫保護活動に無理矢理駆り出され、そこでボランティアの聖司にあった。自分たちの境遇を話しあううち、三人は意気投合し、歩夢は極道から猫保護の道へ、聖司は獣医師から将来的には伊集院の後継者に、ということで将来的に方向転換するということか。なるほどね。


「まあ、たまたまうちで持ってたビルが一気に空く、っていうから保護場所として確保できたけど」

「彩良んとこのオヤジサンは、彩良にすごく甘いもの」

「だからあたしは強欲なんだよ。絶対に猫を助けるんだ、って思っちゃうしね」

「それに俺と歩夢が付き合わされてる現実はあるな」

「あら、あたしの保護活動があったからこそ、あんたたちが出逢ったんでしょうに」

「そりゃそうだ」

「そうね、アタシも彩良に出逢って、彩良の家で色々教わって、やっと家に戻る決心ついたからねえ。ついでに聖司の医院開設代、援助してもらえたしさ。親と解り合えたわけじゃないけど、金のことも含めて、やっと少しは冷静に話せるようになったかな」

「このビルも、歩夢の家から出資してもらって借りれたし。失敗できないね、歩夢のためにも」

「おう。絶対に結果出して見せる」


 ふうん。そんな関係性だったのか。あまりにカラーの違う三人だから、いままで関係性も見えなかった。


 僕なんて、ホント、普通に生きてた。

 高校行って、大学行って、就活して、企業入って社内恋愛の末、小夜子、あ、元妻ね。元妻ってのも何か生き別れたようで嫌だけど。実際、生き別れかな、向こうもまだ生きてるし。小夜子と結婚して子供たちも生まれて、さあこれからも、って時に、車と喧嘩しちゃったのさ。鉄の塊と一戦交えて勝った人間なんていないだろ。熊なら勝てたかもしれないけど。

 いや、別に熊になりたいわけじゃない。

 ああ、こうやっていつも話が飛んでしまう。


 要は、ついてない人生だった、ということさ。やりたいことも見つけられず人間を止めてしまったのが残念でならない。

 だから、この三人には、やりたいことを存分にやって欲しいと願っている。

 少しだけ、おもてなしサービスで手助けになればいいな。


「人間とは、かくも深き友情で結ばれるものなのか」

 隣でロッシが涙目になっている。

「いや、この三人は特別変わった人生かもしれないよ。それでも、応援したいね」

「そうだな、僕がおもてなしサービスでにっこり笑えば反響を呼ぶはずなんだが」

「いや、ロッシ。別の意味で聖司から目を付けられるから止めてくれ」

「そうなのか?」

「そうだよ、聖司はノーマルな人間だから、僕たちみたいな不思議猫を認めない」

「僕は至ってノーマルな猫だと思うけど。僕たちは。キミの顔がハンブサなだけだろ」

「顔の問題じゃないよ。この世界の動物の理から、ちょっとはみ出しているんだ、僕等は」

「難しいな、こちらの世界は」

「そうかもしれない」


 三人は、時にのんびりと過去を振り返り、時に熱く未来を語り、お互いにエネルギーを注入し合ったように見えた。


「じゃあ、俺、病院に戻るわ」

「アタシ達も片付けて、あとはお仕舞よ」

「お疲れっ、みんな!」


 隣り合った病院へのドアに近づく聖司。

 やれやれ。今日は僕への攻撃もなかった。一安心というものだ・・・。

 何か、今、僕の横を通り過ぎた・・・。

 ぎょえ――――――――――――っ。

 ロッシが、果敢にも、いや、無謀にも聖司の前に立った!

 出るのか?あのにっこり笑い。

 出すのか?あのかなり無理したようにしか見えない口元を曝け出すっていうのか?

