銃士との戦い
「なあ聞いたかよ? 今期の新入生の主席が決闘をするって話」
「当たり前だろ? 主席ってことを差し引いてもヘンゼルの家、ブルース家は大貴族だぜ? 話が広まらないはずないだろ」
「でも相手は誰なんだろうね? ヘンゼル様は実力も相当なものだよね」
「そりゃあ主席だもの。 よっぽど腕に自信がある自意識過剰か、底抜けのバカかのどっちかじゃない?」
「もう、もうちょっと言い方はないの!?」
ザワザワ‥‥‥‥
今はもう夜中だというのに学院は賑やかな物だった。
そして聞こえる声は学生だけでなく、本来なら彼らを注意する立場にある教師や併設された騎士団本部に常駐する騎士の物もあった。
しかしこちらは学生達のように浮かれてはおらず、緊迫した空気を漂わせている。
「おい、なぜ学院長はこんな夜中に決闘の許可を出した?」
「聞いていないのか? ‥‥‥‥悪いがここで話せるような内容じゃない。 だが今、この場所にとんでもないものがやって来ている。 それだけは知っておいてくれ」
「出入口は固めたな?」
「はっ!! 2人1組を原則とし、全ての出入り口に騎士を配置、出入りを禁止し、また通路にも巡回を指揮しております!」
「”例の者”の監視役は?」
「そちらに関してはヘンゼル様が不要だと。 しかし危険に変わりはありませんので、遠巻きに数名だけ、といった具合です」
「そうか、引き続き警戒を怠るな」
「はっ!!」
なぜなら彼らはこの決闘が何故行われるのかを知っており、つまりは今この場所に、どれだけ危険な存在が訪れているのか、ということを理解しているという事。
月光があたりを照らす中、時間に合わぬ騒々しさに誰しもが非日常を予感せずにはいられなかった。
「じゃあルールを確認しようか」
「はい」
「決闘は互いが致命傷を受ける、意識を失う、反則行為を行った場合敗北となる。 反則行為は今回関係があるとするなら周囲を巻き込むこと。 以上。 簡単だろ?」
確かに簡潔だ。
しかし最も重要なことが確認できていない。
「1つ、いいですか?」
「‥‥‥‥‥何かな」
「決闘でもし相手を殺してしまった場合どうなるんですか?」
ザワッ!!
その言葉にヘンゼルとイアの間の空気だけではない、この場の空気、観戦しに来た生徒たちも含め、凍り付く。
しかし教師や騎士はといえば、驚きこそしたものの当然の質問だと感心したふうであった。
ヘンゼルもそれは同じで、一瞬驚きはしたが、しかし次の瞬間には殺気を放ち、銃を抜いて答えた。
「罪に問われることはない。 不慮の事故として処理されるだけだ」
「そうですか、なら、心おきなく”戦い”ができそうです―――――――――――――――ねっ!!」
不意打ち上等。
聞きたいことも聞けたイアは、何の躊躇もなく懐に忍ばせていた暗器の一つ、神経毒が塗られた投げナイフを3本投擲した。
「はっ!! 容赦ないじゃねえか!! いいぜ、こっちも最初から殺す気でやってやるよ!!」
バンッ、バンッ、バンッ!!
ヘンゼルは言いながら銃声を3発響かせナイフの全てを撃ち落とすと、更にイアに一撃を放とうと視線を向けて、すでにイアがそこにいないことに気付く。
「何ッ―――――――――――――――!?」
ゾクッ!!
「!!?」
驚きに声をあげたヘンゼルだったが、突如背後から感じた怖気に、振り返ることもせず反射的に銃を後ろへと放った。
「!? くっ!」
短い声と共に、自身の背後からの怖気が消えたことにヘンゼルはやはりその正体がイアであったことを確信する。
「やっぱりまだ奇襲は苦手だな。 うん。 泥臭く戦うのが私にはあってる気がする」
そんなことを言いながら再び構えを取り直し、ヘンゼルの隙を伺うイア。
そこに奇襲が成功しなかったことに対する落胆や、もし銃弾を回避できなければ死ぬことになっていた、その事実に対する恐怖はなく、ただ淡々とした考察をしているだけであった。
その明らかに状況とは不釣り合いな様子に、いよいよヘンゼルの中に残っていた僅かな油断も消えてなくなった。
「はっ、やっぱりまだ俺も内心どこか油断してたか? まあ‥‥‥‥‥」
ダダダダダダダダダンッ!!
