独りぼっちの吸血鬼のお話
※2018/3/4 前話を今回の話に合わせて一部修正
昔、あるところに。
吸血鬼と呼ばれる種族がおりました。
彼らはとても高潔で、誇り高い種族でありましたが、他の種族には畏れられ、忌避されていました。
それは彼らが他の生き物の血を吸うことを好んだためです。
しかし彼らは血を吸わなければ死んでしまうというわけではなかったし、最悪同族から少し血をもらえばそれで十分でした。
ところが他種族の者はそんなことは知りません。
知っていたのは吸血鬼は生き物の血を吸うことを好む、ということだけ。
彼らはいつしか迫害の対象となり、誰も知らぬ場所でひっそりと暮らすようになったのでした。
そんな吸血鬼の中には特別な存在がいました。
それは始祖吸血鬼と呼ばれる、吸血鬼の祖、最初の吸血鬼。
その力は元より強力な種族である吸血鬼をはるかに凌駕していました。
まず寿命は現存する種族の中では最も長命な妖精族を超える寿命を持つ吸血鬼ですが、始祖吸血鬼はそれさえも越える寿命を持ち。
力でも、魔法に偏ってこそいたものの、同族で右に出る者はいませんでした。
血、つまりそこに含まれる魔力を吸うという特性を持っているために、吸血鬼は全種族の中でも1、2を争う力を持っていたというのに。
けれど始祖吸血鬼は心優しく、その力が私利私欲に使われることはありませんでした。
だから同族は始祖吸血鬼を愛し、始祖吸血鬼もまた、同族たちを愛しました。
その関係は、永遠に続くもののように思われた‥‥‥‥すくなくとも、始祖吸血鬼はそう思っていたのです。
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「貴方‥‥‥‥ それって‥‥‥‥」
「とある知り合いから聞いた話だ」
セフィリアは襲い来る”死”の薔薇を斬って、斬って、斬りながら、昔話を続けた。
「しかしその関係は崩れることとなる」
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始祖吸血鬼は始祖吸血鬼であるがゆえに、際限ない苦痛を味わうことを定められていたのです。
始祖吸血鬼は心優しいが故に同族を愛しました。
けれどその同族の命は無限ではなく、時が来れば先立ちました。
始祖吸血鬼にはいつまでたってもその時は訪れませんでした。
始祖吸血鬼は女であったが故に愛する者がいました。
けれどその者はやがて老い、そして目覚めることがない眠りにつきました。
始祖吸血鬼は愛した人の最期を見送ることしかできませんでした。
始祖吸血鬼は心優しいがゆえに、幾度もの別れを繰り返すそのたびに癒えぬ心の傷を負いました。
やがて始祖吸血鬼は死を求めました。
しかし定めは無情にもそれを否定したのです。
吸血鬼には共通してある一つの弱点がありました。
それは日の光、そうでなくとも、一定以上の熱や光にさらされると体が燃え尽き、灰に変わってしまうという、致命的な弱点。
最も服などで遮ることで緩和することができたのですが、始祖吸血鬼は生まれたままの姿で日の下にその身を投げ出したのです。
けれど訪れたのは死ではなく、永遠に近い苦痛でした。
始祖吸血鬼はその力の強大さの副産物があったのです。
それは驚異的な再生能力。
それがもたらしたのは、日に焼かれてもその直後には再生し、そしてまた焼かれるを繰り返す、生き地獄。
始祖吸血鬼は自身が定めから逃れられないことを悟り、痛みと悲しみに泣き叫びました。
□□□
蔦がセフィリアの頭部を、心臓を、的確に貫こうと襲い掛かる。
しかし。
「鬱陶しい‥‥‥‥”燃えろ”」
ゴウッ!!
