ギルドにて
本日二話目。
ギルド。
正式名称は「対脅威生命組織種族連合」というものだが、今となってはその呼び名を知っているものの方が少ないだろう。
そんなギルドの役回りは、脅威生命、つまりは”魔物”に関係する仕事の斡旋、並びにそれを遂行する人員の確保だ。
そしてギルドが掲示する仕事をこなす者たちのことを一般に”冒険者”と呼ぶ。
これは”未知の魔物に対峙する冒険心の溢れる者達”というのが語源らしい。確かなことは不明だが。
そしてそんなギルドは、”種族連合”という名の通りに、種族の垣根を超えて全ての国の街などににその支部を置いている。
本部は各国、大国ルーヴェン、魔族の国アスタリク、妖精族、エルフ他獣人の住む森、テミスの大森林の首都にそれぞれ1つずつだ。
そしてセフィリアとイア、そしてなぜかゴスペルは現在そのギルド、ファル支部の入口の前にいた。
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さて。
本来の予定ではセフィリアとイアの国民証を役所で作ってから向かうはずだったギルドだったが、なんとあの副騎士団長、シュバルツがどうやったのか気をきかせてすでに2人の国民証を作り、それをイアに持たせていたのである。
そのおかげで役所へと行く必要がなくなり、ギルドへと直行することができたわけだ。
ギルド支部は石造りの2階建てでそこそこ頑丈そうな建物だ。
看板は木造りの剣で、『ギルド・ファル支部』の文字が彫り込まれていた。
その建物を前にした3人の反応といえばまさに三者三様である。
イアは辺境にはなかったその建物に目を輝かせ。
セフィリアはどこか懐かしそうに目を細め。
ゴスペルはといえばこの後のことを想像して面倒そうに顔をしかめていた。
「セフィリアさん、前来てたローブはどうしたんだ?」
「ああ、動く時にローブだと煩わしくってな。 今の服に変えたよ」
「‥‥‥‥またさらっととんでもないことを言われた気がしたが要は今は手元にないってことか?」
「そうなるな」
「ハア~‥‥‥‥、おいおいまじかよ、絶対絡まれるぞ‥‥‥‥」
「どうかしたのゴスペルさん?」
無邪気にそんなことを聞くイアに、ゴスペルはため息の訳を話す。
「そりゃあイアちゃん。 セフィリアさんは見ての通りどう考えても美人の部類に入る容姿だし、イアちゃんは気を悪くするかもしれないが、イアちゃんみたいに成人したての女の子がギルドで冒険者やるってのは‥‥‥‥‥ まあないわけじゃないが、普通は親だったりが一緒に登録するもんだ。 セフィリアさんはギルドの色に飢えた男どもに、イアちゃんは気のいい奴らに、俺は嫉妬にまみれた面倒な奴らに絡まれる可能性が高いってわけだよ」
そして冒険者やら傭兵のいざこざは大抵荒事になるからな、と付け加えた。
それにイアはすこし不安になったのか元気が身をひそめてしまうが、セフィリアはといえば肩を竦めるばかりで大して気にした様子はない。
「そんなことは百の承知だ。 ゴスペルにはさっき言ったが、絡まれたことなんて今まで五万とあるからな。 今更そうなったところでどうもしないさ。 それにイア。 こんなこと、お前の目標を叶えるための旅をする上で気にしてたらはっきり言って先はないぞ。 自覚するんだ。 お前はもう辺境の村娘じゃない。 私の助けを借りて成りあがっていく冒険者だぞ?」
セフィリアの言葉にゴスペルもイアも目を丸くする。
ゴスペルは今初めて聞いたイアの目標に。
イアは自分の目標を、改めて再確認させられて。
そしてイアはその顔をきゅっと引き締め、その雰囲気を一変させた。
普通ならば意識したからと言ってこうも簡単に雰囲気さえも変えられるものではない。
それはきっと、故郷が魔物に襲われ、皆殺しになる一歩手前までを経験したからこそ得た一種の技能だろう。
その様子にセフィリアは心配はなさそうだと頬を緩め、ポンポンとその頭を軽く叩くと、自分も挑戦的な笑みを浮かべてギルド支部の扉に手をかけた。
「さあ、行こうか?」
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ギルド・ファル支部。
そこはギルドという施設としては、比較的綺麗な部類に入る。
ギルドは冒険者が集まる場所だが、冒険者とはその大半が腕に自信のある若者や傭兵、傭兵崩れなどが大半である。
その為ケンカなどが起きることは少なくないし、それが原因で血が流れることも珍しくはない。
そんな場所であるがゆえにひどい場所では壁や床に穴が開き、なにかのシミが残っているなんてこともあるのである。
そんな中、とくにそれといった傷もシミも目立たないファル支部は十分綺麗と言えるだろう。
最もそれは、まだ修復可能な範囲であるというだけであり、ここで荒事がおこっていないとか、そういうわけではないが。
そんなギルド・ファル支部に3人の珍客がやってくる。
1人は別段ギルドに来ることが珍しいわけでもない傭兵の男、ゴスペルだ。
