外伝・”嘘から出た実”
少し感傷的な話に仕上がりました。
是非最後まで読んでいただければと思います。
外伝が全然外伝じゃない。
ひょんなことから、本来であれば決して出会うことのない未来の世界、ある意味異世界と呼べなくもない世界で古書店『ふしぎのくに』を営むセシャトとの邂逅を果たしたフォルトゥーナ。
そして”物語を司る神”という一面も持つセシャトは”面白いもの”を求めてやってきたフォルトゥーナにweb小説を勧めようとするも、様々なものに向けられるフォルトゥーナの好奇心を満たす手伝いを先にする羽目になるのだった。
結局なんにでも興味を持つフォルトゥーナを満足させることができたのは夕方の事だった。
付き合わされたセシャトは流石に少し疲れた様子であったが、対照的にフォルトゥーナは満足げな笑みを浮かべていた。
内心で、これでしばらくの間娯楽で困ることはなさそうだと。
パソコン等の電子機器を神が認識し、神の間でメディア革命がおこるきっかけとなった日であった。
結局時間も過ぎてしまったがために、その日はひとまずお暇することにしたのだった。
「あ、そういえば結局web小説について聞きそびれちゃった」
フォルトゥーナは自身が元居た世界、元居た空間へと戻ってからそんなことを呟く。
しかしならばまたあの店へと行けばいいだけの話だ。
そう思いながら、じゃあ早速新しく手に入れた娯楽をと”ノートパソコン”なるものを生みだし、いざネットの海へ‥‥‥‥‥‥と思ったが。
「あれ?」
そもそもWi-Fiが通っていないこの世界ではネットが使えなかった。
翌日。
セシャトはいつも通りの日々を送りながらも、昨日訪れた女性のことが気になって仕方が無かった。
日本人離れした容姿に、見るものすべてが珍しいといったあの様子。まるで自分が初めて見た光景がこの古書店であるとばかりであった。
それはまるで‥‥‥‥‥
「わたしに似ている‥‥‥‥‥ような気がします」
「奇遇だね。 私もそう思ってた」
「わ!」
少し意識がそれていたセシャトの前には、何時の間にかその当人の顔があった。
驚くセシャトの様子を見て、女性はいたずらが成功した子供のように無邪気な笑みを浮かべて笑う。
「ダメだよ? 常に集中していないといつ寝首をかかれるかわからないんだから」
「ね、寝首をかかれるですか‥‥‥‥‥」
「そう。 まあこの世界ではそんな心配はないのかな」
「え? 今‥‥‥‥‥」
「‥‥‥‥‥失言。 忘れて?」
女性は苦い顔をしながらセシャトにそう言ったが、残念ながらそう簡単に忘れられるような言葉ではない。
セシャトは結局、あいまいな反応を返すことしかできない。
そんな反応に流石に無理があると悟ったのか、女性は頭をガシガシと掻いた後に開き直って自己紹介を始めた。
「はあ、もういいか。 私は‥‥‥‥‥うーん。 まあ異世界の神様だと思ってくれれば。 司るのは”運命”で名前はフォルトゥーナ」
「フォルトゥーナさん、ですか?」
「そう。 よろしくね」
少し長い名前に少し困り顔になったセシャトに、フォルトゥーナは明るく返すのだった。
「じゃあ早速だけど、web小説が何なのか教えてよ」
「あ、はい。 では早速‥‥‥‥‥」
有無を言わせず話を押し進めたフォルトゥーナに何か事情があるんだろうなと察したセシャトは、自身の力を行使する。
取り出した金色の鍵を本棚に差し込み、セシャトが言葉を発すれば、棚には一冊の光輝く本が現れ、セシャトはそれを引き抜いた。
その様子を、フォルトゥーナは食い入るように見つめている。
何と言ったのかも聞き逃すまいとしていたが、残念ながらセシャトのその言葉はフォルトゥーナには理解できなかった。
「web小説は昨日教えた通り、本という実在の形を持たない小説たちの事です。 これは私の力によって疑似文庫本にしたweb小説。 読んでみますか?」
「もちろん!」
イアはセシャトから受け取った本をしばらく開かずにまじまじと眺めた後に、本のページをぱらぱらとめくりって視線だけを動かしていく。流し読みだ。
セシャトが渡したのは偶然にも、この店によく訪れるようになった少年に初めて渡した少年と同じweb小説であった。
セシャトは流し読みとはいえ、かなりの速度で読み進めていくフォルトゥーナに驚きながらも、どんな感想を抱くのだろうかと少し期待にも似た感情を抱きながらその様子を眺めていた。
やがて数分も経ったとき。
パタンとフォルトゥーナが本を閉じた。
どうやら読み終えた様だ。
フォルトゥーナは何故か深く考えるように目を閉じ、口を開こうともしないので何を思っているのかうかがい知れない。
よもやお気に召さなかったのだろうかとセシャトが不安になり始めた時、ポツリと呟いた。
「こんな小説見たことない」
「え?」
それは驚きの言葉であった。
しかしこもる感情はその一言では表せない程の物。
「私の世界の小説はもっと短くて、過去に起きたことをそのまま伝えるような、そんな物。 けれどこのweb小説は違う。 作者の思い描く世界が、読者を楽しませるような話も交えて表現されている。 きっと作者は物語を書くことが大好きなんだろうね」
