初邂逅は衝撃と共に
「毎回こうなるのか‥‥‥‥」
セフィリアが呟く。
その隣には誰もいない。
イア、ゴスペル、オーギュストを含めたあの列に並んでいた者達は皆、謎の極大魔法の被害者として保護されている。
そしてセフィリアはといえば、全員が気絶する中で1人無事に立っていたことから魔法になんらかの形で関わっていると見られて連れられた次第である。
場所は第3区の貴族街、王都騎士団本部だ。
最早騎士団とは切っても切れない縁なのではないかと思わずにはいられないセフィリアである。
だがもしイアかゴスペルがそれを聞いたならば、己の行動を省みろ!と言われたのは間違いない。
ちなみにセフィリアが通された.....と言うより、連行された場所は、牢屋でこそないものの石造りでなんの装飾もされていないおおよそ客人が招かれるような部屋ではなかった。
特になにもすることもないので2つだけ置かれた椅子の一つに腰かけた時、丁度扉があいて、1人の人物が入ってきた。
だがセフィリアはその人物を見て眉を潜める。
それはその人物が騎士の出で立ちをしていなかったこと。そしてもう一つが......
「何で男の格好してるんだ?」
「.....どういうことかな?」
「いや、お前女だろ?」
その人物が女性であるのに男のような服装....つまり男装をしていたからであった。
もっともそれはセフィリアの勘ではあるが、こういった勘は外れないセフィリアである。
勘なんて、と思うかもしれないが、案外これも馬鹿にはできない。
勘とはすなわち今までの経験から情景反射的に体が打ち出した仮説であるのだから。
ともあれその勘は正しかったようで言い当てられたその人物は動揺したが、コホンと一つ咳をつくと「いろいろと事情があるんだよ」とだけ言うと、もう一つの椅子に腰かけた。
そして自己紹介が始まる。
「はじめまして。 私は国立騎手魔術師育成所.....学院の学院長をしているテオフォンだ。 ああ、何で私が来たのかと言えば、私は魔法が得意でね? 今回の一件を任せられたのさ」
これがセフィリアとテオフォンの初邂逅であった。
窓一つない殺風景な部屋の中、2人の質疑応答が始まる。
「じゃあまず。 あの魔法.....規模からして極大魔法と思われる魔法が放たれた周辺にいた人達の中で唯一人立っていたのが貴方だったそうだけど...... 術者について心当たりは?」
いきなり確信に迫るような質問を投げ掛けるテオフォン。
極大魔法とは魔法の中では最も高い威力をもつ魔法であり、また太古に失われた魔法でもある。
それについては様々な理由があると言われているが、最も多く語られるのがその危険性と、それを使う代償の大きさからである。
魔法とは魔力と言う燃料を燃やすことで使用することができる。
であるなら、魔法が強力になればなるほど必要になる燃料、すなわち必要な魔力の量も増えることは明確だ。
まして極大魔法ともなれば、一人では使用は不可能である。
圧倒的に燃料が足りないのからだ。
だからテオフォンはセフィリアがあの場にいたもの達の魔力を吸い上げて極大魔法を放ったのでは?そう考えたのだ。
何故ならばそれが、かつて極大魔法を放つ際用いいられた手段なのだから。
その予想は間違っていなかった。
もっとも「セフィリアが魔法を放った」という一点のみではあったが.....。
「心当たりも何も..... 魔法を使ったのは私だよ」
「やはり...... じゃあ聞くけど、何でわざわざ極大魔法を使った? 最悪、魔力を吸い上げられた人々が死ぬ可能性すらあったというのに」
「ん?」
ここでセフィリアはテオフォンが何か勘違いをしているらしいことに気づき、真実という名の爆弾を投下した。
「一応いっておくが、私があの魔法を使ったのは単純に詠唱?を覚えていたのがあれだけだったというだけでたいした理由はないし、周囲から魔力を吸うなんてことはしてないぞ? まあ、音と光が凄かったせいで気絶してしまったことは悪かったが........」
そのセフィリアの告白に、テオフォンの目がつり上がる。
「......嘘をつくならばもっと上手につくべきだね。 覚えていた? 太古に失われているはずの極大魔法をそもそも何故知っている? 魔力を吸収していない? あれだけの魔法を放つだけの魔力を、まさか個人が持ち合わせているとでも?」
テオフォンの言い分は最もだ。
だが今回はセフィリアもこうなるのではないかと予想していた。
今までの行動を省みたのである。
その為、この言葉を信じてもらうための証明も、どうすればいいのか事前に考えていた。
セフィリアが目を閉じる。
突然の行動に眉をひそめたテオフォンであったが、次の瞬間、その目は驚愕に見開かれることとなる。
ゴウッ!!
「なっ!?」
テオフォンが思わず声をあげてしまったのも無理はない。
本来ならば色も形もない魔力。それが今、セフィリアの周囲に淡い白色の光となって瞬いているのだから。
最も、この異常性を正確に理解することができたのはテオフォンが魔術師だったからに他ならない。
もしこれが一般人であったなら、ぼんやりと凄いなあと思う程度であったであろう。
何故ならば魔力と言うものを体感的に知っていなければ、そもそもこの光が魔力であるということにすら気づけないだろうし、何よりそれがこうして目に見えているということが如何に異状であるか理解できないであろうから。
魔力とはつまり、非常に細かな粒のようなものだと認識されている。
だから人にはそれを視認することができないのだと。
それが目に見えるということは、魔力と言う極小の粒が目に見える大きさになるまで集まっているということ。
それは恐ろしいまでの魔力密度を持っているということの証明なのである。
そしてセフィリアの周囲で漂う"魔力光"とでも呼ぶべきものの数は、1つや2つではない。
まるで清水を飛び交う蛍のように、何十、いや、何百とあるのだ。
これで驚かない方がおかしい。いや、寧ろ気の弱いものええあったならば気絶してもおかしくないような光景なのである。
セフィリアが目を開く。
その周囲には今尚、魔力光が輝いている。だと言うのに、セフィリアに魔力切れの兆候は全く見えず、平静そのものだ。
「これで証明になったと思うが」
テオフォンは首を縦に振るしかなかった。
そこからは話はスムーズに進んだ。
セフィリアが状況を説明するだけだから当然と言えば当然だが、やはりテオフォンが何も言わずに聞いていたことが大きいだろう。
しかしそれも仕方のないことだ。
あんな光景を見せられてしまっては、荒唐無稽に聞こえるような話も、確かにあり得るのかもしれないと思えるのである。
セフィリアは魔法を使った時の状況のありのままを伝え、テオフォンは王都周辺の調査をする事を約束し、そしてセフィリアにイア達がいる場所、療養所の場所を教えて別れたのだった。
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テオフォンはセフィリアが去ったのを確認してから、指につけた指輪に魔力を流す。
「シレイ」
『テオフォンか。 どうした?』
「どうした、というか...... まあ端的に言うなら、君の言っていた人物、セフィリアに会ったよ」
『何? もう王都に?』
「ああ。 ......ところでシレイ。 もう闘技大会への参加は済ませたのかい?」
『? ああ。 王からの許可さえいただければ、参加は容易だったぞ。 流石は魔族という感じだな』
「そうか......」
テオフォンが呟く。
その声には強い後悔が滲んでいた。
不審に思ったシレイは思わず問い返す。
『どうしたんだ?』
「シレイ....... 死なないでくれ」
『......はあ?』




