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変化する世界を貴方と  作者: 黒煉
5・迷宮を攻略せよ
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至極の音

迷宮都市に入る前にちょっとしたいざこざに巻き込まれてしまったもののこういった騒ぎは迷宮都市ではよくあることであり、何より王都の時のように壊滅的威力を持つ魔法を放ったわけでもないので、騒ぎを聞きつけ一応体裁的にやってきた門兵達も周囲の冒険者たちの証言によりあっさりと引き下がった。


チンピラ冒険者たちにこの場の全ての責任を負わせる為、詰所へと引きずっていきながら。


詰所はギルドが作った交番のようなものだ。


この都市にはもちろん騎士団も存在するが、与える影響力は騎士団よりもギルドの方が大きい。

それは迷宮が魔物を生みだす魔境である以上、必然的にそれらについての知識が豊富なギルドにそれを管理する責務が与えられているからだ。

その為迷宮が多いバビロンを牛耳るのもまたギルドというわけである。



少し余計な話をしてしまったが、その騒ぎ以外にはこれといった問題も起きず、セフィリア達は無事に迷宮都市へと足を踏み入れたのだった。





時は夜。


一行はリカン一押しだという、それなりに値が張るも上質だという宿へと足を運んでいた。


何でもリカンはそこで吟遊詩人として歌ったことがあり、もし歌いに来てくれるのであれば優先的に部屋を空けると言ってもらえたのだとか。



今や一行は総勢で6人と1匹というかなりの大所帯だ。1部屋だけではとてもおさまりきらない。

そんな中、優先的に部屋を空けてもらえるというのは非常にありがたいことだった。


「しっかし、ということはリカンは歌わないといけないだろう? 何を歌うんだ?」


そんなことを聞いたのはオーギュストだ。


リカンはオーギュストの言葉に悩みながらも答える。


「前回は俺達エルフに伝わる伝承を歌にしたものを歌ったが、同じ歌では新鮮味に欠けるだろう。 今つくっている歌は完成には程遠い。 他に何かいい歌はあったか‥‥‥‥‥」


どうやらパッと浮かぶ歌が無いらしい。

正確には”歌える歌”が無いのではなく、”歌いたい歌”が無いのだ。


そんなリカンに、先導する彼のすぐ後ろを歩いていたセフィリアが声をかける。



 「なら、私が歌ってやろうか?」

 「セフィリア殿が?」



意外な提案にリカンが驚きの表情を浮かべる。


それは他の面々も同じだ。


「色々な依頼を受けてきたという話はしただろう? その時に付き合いで歌を歌うこともあったんだ。 演奏は‥‥‥‥‥ まあ楽器はないが、最悪作ればいい。 ハープはあるか?」


「売っていたような気がする。 たださほどが魔道具で、純粋な演奏には向かないだろう」


 「そうか。 じゃあやっぱり作るかな」


まるでつまみでも作ろうと言っているかのように気楽に言ってのけるセフィリアだが、それについて周囲が何か言う事はない。不可能ではないと知っているからだ。

最も、一様に呆れた表情を浮かべていたが。






セフィリアは貸し出されていた工房を借りて早速作業を開始する。


まずは十八番の魔法収納から何やら神々しい木材と、何故かきらめいている糸を何本か取り出すと作業部屋に広げた。



そこで早速大騒ぎに。


それを見たリカンとオーギュストの目が変わったのだ。


「なっ!? それはまさか、テミスの大森林に生える”神木”の枝!? それははるか大昔に過剰に伐採され、今では1本を残して苗木さえも残っていないはずでは‥‥‥‥‥!」


「こいつはまさか‥‥‥‥‥ 神話に語られる天空龍ヴァルヘイムの髭‥‥‥‥‥? 嘘だろう、わしはこれを人生で二度と見ることはないと思っていたというのに‥‥‥‥‥‥」


セフィリアが取り出したのはどちらも今では入手は最早不可能な代物。

というか天空龍ヴァルヘイムの髭に関しては、売れば一国が買えるのは間違いない。



その2つをセフィリアが持っているのは他でもない。


神木に関しては未だ多く神木が残っている時代にいくつか集めていたから。


天空龍ヴァルヘイムの髭に関しては、かつて一度だけヴァルヘイムが現れた場に居合わせているからである。



更に今だから行ってしまえば、事の真相は、力をため込もうとする習性に従いお互いを喰らいあおうと、ヴァルヘイムと地龍ゾアンが戦ったのが1度だけ人前に姿を現した理由であり、尚且つその時人類のトップであった王に頼まれ、その戦いを収めたのがセフィリアなのである。