その名前はそこそこ知れており、ここに来ること自体には大して疑問は持たれなかったが、最近の依頼で失ったはずの左腕が元通りになっていることについては誰しもが興味を持ったようだった。
2人目はおそらく成人仕立ての、14才くらいの少女。
しかしそれなりの覚悟を持っているらしく、その表情は年に似合わないほど引き締まっていた。
そして3人目。
”彼女”はその整った、いや、整いすぎたといっても過言ではないその容姿と、変わった衣装でこのギルド支部にいた者たちのほとんどの目を一瞬にして集めた。
その長い髪は雪のように白く、朱の瞳は宝石のごとき輝きをたたえていた。
黒地に金の細かな細工が施された胸当てに、機動性を重視したのか裾の長さがほとんどないズボン。
その上からは白いコートを羽織っており、大胆に晒された美脚や引き締まった腹部は隠しようもない色気を醸し出していた。
腰には一目で上質と分かる剣を刺しており、その腕もまた確かであることをうかがわせた。
そして3人はその女性を先頭に、まっすぐにカウンターへと向かっていく。
カウンターに立っていた職員たちもその雰囲気にのまれ、そして見とれてしまっていたのだが、そこはプロ、すぐに持ち直すと笑顔を浮かべて対応に当たった。
「ようこそギルド・ファル支部へ。 本日はどういったご用件で?」
「ああ、私とこの子、2人分の登録がしたくてね。 お願いできるかな?」
「わかりました。 少々お待ちくださいね」
そういって職員は、準備のために踵を返すと、奥の方へと向かっていった。
その間に手持無沙汰になった彼女たち、その中でゴスペルは「あのボケっとした奴らを正気に戻してくるわ」と未だ放心状態の傭兵仲間だったであろう者たちのもとへ向かい、女性はそれに対して軽く手を振ることで答えると、腕を組んで少女と共にその場で職員を待ちはじめた。
やがてゴスペルによって正気に戻った者達をきっかけに、静かになっていたギルドに喧騒が戻り始める。
耳をすませば、その大半は「テメエ、あの別嬪さんたちは何もんだ!?」「お前嫁さんも子供もいただろうが!!まさか浮気か!?王都の奥さんに言いつけてやんぞ!?」といったもので、女性は我慢できなかったのかクツクツと笑い、少女はそんな女性を軽く蹴ってたしなめていた。
「お待たせしました。 では、まずはこちらの書類に名前と出身地、あとはご自身の戦闘スタイルをご記入ください」
「うん? 戦闘スタイルというのは?」
「はい、ギルドの依頼の中には、大勢で挑む依頼も多々ありますので。 そう言った時に戦闘スタイルが分かると協力してくれる方々との連携も取れやすくなりますから」
「なるほどな」
ギルド職員の説明に納得したのか、女性、セフィリアはうなずくと書類と一緒に渡された羽ペンでさらさらと必要事項を記入していく。
そしてそれを職員に渡した後に少女、イアのほうに視線を向けると、戦闘スタイルの欄でペンが止まっていた。
「イア、どうした?」
「私、今まで戦ったことないから‥‥‥‥」
「ああ、そうか」
その言葉にセフィリアはうなずき、そして聞いていたであろう職員に視線で訴える。
「でしたら、この後にする”審査”で大体の適性が分かりますので、それで判断すればいいかと」
「”審査”?」
「ご存じないのですか? ”審査”は鑑定神様のご加護によって非常に強力な”鑑定”の魔法が付与された魔道具を用いてその人物の能力の大体の数値や、適正、更には”スキル”、”称号”といったものまでわかるのですよ」
「へえ‥‥‥‥”神”に、”スキル”と”称号”‥‥‥‥か」
「?どうかしたの?」
セフィリアの不穏な空気を敏感に感じ取ったイアが、コートのすそを引っ張る。
そこでセフィリアははっと我に返り、「なんでもない」と言って頭を撫でた。
「まあとにかく、それを受ければいいんだな?」
「はい。 では先にイアさんの方から受けていただきますね。 イアさんは女性でまだ成人したてのようですから、場合によってはこちらから登録の方をお断りさせていただくことになりますので」
「道理だな」
その言葉にセフィリアは頷き、イアは緊張に顔をこわばらせた。
なにせ、場合によってはこの時点で自分の夢が頓挫するかもしれないといわれたのである。
だがセフィリアに気にした様子はない。
「イア、安心しろ。 別にお前の夢をかなえる方法は冒険者としてなりあがるだけじゃないんだ。 それに適正だったりって話はお前が気負ったところでどうこうなるものでもないだろう? 力を抜け」
その言葉にイアはほっとしてその力を抜いたが
「その時はちょ~~と、激しい訓練をするようになるだけのことだ」
また力を入れなおしてしまった。
そんなやり取りをしているうちに、また奥に引っ込んでいた職員が戻ってきて、手に持っていた縦25cm横10cn程度の板の形をした魔道具を差し出した。
「では、こちらを。 このくぼみに血を一滴たらせば終了です」
果たしてイアの適性や如何に。
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