銃声が連続して鳴り響く。
イアは何発か最早数えることもできない弾丸を、流石に防御は不可能と判断し弾道から走って逃れ事なきを得る。
しかし今度はその先に追い打ちの弾丸が打ち込まれイアは動きを止めざるを得なくなり、すると動きが止まったところに急所を的確に狙った弾丸が放たれた。
「くっ!?」
そうなってはイアには弾丸をはじく以外に手段はなくなるわけだが、頭、心臓の2点を庇えば、当然はじくための武器をつけた両の腕はお留守になる。
バンッ!!
「あっ、ぐうぅ!?」
「「「イアちゃん!!」」」
訓練場の観戦席にてイアを見ていたゴスペル、サリィ、オーギュストが声をあげる。身動きが取れないカレラもその近くで戦いを観戦しており、その表情が辛そうに歪んだ。
防御がおろそかになったイアの右足首に銃弾が当たり、鮮血が飛び散ったのだ。
ヘンゼルが不敵に笑いながら言う。
「足が速い敵ならまずは足をつぶす‥‥‥‥‥ 常識だよな?」
ここでイアは自身の予測が外れたことを悟った。
「あの銃‥‥‥‥ 魔銃の類か。 厄介だな」
そう言ったのはオーギュストだ。
しかしそれにサリィは疑問顔。
「魔銃? それって魔剣の銃版みたいなものでしょう? でもそんな、何というか派手な攻撃をしたようには見えないけど」
「ああ、だが間違いなくありゃ魔銃だ。 なんせ‥‥‥‥‥」
「弾切れする気配が無い、だろ?」
オーギュストの言葉に続けたのはゴスペルだった。
「知ってたか、ゴスペル」
「まあな。 使うやつこそ少なかったが、銃を使うやつも傭兵の中にいないわけじゃなかった」
「??? ちょっと、どういうことなの? 教えてよゴスペル~~」
そもそも銃について詳しく知らないサリィはそれを聞いても未だにわからなかったらしく、ゴスペルに説明を求める。
「ああ、分かったからくっつくなって! 銃ってのは弾丸‥‥‥‥ 弓の矢みたいなもんだな。 それを高速で撃ち出す武器だ。 だから当然弾がないなら使い物にならない武器だし、一度に込められる弾数には限界があるのが普通。 ところがヘンゼル、様が使ってる銃はあれだけ小型でありながら、未だに弾切れの気配が見えない。 おそらく‥‥‥‥」
「ああ、恐らくあの魔銃のもつ能力は”魔力を媒体として無限に弾が生み出せる”‥‥‥‥‥ そんなところじゃねえか? 単純故に、恐ろしい能力だよ」
「? でもそれなら魔力がきれるまでよけ続ければいいじゃない」
「それができればいい、がな」
ゴスペルの言葉に、オーギュストも厳しい表情のまま頷く。
視線の先では、変わらずヘンゼルの一方的な攻撃が続いていた。
「ふっ、ふっ、フ――――――――――ッ」
乱れた息を整えようと、訓練をする中で見つけ出した呼吸法に切り替えるイア。
しかし戦いの場において休む時間などありはしない。
もっとも今回の場合はほぼイアの身が疲労を募らせている状態であった。
何しろイアの武器は暗器をのぞけば拳のみ。
対するヘンゼルは銃。遠距離武器だ。
イアが距離を詰めれば当然ヘンゼルは回避するが、そもそもそうなること自体少ないのだからヘンゼルが消費する体力が圧倒的に少ないことは言うまでもない。
それに暗器は相手の意識が外れている時に使った時にこそ効力を発揮するものであり、ヘンゼルが完全にイアを認識している状態では使ったとしても大した効果は望めない。
「ほらほらどうしたぁ!! さっきから逃げてばかりじゃねえか、それじゃあ俺には勝てねえぞ!!」
「ぐっ!? まだまだっ!!」
イアは必死に回避するも、徐々に体が重くなっていく感覚に自身の時間切れが近づいていることを悟る。
右足に目をやれば傷口から流れる血が服に滲み、黒い服を更にドス黒く染めていた。
『このままじゃ意識を失ってどのみち”負け”になる、勝つには一瞬でもいい。 この拳を届かせる隙を‥‥‥‥‥!』
そこで、イアの頭に一つのひらめきが。
『そのためには悟られないようにする必要がある。 やれる? いや‥‥‥‥‥やるしかないっ!!』
そしてイアが形勢を逆転すべく動いた。




