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変化する世界を貴方と  作者: 黒煉
1・出会い
8/93

醜い女王

今更な気がしますが。虫嫌いな方はご注意。

※一部描写を追加「効果音等」

※誤字・言い回しを訂正

”彼女”は駆ける。



洞窟内には生き残りのキラー・アーミー・アントがいたが、そんなことは関係ない。

ゴスペルの話に出ていた奇妙なウルフ種なども現れたが、知ったことではない。



襲い掛かるアリにそこら辺の小石を投擲すれば、的確に装甲の薄い部分を打ち抜かれた魔物は絶命。

噛みつこうと集団で襲い来るウルフ種は素手で目をえぐり、下あごを蹴り上げ、胴を殴って殺す。



そんなことをもう数十回は繰り返し、ようやく洞窟の最深部、巣の最奥にたどり着く。




そこは奈落であった。




洞窟の地面を更に掘り下げられて作られた深さ数mはあろうその穴はすり鉢状になっており、その壁には大男の身長程はありそうな卵が産みつけられていた。

ともなれば、その底にいるのはそれを産んだ元凶がいるのは明白で。



視線をソレ(・・)に向ける。



ソレはキラー・アーミー・アントが黒い見た目なのに対し朱の混じった禍々しい色で、そしてあの魔物たちにはなかった羽があった。


その周囲には護衛のように蜂にも似た魔物がたかっており、さらによく見ればその足元には食い散らかしたと思われる魔物の死骸が。それに卵からすでに孵ったらしい幼虫が潜り込んでいるのが分かった。



そしてしばらくすれば、幼虫が潜り込んだ死骸がびくりとはねたかと思うと、生前とまるで変わらない動きで動き始めたではないか。




 アグリー・クイーン。




醜い虫の女王の濁った瞳が、彼女の深紅の瞳を捉えた。




□□□




 『――――――――――――――――!!!!』




まるで金属をひっかいたときのような耳障りな叫びを合図に、周囲にいた護衛の蜂の魔物、そして幼虫が操る魔物たちが襲い掛かってきた。



そして彼女も、それと同時に疾走する。


だが彼女が目指したのは襲い掛かってくる魔物ではなかった。



彼女は傾斜のついた穴の壁をなんでもないように走り抜けながら、そこに産み付けられた卵を片っ端から破壊していく。


先に卵を処理しなければ、いつまた孵った幼虫が死体を動かすかわからないからだ。



卵自体はそう固いわけでもないので、あのアリの甲殻をも貫いた彼女の拳に耐えられるはずもなく、彼女の走るスピードに合わせてベチャリと水音を響かせながら、瞬く間にその数は減っていく。



