何を思い、試練を課すのか
不定期で本当に申し訳ない。
”試練”の迷宮最終階層にて、その人物は怒りをあらわに暴れまわっていた。
「ふざけるな!!」
怒声が洞窟内に響き渡る。
だがそれだけで”試練”の王の怒りが収まることはない。
ある時は変質し、より強靭になっているはずの洞窟の壁を殴り、蹴り、破壊して回る。
そもそもなぜ”試練”の王はこうも怒っているのか。
それは現在彼の迷宮を訪れている者達、その内の1人が原因であった。
迷宮の最奥には迷宮の核である水晶体、そしてそれを守る強力な魔物がいるのだが、その水晶体は高濃度な魔力を宿しているため大変重宝する。
当然だ。
何せ魔物を大量量産する魔境の力の源のようなものである。そこに含まれる力がどれだけ凄まじいものであるか、最早語るまでもない。
しかし迷宮からしてみれば水晶体を破壊されれば一間の終わりである。
その為のガーディアンとして迷宮は必ず核を守る魔物を使役し、対価として、その魔物には迷宮の状況を把握する力、そして能力を強化するのだ。
そしてこの迷宮におけるガーディアンこそ”試練”の王その人。
そう、この王は迷宮に魂を売っているのである。
そうまでして叶えたい願いが、彼にはあった。
「ああ、何だあれは!? あんなものは進化でも何でもない、むしろ”冒涜”!! ただ圧倒的な力を振るうだけで全てを無意味にする、ただの”害悪”!! 人の可能性、生物の、種の可能性を追求するわしの敵でしかないわ!!」
彼が望むのは”種の可能性”。
彼は人の限界を見たいのだ。
彼は自分自身を鍛えた。
肉体を鍛えた。精神を鍛えた。
人が聞けば血迷ったとしか思えないような修練を何度繰り返したか。
死線を彷徨ったことなど数知れず。
だが、だからこそ彼は気づいてしまった。
自身の限界に。
人の限界に。
しかし彼がそれに気づいたときにはもう遅かった。
彼は老いてしまったのだ。
いくら鍛えようとも体がついては来なかった。
現状維持ならば何ら難しい事ではない。しかしこれ以上の成長は、残念ながらもう老いた身にはできなかったのである。
それでも彼は諦めることができなかった。
彼は常々理不尽だと思っていた。
魔物は強い。時には獣にすら人は劣る。
もちろん知恵や技術でそれらを超えるのもまた人間の強さだ。しかし肉体的な面に限れば人はそういった輩に比べて劣るのだ。それを彼は許せなかった。
だから彼は発想を転換することにする。
自分ではなく、他の誰かを進化へと導く。それならば可能ではないかと。
そんな中、彼は偶然にもアーカルム22王についての話を耳にする。
そして彼は出会った。
洗礼の獣の内の1匹、”洗礼”の王に。
彼も”死”の王と同じように思考誘導をされるかとも思われた。
しかしそうはならなかった。
なぜならお互いの目的が完全に一致していたからである。
目的が同じもの同士が争うことなどまずない。
結果として彼は”試練”の王と意気投合し、同じ目的の為動いていくこととなった。
毎日の修練は欠かさない。
だが同時に多くの人々に数多の試練を与えてきた。
時には自らが師として。
時には”試練”の王の異能を、超常の力を有する異端の存在として。
そして彼は出会ったのだ。
アーカム教の教祖なる人物に。
その人物は彼にこういった。
『貴方が目的を果たす、最適の場を提供しよう』と。
しかし代わりとして『その場に居続けることになるが』とも。
それを断る理由は、彼にはなかった。
「そうやってようやく手に入れた人の進化を促す為の試練を!! その為の迷宮を!! 奴はあろうことか理不尽の力で突破している!! 意味なきものにしようとしている!! 赦せるか許せるか許せるかああ!!!!!!!!!!」
”試練”の王の怒りは未だおさまることはない。
そしてそうしている間にも、彼の言う”試練”は圧倒的理不尽の前にねじ伏せられてしまう。
その現状にひとまず”試練”の王は怒りを収め、どうすればいいかに頭を回し始めた。
「異能を使おうにも”試練”の王のそれは近づかねば、直接その姿を視認しなければ使えない。 だが迷宮のトラップや魔物を動かしたくはない。 破壊されるのが目に見えている」
だとすれば‥‥‥‥‥
”試練”の王は意識を理不尽にではなく、その後続の7人。
獣人やよくわからない種族も混じっているようだが、その中の1人。未だ少女の身でありながらも試練を順調にこなしている者へと意識を向けた。