 

 笑った。

 あうぅ・・・。やってしまった。

 ロッシは以前から聖司をからかうことに一種の喜びを感じそうだと言っていた。

 ドSじゃないんだから、止めてくれ。心臓に悪い。

 これでロッシ、キミも僕同様、ある種、聖司のモルモットとなり、たまに頭弄りたいとか言われるようになるんだ。

 覚悟してくれ。


 聖司は、といえば。

 わなわなと震えている。そりゃそうだ。

 僕みたいな猫の他に、笑う猫まで出たんだから。

 獣医師としては、有るまじきものを見ていることになるよね。

 散々な目に遭ったねえ、聖司。

 一刻も早く、忘れることさ。どんまい、聖司。


「おい、ショタ」

 え?誰だい?僕のこと呼ぶのは。もう寝る時間なんだけど。

「おい、呼んでるのがわかんねえか、ショタ。俺だよ、聖司だよ」

 な、なんで僕が。なんで呼ばれるのさ。

 聖司がくるりとこちらに向き直る。

「お前。今の、見たか?」

 僕は急いで首を横に振る。

「じゃあ、知ってたのか?」

 聖司が僕を持ち上げ、自分の目線まで近づけた。

ナントカシネマチックなあの目の怖さ。

 止めてくれえ。


 僕はまた、首を横に振る。

「ほう、知らなかったってか。そういやあ、こないだの双子猫襲撃事件のときも、ロッシは無傷だったよなあ。大人しいロシアンブルーにしちゃあ、珍しい」

 僕はもう、袋の鼠の気分だ。どっちに転んでもいいことが無いような気がする。

「お前が言うなら、気のせいかもな」

 僕は一生懸命頷く。

「でも、また笑ったら、お前の頭ん中弄るぞ」

 なんでそうなるの――――――――――――――――っ!

 笑ったのはロッシでしょうに―――――――――――っ!

 弄るなら、ロッシの頭にしてよお―――――――――っ!


 僕は、聖司の元から離れベッドに戻って行くロッシに向かって叫ぶ。

「何で笑ったんだよ!どうして僕がとばっちりを受けなくちゃいけないんだ!」

「いやあ、つい」

「つい、じゃないだろう!あれほどコイツの前で笑うな、って釘刺したのに」

「釘を刺すから悪いのさ。誰しも、行ってはいけないと言われれば言われるほど、それが甘美な蜜に感じられ、そのことを考えずにはいられなくなる。止めさせたいなら、別の表現にするしかないんだよ」

「じゃあ、なんていえばいい」

「一言で言い。『あいつの前で笑ったら、即、あの世行きだから』そういえば良かったのさ」

「そりゃ屁理屈だろう。見ろ、聖司の、あの顔」

「そのうち忘れるさ。僕のことはね」

 僕は目が点になる。

「また記憶操作するのか」

「やだなあ、人聞きの悪い。そうしないと知れてしまうからね。真実は闇に葬るに限る」

 ロッシ、まるで映画に出てくるマフィアかギャングの親分みたいだ。

 

 僕はぐったりとしながら、聖司を見た。

 聖司のギラギラした目と、今にも妖怪に変身しそうな口元が、今尚、僕を見逃すまいと付け狙っている。

 僕は失神寸前に追い込まれそうな勢いで、その場に釘付けになる。


「どうしたのさ、聖司」

「そうよ、ショタが怯えてるじゃない。その子、役に立つんだから大切にしてよ」

「ああ、そうだな。役に立つよなあ」

 聖司の目は、妖怪の一歩手前になっている。

「ホラ、離してあげなさいって」


 歩夢のレスキューで、漸く聖司の魔の手から逃れた僕。

 ロッシを見た。

 おおお。なんということだ。

歩きながら、今度は彩良に媚び売ってやがる。

 さすが、向こうの世界の俺様ナルシストは、やること為すこと、超大胆だ。


 ロッシ。

 聞いてくれ。この世界は、極道やらマフィアやら、妖怪に満ちている。

 僕はね、この世で一番、妖怪が苦手なんだよ・・・。


 猫が好きな人も、ショタに興味のある人も、またのご来店をお待ちしています。


 ハンブサ顔のトラ猫ショタが、事件解決に奔走する!

「うぇるかむ!ニャンズハウス!」


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