水の街・ファル
投稿が19:00を過ぎてしまった‥‥‥申し訳ありません。
改めて。2章開始でございます
傭兵ゴスペルが持ち込んだ魔物の群れに襲われた辺境の住民たちの救出の依頼を引き受け、そこで少女イアをはじめとした辺境の人々を無事救出することに成功した噂の”願いをかなえる旅人”改めセフィリア。
しかしその後やってきたファルの街の守護騎士団に詳細不明の人物として怪しまれてしまう。
そしてその会話をきっかけに、セフィリアは”願いを叶える旅人”であることをやめ、ただの”旅人”として過ごしていくことを決意する。
そしてひょんなことから共に旅をすることになったイアと、他の何人かの辺境の住民たちと一緒に、ひとまずファルの街へと向かうのだった。
そして現在。
一行は2日をかけ、水の街・ファルへとたどり着いていた。
水の街、ファル。
大国ルーヴェンに属するその街は、豊富な地下水を蓄えていること、そして大国ルーヴェンにいくつか流れる川の一つが街をまたぐように流れていることから『水の街』と呼ばれている。
そんな街であるから、あちこちにまるで葉の葉脈のように水路が引かれているのだが、その景観が美しいとその豊富な水資源だけでなく、観光的な意味でも人気が高い街である。
そんな街の入口、街への出入りを監視する関所には、待つのがおっくうになる程の人が並んでおり‥‥‥‥
ということはなく。
関所に並ぶ人の数はそれほどではなかった。
多くの人が訪れる街の関所には、必ず人の行列ができるものだと思っていたイアは不思議に思い、とりあえずセフィリア、ではなく、騎士の人に聞こうと‥‥‥‥
「待て待て待て、イア。 何かわからないことがあるなら私に聞けばいいだろう? これでも旅をしていたんだし。 なんでそこであんないかつい鎧の集団に聞きに行こうとするんだ!?」
「え? だってセフィリアさん、(野営の時の)前科があるし‥‥‥」
「!?」
さりげなく騎士団を罵りながらイア詰め寄ったセフィリアに何を当たり前のことをといった感じで返すイア。
すでに常識についてセフィリアに聞くのはやめた方がいいと悟ったイアである。
しばらくショックでフリーズしていたセフィリアだが、なんとか持ち直すとコホンと軽く咳払いをした後に自分のコートから1枚の縦65横95mm程のカードを取り出して見せた。
それは何かの金属製で、表面にはいくつかの文字が書かれている。
それをイアに渡すと、セフィリアはそのカードについて話し始めた。
「それはルーヴェンの王都、もしくは主要の街にある役所で申請すると造ることができる”国民証”だ。 それはかなり高度な”魔道具”でな。 それを造った時点で国が持つ対の魔導具、名前は知らないが‥‥‥ に情報が共有されるようになっているのさ。 そうすることで個人個人の情報を管理しているから、危険人物でもない限りはこれを見せさえすれば、関所は簡単に通過できる」
ちなみに魔導具とは魔法を用いて何らかの特殊な効果を持たされた道具のことである。
イアはその説明を聞いて、ではその国民証を持っていない自分のような人たちはどうすればいいのだろう?と首をかしげる。
セフィリアはそれでイアが何を悩んでいるのか察したのか、イアに関所を見るよう促す。
そこではちょうど、自分たちのように国民証を持っていないらしい人が何事かを関所の兵士と話しているところだった。
「ああして、国民証を持っていないなら関所の兵士に申し出ることで無料で仮の国民証を発行してもらえる。 だがそれは3日しか使えない上に、再発行はされない。 つまりはその仮の国民証があるうちにちゃんとした国民証を作ってもらえという事さ」
ちなみにこのカードには名前や出身地など、簡単な情報が記載されるようになっている。
セフィリアはついこの間まで、名前どころか今ですら出身地不明のはずなのだが、何故これを持っているかといえば、当然コネである。
ギルドへの登録がそうであったように、かつて様々な願いという名の”依頼”をこなしてきた彼女はルーヴェンの国民証もつくっていたのである。
しかしその国民証は使えこそするものの、書かれている内容はめちゃくちゃだ。
イアは辺境出身ということもありまだ簡単な読み書きしか知らなかったから気づかなかったものの、今後旅をする上で使っていくには何かと不便だろう。
『イアの国民証作るときに私も再発行しないとなあ‥‥‥‥‥』
未だ面白そうにセフィリアの国民証を眺めているイアを見ながらそう思っていると、関所で手続きを済ませたガッシャーがやって来て言った。
『さあ、手続きも終わった。 早速本部へと向かおうか』
「では、ゴスペル殿がこの方が安全である‥‥‥ そう保障されると?」
「ああ、問題ねえな」
「ふむ。 ではいいでしょう。 それに私としても、辺境を救ったという方をただ怪しいというだけで拘束するのは良心が痛みますからね」
場所は移り、ファル守護騎士団本部。
それなりの置き差を誇るその建物の取調室には、セフィリアとなぜか取り調べを担当することになったというファル守護騎士団副団長、そしてゴスペルがおり、そして現在、ゴスペルがその副団長に対してセフィリアが安全な人物であることを説明しているところであった。
「そもそもこの旅人‥‥‥‥セフィリアさんだったか。 が、力に物を言わせてやりたい放題するような奴なら、セフィリアさんを連行してきた騎士団は塵も残ってなかっただろうよ。 それはあんたも同意見なんだろ?」
「あくまで”任意同行”ですよ、ゴスペル殿。 しかし、その質問についてはその通りと答えておきましょう」
副団長はそこで今まで走らせていたペン止めると、セフィリアとゴスペルに対して笑みを向けた。
左目にモノクルをかけ、執事服に近いそれで身を包んだ壮年の副騎士団長は、その見た目通りの紳士的な言葉をもって歓迎の意を称する。
「では改めて。 ようこそファルの街へ、セフィリア様。 私は貴女の滞在を、心より歓迎いたしますよ」
それに対し、セフィリアも笑顔で答え、どうやら面倒事はさけられたようだと安堵したのだった。
「お疲れ様です、副団長」
「ああ、ガッシャー君か」
セフィリアとゴスペルが去ったのちの取調室に、入れ替わるようにやってきたのはセフィリアをこの場へと連れてきたガッシャーであった。
彼は現在甲冑を脱いるのだが、焼けた肌に強面の彼の印象は、脱ぐ前と大して変わっていないようにも思え、副団長は思わず苦笑いをこぼす。
副団長はガッシャーに対面の席をすすめ、座ったのを確認すると口を開いた。
「彼女‥‥‥‥ セフィリアさんのことですが‥‥‥‥‥」
「はっ」
「厳命する。 彼女が何か問題を起こさぬ限り、決してこちらから刺激することはさけよ」
「そ、それは、しかし」
「いいですか、あなたにはまだわからないかもしれませんが。 前線から下がるまで騎士として数多の戦場を体験した私には、同じく傭兵として戦ってきたゴスペル殿だからわかる。 彼女は文字通り”次元が違います”」
そう語る副団長の眉間には、深いしわが刻まれていた。
ガッシャーはおそらく自分が逆立ちしてもかなわないであろう副団長・シュバルツのその言葉に戦慄する。
そして同時に、自分がどれだけ危ない綱渡りをしたのかを知り、今更になって冷や汗を浮かべていた。
「本来ならば、怪しい人物ということで監視でもつけるべきなのでしょうが‥‥‥‥ 彼女に関して言うならそれは下策です。 むしろ不埒な者が彼女の気を害しないかを気にするべきでしょうね」
そういって、シュバルツは疲れたような苦笑いを浮かべたのだった。
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