イアの言葉は独白じみていて、何を言いたいのかがいまいち見えてこない。
それでもセシャトは何も口を挟むことなくその言葉に耳を傾けた。
「私達もかつては好きな物を好きなように、世界のあちこちを旅するだけのはずだった。 けれど‥‥‥‥‥それは叶わなかった。 私達は好きな物を好きなように楽しむことはできなかった。 でも今のこの世界はきっと、それができる世界なんだろうね。 少し、羨ましいよ」
それは羨望であった。
万感の思いがこもったその言葉は、別に何かの答えを求めているようではない。
ただ誰かに聞いてほしかった。そんな感じだ。
だからセシャトは何も言わずに、ただ「そうですか」とだけ答えた。
イアはその言葉にはっとすると、苦笑いを浮かべた後に「ごめん」と一言謝罪した。「暗い話をしてしまって」と。
「ともかく、面白かった。 もっとじっくり読みたいから、一度持ち帰って読んでみてもいい?」
それを断る理由はセシャトにはない。
「もちろん。 良ければ改めて感想を聞かせてくださいね」
そうしてフォルトゥーナは古書店『ふしぎのくに』に通うようになったのである。
そしてそんな日が一週間以上続いたある日。
「はい。 これも面白かったよ。 すごく趣味全開の話だったね。 妖精のこと思い出しちゃった」
イアは端的ではあるが感想を添えて文庫本をセシャトへと返す。
セシャトはその感想に笑みを浮かべながらも、自身の力を用いてそれを元の形無いweb小説へと戻していく。
そしてそれが消えていくのを眺めながら、イアが突然の言葉を口にした。
「セシャトさん。 私もうここには来れないんだ。 私」
「え?」
突然の別れの言葉にセシャトは驚き、ちょうど手に持っていたカップを落としそうになって慌てて持ち直し、机への上に置く。
「突然ですね‥‥‥‥‥」
「うん。 そろそろ私のやってることが最終局面に入りそうでさ。 残念ながら、もうここに来る時間は作れなさそうなんだ」
「そうですか‥‥‥‥‥ 仕方ないことだとわかっていても、やっぱりお別れは悲しくなってしまいますね」
そう言って表情も少し暗くしてしまったセシャトに、フォルトゥーナは元気づけようと、あまりしない冗談を口にする。
「まあそんなに暗い顔をしないで? もしかするとほら、この世界のどこかにいるかもしれない私がこのお店に偶然訪れるかもしれないしさ‥‥‥‥‥‥」
その時だった。
古書店『ふしぎのくに』の扉が開く音が聞こえ、偶然にも2人同時に振り返り、そして入店した人物の姿を認めるや否や驚愕の表情を浮かべた。
1人は白い長髪に紅目が特徴的な少女。
しかしその目は虚ろというか、ボーっとしていて、どこか人形のように見えた。
そしてその少女の手を引くのは、セシャトの前にいるフォルトゥーナの姿そのままの女性であった。
2人と2人の視線が重なる。
少女は相変わらずボーっとしたままであったが、しかしフォルトゥーナの姿と瓜二つの女性の表情は、瞬く間に驚きの表情へと変わり、そして名前を呼ぼうとしたのだろう。
口を開きかけたが‥‥‥‥‥‥。
「そっか。 うまくいったんだね」
ポツリと、涙声でそう呟いた後、フォルトゥーナはセシャトの耳元に顔を寄せて囁いた。
それは別れの言葉。
「ありがとうセシャトさん。 貴方のおかげで、ただの娯楽探しの最後に会いたい人に会えたよ」
「ま、待ってください! 何が何だか‥‥‥‥‥‥!」
しかしセシャトの言葉にフォルトゥーナは答えることなく、その姿は掻き消え、セシャトはただ呆然と同じように立ち尽くす女性を見つめるしかなかった。
セシャトはその後、何かを知っていそうな女性に話を聞こうと思ったが、女性は申し訳なさそうにそれはできないのだと口にした。何でも、複雑な事情があるのだと。
しかしこれから時々このお店に通いますという言葉を残して、少女と女性は『ふしぎのくに』を後にしたのだった。
誰もいなくなった店内で、少し釈然としない思いを抱えながらセシャトはweb小説を見ていた。
何となく、そこに何かがあるような気がしたからだ。
するとふと、ある小説の登場人物の容姿に目が留まる。
金髪碧眼の少女。
年齢こそ違うが、口調と言い、性格と言い完全に一致するその少女の名はイア。
セシャトはその小説を読み進めていく。
その小説は未だ完結はしていなかったが、それでもセシャトはフォルトゥーナが最後に残した言葉の意味を知ることはできた。
セシャトは今はもういないフォルトゥーナに言う。
「貴方の夢がかなう事、お祈りしています。 フォルトゥーナさん」
その物語はどんな結末を迎えるか、書かれていない以上セシャトに知ることはできない。
それでも。
もし彼女たちがこの小説で描かれる神様だったとして。
フォルトゥーナが冗談で口にした言葉、そしてその後に起きた出来事が”噓から出た実”であったとするなら。
少なくともこの物語がハッピーエンドを迎えることは、約束されたのではないだろうか。
これにて外伝は終了。次回から迷宮都市での物語が再開します。
お楽しみに!




