それぞれの実力
金級冒険者となるための条件の一つにある『迷宮の攻略』という条件。
実はこれも様々な制約のような物が存在する。
まず一つに攻略する迷宮はなんでもいいというわけではない。
例えばセフィリア達が降り立った『魔銀鉱山』を攻略したところで、その迷宮は初心者向けで危険性のある魔物は一切現れない場所だ。
金級冒険者になる者としての力を示すには役不足である。
その為この対象となる迷宮はギルド側がいくつか定めており、冒険者はそのうちの一つを自身で選び、攻略するというわけだ。
そしてセフィリア達が選んだ迷宮。その名は『”試練”の迷宮』。
この迷宮はポピュラーな洞窟迷宮となっており、他の迷宮に比べても高難易度であることで知られている。
しかしセフィリア達が、というよりはセフィリアが目を付けたのはそこではない。
セフィリアがこの迷宮に目を付けた理由。この迷宮には他でもない、アーカルム22王が一人、“試練”の王が居付いているという話を聞きつけてだ。
セフィリア達は迷宮バビロン近辺について早々出会った4人組少年少女冒険者パーティーに案内を頼むことにした。
最も一行の中には冒険者であったゴスペル、オーギュスト、サリィに加え、カレラも冒険者でこそないものの修行の一環でここに来たことはあった。更に言えばリカンなどは迷宮から来ているのだ。
道が分からないわけがない。
それでも道案内を頼んだのは、自分たちのこと、つまり古龍であるニーヴィルに乗ってやってきたことを言いふらさないよう釘を刺す為というのが大きい。
オーギュストはドワーフとしての血がうずいたのか彼らの運ぶ魔法銀を一秒でも早く見て、触れたいという願望もあったようだが。
人の口には戸が立てられないとはよく言うし、実際事実だ。
しかもこれが親しい相手ならまだよかったものの、生憎の初対面だ。
ただの口約束では瞬く間に噂として自分たちの情報が拡散していくのは目に見えている。
だからイアの提案でこういう手段をとることにしたのだ。
「魔法って火とか氷の魔法しか使ったことが無いな‥‥‥‥‥ こんなのはどうだ? ”風よ、穿て”」
セフィリアの言葉に従い、目に見えるほどに激しく渦を巻く小さな竜巻が数個生みだされ魔物へと向かっていく。
ジャリジャリジャリジャリッ!!
その小さな竜巻を頭から受けたことによって、道中襲い掛かってきた魔物は頭から掘削されて魔法が消えた後には、残ったのは元が何なのかもわからないレベルで細切れになった魔物のミンチであった。
「ふっ、はっ!!」
掛け声とともに素早いスピードでかけながら、次々と魔物の首を己の爪で背後からはねているのはイア。
リカンから多少ではあるものの気配を消す魔法、”ハイディング”を教わったイアは、その物分かりの良さと順応性でほぼ完全に自分の物としていた。
「おらよっ!!」
ズダンッ!!
巨大な大剣、しかもただの剣ではない。
古龍の素材を基に作られた魔剣をまるでギロチンの様に振り下ろし、魔物を一刀両断にする黒騎士はゴスペル。
「はっはっは! わしができるのは鍛冶だけではないぞお!! フンッ!!」
ブシャッ!!
巨大なハンマーで押しつぶされた魔物は、その質量によっていとも簡単に押しつぶされ大地のシミへと変わる。
そしてそれを成したのは鍛冶師であり、ドワーフならではの筋肉質の体を持つ老人オーギュストだ。
「私も忘れないでほしいかな、もともとはバリバリの戦闘系だったんだからね! ゴスペルにも腕が鈍ってないってとこ見せないとね?」
サリィが自身が持つ剣、3本あるうちの1本を抜いた。
それはいわゆる刀と呼ばれる物。
サリィが手にした1本は陽光を受けて鈍く輝き、久しぶりの戦いに歓喜しているようであった。
「獣牙・狼刃」
サリィが自身の愛刀の名を呟くと同時、凄まじい速度で駆ける。
それは獣人ならではの身体能力を活かした戦闘スタイル。
サリィは自身のキルゾーンに魔物が入った瞬間、握った刀を素早く振りぬいた。
その太刀筋はぶれることない、綺麗な一本線を辿り―――――――――――――――
スパッ!
まるで柔らかい果物を包丁で切ったかのようにいともたやすく、その中に筋肉も骨も内臓もあるはずの魔物の体は斬り捨てられ、その赤黒い臓物を垂れ流しにして地に伏せた。
対するサリィの刀は、その血を浴びてそれこそ獣が肉をむさぼった後であるかのようにその刃に血を滴らせていたが、刃こぼれは一切ない。
「うーん。 返り血を浴びないようにするのはうまくいったけど、斬る場所は失敗したかな? ちょっとつかえちゃったような気が‥‥‥‥‥」
刀を振ることで血を払いながらサリィが呟く。
だがその内容はとんでもないものだ。
生物の骨とは固い。
剣であれ、それにあたればすんなりと刃が通ることはないだろう(セフィリアやイア、ゴスペル等の武器は魔剣という普通とは違う切れ味を持つ武器なので別として)。
だからサリィは骨のつなぎ目である部分を的確に狙い、斬ることによって、魔物の体を両断して見せたのだ。
しかし今回は久しぶりの戦闘ということもあってか少し失敗し、骨に刃がぶつかってしまったようだとぼやいていたのである。
そんなサリィの頭をポンポンと優しく叩く黒鎧が1人。
ゴスペルだ。
「相変わらず、恐ろしい腕だな。 頼りにしてるぞ」
それにサリィも若干曇らせていた表情を基に戻し、笑顔で答える。
「当然。 ゴスペルが死なないように、今度は私が傍でちゃんと守っててあげる」
そんな2人の様子を、どこかまぶしそうにセフィリアは眺める。
そんなセフィリアの横に、イアが並び立って言った。
「セフィリアさんには私がいるよ」
その言葉にセフィリアはきょとんとした表情を見せたが、だが気を使ってくれたのだと気づくといつものように笑い、イアの頬を軽く引っ張りながらつぶやく。
「小生意気なことを。 ‥‥‥‥‥でも確かに。 私らしくはなかったな」
いつも通り仲のいい一行であったが、カレラはといえば。
『ハア~。 リカンだけならともかく、今は人の目があるから戦えなくって残念ね。 せっかくセフィリアに強くなったとこを見せる機会だったのに』
そんなことを内心思いながら、猫の姿でその尻尾を不機嫌に揺らしていたし、リカンはといえば
「おお、おお!! なんという鮮やかな腕前! 魔法と言い、戦闘技術と言い、今まで見てきたどんな戦士よりも強く魅力的だ‥‥‥‥‥!! いい、いいぞ、俺の中で、最高の歌が構成されていくぅ!! この感覚、最高だっ!!」
『きもいんだよこの歌馬鹿エルフが!! というか興奮してむやみやたらに俺の体を弾くんじゃねえ!! 力強すぎるから痛いんだよ!!』
興奮のあまり何事か叫びながら頭に浮かぶ歌を興奮のまま演奏して、その楽器に宿る妖精に罵倒されていた。
それを見る少年少女たちはといえば、その実力を見せつけられたことによる自身との力量差を実感したことによる恐怖と、リカンの‥‥‥‥‥うん。
ちょっとトリップした様子を見たことによる恐怖によって、絶対にこの人たちのことは口にしないよう心に誓い、またリカンには極力関わらないようにしようと決めたのでイアの提案は大成功、だろうか?
獣人ってなぜか和風なイメージ。