その度に彼女は様々な物を頭からかぶるがそんなことはまるで気にしないとばかりに、上から下へと順に全ての卵を破壊していく。



当然、あの蜂の魔物や幼虫の操る魔物たちが防ごうと攻撃を仕掛けるも、その程度では足止めにもならない。片手間に処理されるだけであった。




やがて5分が経った時。




 「はあっ!!」




グシャッ、という生々しい音をあげて、壁を埋め尽くすほどにあった卵の最後の1つはただの液体へと変わっていいた。



だが当然、そんなことをされて黙っている親などいない。




 『――――――――――――!!!』




全ての卵を破壊した彼女は上から下へと降りたのだから、当然今いる場所は穴の最深部。


目の前にいたのは瞳に明確な殺意を宿したアグリー・クイーンだった。




 「っ!?」




咄嗟に後ろへ飛び下がった彼女。



それと同時に鎌状になった前足がヒュッ、という風の音さえ置き去りにして振り下ろされ、眼前に突き刺さる。



だがその鎌は地面に深く突き刺さったというのに、なんと一瞬で抜かれて、今度は彼女へとむけて横なぎに振るわれたではないか。




 「あぶなっ!」




振るわれる直前に着地していた彼女は一瞬のタイムラグもなく地面に伏せることで事なきを得る。


今度はそこに、今振るわれたのとは逆の鎌が頭上から振り下ろされる。



だが彼女は今度は回避を選ばなかった。



彼女は前転することでそれを回避すると、その勢いのまま女王の懐へと潜りこみ、その拳で腹を打ち抜いたのだ。



彼女は次の瞬間には大穴を穿たれ、グロテスクな見た目になった女王の死骸を幻視したが‥‥‥



 「なにっ!?」



なんと女王の甲殻は砕けることなく、多少ひびが入っただけではないか。



 「まさか上位の存在になるだけでこんなにも強力になるのかっ!?」



予想とは違う結果に、彼女は動揺を隠すことなく叫ぶ。



 『―――――――――――――――――――』



心なしか嘲笑のにじむ叫びをあげながら女王は器用に腹の先を懐にいる彼女に向け、その先から見覚えのある液体を飛ばす。おそらく腐食液だろう。


嫌な予感がした彼女はすぐさまそこを飛びのこうとしたが、女王の足がそれを巧みに邪魔する。



そして液体が彼女の体へとかかった。




 ジュウゥゥ――――――――




 「い、っ!?」




ただのアリではなんの影響も与えなかったその液体も、女王のそれは彼女の体に確かな影響を与えた。


とはいっても、僅かな硬直という一瞬のスキを生み出すに過ぎなかったが、本来ならば今頃跡形もなく溶けてなくなっていたであろうことは足元の溶けた地面を見れば明白だ。



だが、どんな結果であろうと、その隙を見逃す女王ではない。



その一瞬で彼女の眼前まで移動した女王は、アッパーのように振り上げた前足の鎌で彼女の体を打ち据えた。


見た目華奢な彼女の体が怪物のアッパーなど喰らえば、見るも無残な肉塊になり果てるように思えたが。





 ――――――――ドッガアアアアアァァン!!!!!!!





彼女の体は”丈夫”なためそんなことにはならなかったが、それでも凄まじい勢いで殴られたその体はこの洞窟の天井まで飛ばされ、そして盛大に岩や砂埃をあげてめり込んだ。



それを見ても女王に未だ宿した殺意を消す様子はない。



見れば背中の羽で天井へと向かおうとしている。

この程度で死ぬ相手ではないと、本能で悟っていたからだ。





対する彼女は天井に体を埋めたまま、考えていた。



それはこの体の能力、スペックについてだ。


見た目については以前話した通りだが、能力についてはこれで何万分の一のレベルまで”弱体化”していた。


例えば何の縛りも設けなかったなら、敵を倒すのだってわざわざ殴ったりせずとも、”消えろ”と思うだけで消すことすらできただろう。



”世界そのもの”という存在の力はそれだけ強大だったのである。


なにせ全てを生み出した神をも超える存在だったのだから。




とはいえ、弱体化した今の体がこの世界に存在する者とは別次元の能力(スペック)を持つこともまた、事実である。



身体能力においても、異能においてもこの世界で”理論上可能”であればできないことはないだろう。



だというのに、今自分は、能力的にははるかに劣るはずのあの醜い女王の一撃でこんな無様をさらしている。




 「‥‥‥‥私も学習しないな」




ポツリ。



呟かれたのは自嘲の言葉。


何が言いたいかというと、要は以前と同じ感覚、全知全能だったあの時のままの感覚でいるがために、本当なら簡単に倒せるはずの相手に組み伏せられることがあるのだ。




慢心。



それが今のこの状態の全ての原因だった。



意識が切り替わる。




 ――――――――私はもう、全能ではない




埋まっていた右腕を抜く。




 ――――――――これは”戦い”なのだ




その手には先ほどまでなかったものが握られていた。

それは洞窟内の壁に埋まる、謎の鉱物が放つ淡い光を反射して鈍く光る一振りの直剣。


”魔法”によってこの洞窟の壁、それに含まれる金属成分を錬成することでこの瞬間に生み出されたそれを支えに、とうとう埋まっていた体は天井から引き抜かれた。




 「さあ――――――――」




服こそボロボロになってしまったが、体は薄汚れてはいるものの傷はもうどこにもない。


紅い瞳が、”戦う”意志によって鋭く細められた。




 「終わりだ」










・魔物紹介 

アグリー・クイーン


キラー・ビートル種のいくつかある上位個体の一つ。

キラー・アーミー・アントの雌が進化した姿と言われているが、実際のところよくわかっていない。

朱の混じった甲殻、羽があること、鎌状に発達した前足が特徴で、腐食液もキラー・アーミー・アントと比べ物にならないほど強力になっている。

更に産卵する卵から孵る幼虫は死体に寄生し、意のままに操ることができる。 

基本的に何かを捕食している様、その醜い見た目から『醜い女王』の名がついた。



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