その一言で炎熱が迸り、襲い来る異質な植物を焼き尽くす。
が、そこへ畳みかけるように氷剣が襲い掛かった。
しかし狙いは甘く、とてもセフィリアにあたるようなものではない。
セフィリアは危なげなくそのすべてを回避した。
「なんで‥‥‥‥‥」
それを放ったカレラはといえば震える声で、涙目になって言う。
「なんで!! それだけのことを知っておきながらっ!!」
その瞳には狂気の色はさほど抜け落ちているように見えた。
代わりに宿ったのは怒りの色。
しかしそれをセフィリアは無視してこの話の結末を語った。
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更に始祖吸血鬼の悲劇はこれにとどまりませんでした。
なんと愛した同族たちに牙をむかれたのです。
当然、始祖吸血鬼は何故だと問いかけました。
対し同族たちはこう答えたのです。
「貴方は強すぎる。 それこそ、あこがれの対象というだけでは収まらない程に」
と。
そして始祖吸血鬼は同族たちに襲われ、始祖吸血鬼はとうとう居場所さえも失ってしまいました。
そうして最後に残った始祖吸血鬼は、本当の独りぼっちになってしまったのでした。
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「これが、私の知っている始祖吸血鬼の話‥‥‥‥ お前についての話だ。 カレラ」
「‥‥‥‥‥‥」
セフィリアの語りが終わっても、カレラは黙ったままで何も答えようとはしない。
しかし狂気ではない、怒りに彩られた瞳が語られた話が真実であったと如実に物語っていた。
「お前、寂しかったって、”私に言ったよな”?」
「っ!?」
セフィリアが口にした言葉に、カレラは目を見開いた。
「あれはもう数千年も前か。 私がふらりと立ち寄った森にお前がいて。 『なんでこんなところにいるんだ』と聞いたら、お前がそんな話をしたんだ」
「‥‥‥‥‥」
セフィリアは勢いが弱まるどころか、むしろどんどんと増していく蔦をかき分けるようにしながらカレラへと歩み寄っていく。
「お前が何を思って”死”の王なんていうよくわからないものになったのかは知らないが‥‥‥‥‥」
いよいよあと数歩で手が振れるという距離まで2人が近づく。
しかしそこで、蔦が巨大な緑の壁を作り出し、2人を隔てようとしたが‥‥‥‥‥‥‥
「邪魔だ。 ”燃えろ”」
最早その言葉が言霊であったかのように、瞬く間に蔦の全ては焼き払われ、うちにいたカレラがセフィリアの目の前に現れる。
そして。
ガッ!!
「っく‥‥‥!!」
セフィリアはその異常な腕力をもって、片腕でカレラの首を握り、そして持ち上げた。
セフィリア程ではないにしろ、優れた肉体を持つカレラだから呻くだけですんでいるが、普通ならばそのまま意識が落ちてもおかしくはない行為だ。
「カレラ。 お前の願いを歪めた存在がいるな?」
「う、あ‥‥‥‥ 何の‥‥‥‥」
「記憶をいじられたのか何なのかは知らないが‥‥‥‥‥ 私と以前あったことも覚えていなかったようだしな」
「え‥‥‥‥?」
セフィリアは驚くカレラの、頭部を見つめた。
「見えているぞ、”死”の王」
セフィリアが呟くと共に、カレラが突然白目をむいたかと思うとガクリと項垂れ、脱力した。
するとセフィリアは、なんとそのカレラの体を思いっきり放り投げた。
しかし意識を失ったかに思われたカレラは、突如として現れた蔦によってその勢いを殺し、まるで獣ののように両手両足を地面に突き立てて難なく着地して見せた。
いや。
それはもうカレラではない。
「ケヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!!!! ツカエナイオニンギョウ!! ダマラセタ!! オマエジャマ!! シネ!! シネ!! 死シシ死死死しにいしんシシしししっしいシシ死!!!!!!」
唾を飛ばし、明らかに異常な様子で喚き散らすカレラの頭には髑髏の意匠が施された王冠があった。
今までのセフィリアの嫌悪はカレラに向けられたものではなかった。
全てはカレラの中に巣食い、その願いさえも歪めた存在へとむけられたもの。
本性をさらしたその存在に、いよいよセフィリアは敵意を剥き出しにした。
「お前は跡形もなく消し去ってやる、”死”の王」