「わしの悲願を成就する為、本当であれば順を追って試練を超えてもらいたかったのだが‥‥‥‥‥ 悪いな少女よ。 お前1人で、10階層ごとに仕掛けた試練、わしも合わせ総じて5つ。 乗り越えてもらうぞ!」
そして王は、迷宮の守護者が持つ能力、それを行使した。
迷宮が蠢く。
「‥‥‥‥‥うん?」
セフィリアは足元に微弱ではあるが揺れを感じ、眉を顰める。
そして背後を振り返り、目を見開いた。
そこにはキメラがいた部屋と今いる部屋を仕切る扉があったはず。それが今はただの壁に変わっていた。
だが今いる部屋に閉じ込められたというわけではなく、先にはきちんと扉が存在することは確認できた。この部屋の主であろう魔物も、今は眠っていて気づかないようだが、いる。
そしておかしいのはそれだけではない。セフィリアは前方、次の部屋と続くはずの扉へと視線を向ける。
セフィリアはおもむろに剣を構えると眼を鋭く細めた。
その変わりようはそう、”死”の王と戦った時と全く同じ。
ならば彼女の前に現れる存在もまた、その存在と同等の物ということ。いや、むしろ今回の方が。
明らかに強い。
「なら、悪いが先手必勝だ!」
セフィリアはこの部屋の主には目もくれず、今その存在がいるであろう次の部屋、そこへの道を隔てる扉を破壊せんと剣を大きく横なぎに振るった。
その速さはこれまででも1,2を争うほどの物。
それによって起きた風は斬撃となりセフィリアの空間、それを両断せしめる。
眠っていた部屋の主は目覚めることもできずに体を真っ二つにされ絶命し、そして大扉までもがその斬撃によって破壊されてしまった。
だがセフィリアは即座に剣を構えなおすと即座に防御姿勢をとった。
「ふんっ!!」
扉が破壊されたことによって巻き起こった土煙の中から拳が放たれるも、それはセフィリアの剣によって阻まれ、その体を捉えることはなかった。だがそれでもセフィリアは驚く。
なぜなら僅か、それこそほんのわずかではあるが、セフィリアの剣がしなったからである。ただの拳の一撃によって。
「よもや武器の1本さえもが常識の外、全てを無視し、ただ絶対の力を持つ規格外の代物であったとは。 本当に忌々しい」
そんな敵意丸出しの言葉を吐き捨てた人物は巻き起こる煙を自身で払いセフィリアと対峙した。
隆起した筋肉。それは鎧となりその人物の全身を追う。
服は着ていない。
おそらく合う服が無かったのだろう。ただ腰布を巻いているだけだ。
身長は2mはありそうなほど。しかしその髪は白く薄く、確かに彼が老いているのだと感じさせた。
「わしのことなど最早語らずと知っていよう。 わしは”試練”の王。 そしてわしの目的は人の種としての進化、その先を、進化の先を知ることよ。 その為の試練の場、それがこの迷宮であったというのに、貴様はあろうことかそれをただの力でねじ伏せている!! 大方超常の存在、わしと同じ類であろう!! 何を目的としてここへ来た? 貴様が求めるものなどここにはない! 立ち去るがいい!!」
そういうと”試練”の王はセフィリアを鋭く睨みつけたまま動かなくなった。返答を待っているのだろう。
それは絶好の好奇のようにも思えたが、セフィリアは動かなかった。その構えが誘いであるかもしれないと疑ったからだ。だがそれ以前に”試練”の王の企みというより、目的に対して特に嫌悪感を抱かなかったから、そして聞かれた内容についても何ら話すことに問題があるようなものはなかったからというのが大きい。
結局セフィリアは剣先をひとまず降ろすと口を開いた。
「私の、と言うより私たちの目的は冒険者、わかるか? それのランクを上げるためだ。 近々行われる闘技大会に参加するにはランクを上げておく必要があるんでな。 ‥‥‥‥まあ、と言うのは本当は建前で、私のことを把握していたから知っている前提で話すが、イア、私の弟子みたいな少女のレベルアップの為と言うのが大きい」
「ならばお前だけ先行して迷宮を突き進んでいたのは何故だ?」
「それは先の情報を把握しておいた方が何かと便利だからだ。 なるべく危険は減らしたいからな」
その返答に”試練”の王は”一度だけ眉をピクリと動かすと、そのまま深く考え込んでしまった。
そして再度”試練”の王は口を開く。
紡がれたのはとある提案であった。
それを聞いたセフィリアは、珍しく表情を輝かせるとその提案に乗るのだった。