結果からいえばヴァルヘイムは敗れ、ゾアンは本来の目的を達成した為、傷ついた体を癒す為にヴァルヘイムの亡骸を喰らった後に永い眠りについた。


最もその眠りについたゾアンが今どこでどうしているのかはセフィリアも知らない‥‥‥‥と言うより覚えていない。



ではセフィリアではなく、何故リカンとオーギュストがそんな伝説的な素材のことを知っていたのか。



リカンは言わずもがなテミスの大森林出身のエルフであるため、現物を見たことがあるから。


オーギュストについては一度、伝説の素材として納められたそれを見たことがあったからだ。


忘れている人も多いかもしれないが、オーギュストの鍛冶の腕は超一流の部類に入る。その為、かつてはお抱えの鍛冶師として雇おうと多くの声が彼にはかかっていたのだ。その時に本当に一度だけ、オーギュストはそれを目にする機会が巡ってきたのである。



最もそれはセフィリアが戦利品としてゾアンが食い散らかした後の遺骸からはぎ取った物であり、元をたどればセフィリアの物だということをオーギュストは知らない。



結局リカンには出来上がった楽器を演奏した後は譲ること、オーギュストには素材としていくつかの物を提供することを約束することでなんとかその場は収まったのだった。



それでも追及がおさまったというだけであり、しばらくエルフの詩人とドワーフ鍛冶師は興奮しっぱなしであったが。




 

セフィリアは手元の素材で手早く楽器を作り上げていく。



まずは神木を大きく分けて3つの部分に分けて削りだす。


セフィリアは魔法を自重無しで使うのでその作業は恐ろしく速い。

あっという間にネック、ピラー、筐体を作り上げた。それを接合、更に弦として使う天空龍の髭を張る。


そして劣化を防ぐ魔法‥‥‥‥最早神話級の楽器が劣化するかは疑問ではあるが、するに越したことはないだろう。それをかけ、更に塗料でそれっぽく装飾していく。



やがて時間にして2時間ほど経過したとき。



その神々しい竪琴は完成した。


竪琴はセフィリアの腰より少し高いくらいの高さで、木製ならではの温かみと、神話級の素材を用いたためか。神々しさを漂わせる一品となった。


試しにセフィリアが指で弦をはじく。




 ―――――――――――――――♪




 「うわぁ‥‥‥‥‥」

 「こいつは‥‥‥‥‥凄いな」

 「わしに音楽は全くわからんが。 この音はずっと聞いていたい気さえするなぁ」

 「うわぁ、なんだろ。 すごく耳に優しい音だ‥‥‥‥‥」

 『ホント、セフィリアって呆れるほどに多彩よね』

 


その優しくも、魂を震わせる程に神々しい音色に一同は感嘆の声を漏らした。


しかしその中にリカンの声が無かった為に一同は自然と彼へと視線を移す。


そしてぎょっとする。

なぜならそこには、口を半開きにしたまま涙をこぼすリカンの姿があったからだ。




 「ああ‥‥‥‥‥‥ 何という事だろう‥‥‥‥‥ これぞまさに至極の音、俺が求めた音だ‥‥‥‥」




リカンは感激していた。


出会いはいつも通り、アホな精霊の導きに合わせただけの、単なる偶然だった。

しかしその出会いは始まって数日も経たぬうちに彼が人生で一度も経験したことのないような冒険をもたらし、今はこうして最高の音、追い求めたそれにいとも簡単に引き合わせてくれた。



そのことに多少の悔しさはある。


しかしそれ以上に、彼の胸の内を満たすのは歓喜であった。



セフィリアが指を止める。



演奏が止まってしまったことに誰しもが名残惜しそうな表情を浮かべたが、すぐにパチパチと改めてその凄さをたたえるための拍手を送った。


セフィリアは若干照れくさそうに頬を指で書きながら、たった今作った楽器を手に立ち上がった。


流石に楽器をむき出しというのはセフィリアも嫌だったのか、十八番の魔法でしまうと作業部屋の出口に手をかける。



「ほら行くぞ? 今日の目的は楽器作りじゃなくて、この楽器で音楽を奏で、宿に泊まれるようにすることなんだからな」



その言葉に、誰もが本来の目的を思い出し、今の時間を思い出して慌てたのは言うまでもない。



時刻は丁度飯時。


宿屋に最も人が集まる、最高の時間帯だ。 


本来であれば竪琴、ハープは一朝一夕で作れるものでもなければ、様々な部品や道具などが必要になります。しかしこの物語では道具を魔法を用いることによって不要としており、正規の楽器製作とは大きく異なり、労力もまるでかかっていません。

あらかじめご了承ください。

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