街へ向かう道中で
増えていくPVを励みに、これからも頑張っていきます。
作品をより良いものにするためにも、評価感想、よろしくお願いします。
※2018/2/2に改訂(イアの目の色についての表記を追加)
時間で表せば半刻(12時)を過ぎた頃。
”彼女”、改め”セフィリア”は、辺境へとやってきた騎士の一行との話を穏便に済ませ、依頼がすんだことを伝えにゴスペルのもとへと向かう‥‥‥‥
ことは当然ながらできず。
そもそも名前を聞いた途端突然悩みはじめ、しばらくたってから思い出したかのように言われても怪しさしかない。
どう転がっても好印象を与えないのは明白であった。
とはいえ、今回部隊長としてやってきていたガッシャーはセフィリアの処遇について大いに頭を悩ませた。
なにせ辺境の住民の者たちの話によるなら、セフィリアは辺境を救ったいわば救世主である。
そんな人物を怪しいとはいえ、拘束したとあってはあとで上の者から何といわれるか分かったものではない。
現場監督者の判断はそれだけ重要な物なのだ。
しかし連れて行かなかったらいかなかったで責任を問われるのもあり得ない話ではない。
それこそガッシャーがセフィリアに言った言葉そのままを‥‥‥
そして悩みに悩んだ末、出した結論は”任意同行”であった。
とはいえ、実際はセフィリアを大勢の兵士で囲み、監視しながら連れて行くという、どう見ても”任意同行”には見えないありさまだったが。
そしてその決定を聞いたセフィリアは内心で首をかしげていた。
ひょっとしてセフィリアという名前はおかしかったのだろうか――――――?と。
そして騎士団に連れられているのはセフィリアだけでなく、何人かの辺境の村人たちも一緒であった。
あの場所への愛着があると残る者がさほどだったが、今回の一件でついにあの場所を離れようと決めたものも少なからずいたのだ。
そしてその中にはセフィリアとよく話していた、あの少女の姿もあった。
今はセフィリアが任意同行という名のもと兵士たちによって監視されているので離れているが、実は少女だけは他の住民とは違い、セフィリアについて旅をするために辺境を離れたのである。
少女は辺境での両親との会話を思い出す。
□□□
『イア』
『何?お父さん』
真面目な顔をして名前を呼んだ父に少女、イアは居住まいを正す。
父は元より真面目な人だが、自分に何かを話すときにここまで真剣な様子になったことはないので知らずのうちに手を少し硬く握っていた。
『お前はここを離れて、ファルの街に行きなさい』
『え?』
突然のその言葉に、イアは困惑を隠せなかった。しかもその言い方ではまるで‥‥‥
『私だけで行くの‥‥?』
イアの不安そうな表情に、父は優しく微笑みながら首を横に振った。
『大丈夫。 母さんがセフィリアさんにお願いしてくれたからね。 イアを共に連れて行ってやってほしいと』
『え!?』
イアが驚いて母の姿を探せば、ちょうど話が終わったのかセフィリアのもとを離れてこちらへとやってきているところだった。
『でもどうして急に?』
その言葉に父は少し寂しそうにしながら答えた。
『お前はもう一人立ちしないといけない年だろう?』
それは事実だ。
この世界において16才はもう一人立ちしてもおかしくない年齢だ。
早ければ14才で奉公に出る者もいる。
『父さんたちはさっきも言ったようにこの場所に愛着があるからな。 ここから離れる気はない。 けれどセフィリアさんも言っていたように、ここは危険な場所だ。 それは間違いないだろう。 だから随分と前から母さんと話をしていたんだよ。 いつかお前にはこの場所から離れて、どこかもっと安全な場所で過ごしてもらおうとね』
それに、と父はいたずらっぽく笑って言った。
『それにお前も常々言っていたじゃないか。 いつかここをでて世界を見て回りたい、とね』
そこまで話して父はイアの目をじっと見据えた。それは決意を訪ねる、嘘を許さない強いまなざしだ。
『お前は、どうしたい?』
それに対し、イアは臆することなく答える。
今回の一件で、世界に潜む恐ろしい存在のことを知り、恐怖したことは間違いない。
だが今、イアという少女の胸の内は、セフィリアのような人物もいる、辺境の外の広い世界を見てみたいという興味の方が勝っていた。
『私は、セフィリアさんについていきたい』
だから少女はそう答え、セフィリアを追ってファルの街へと向かう一団に加わったのだった。
□□□
ところで、騎士団一行は馬に乗ってやってきたのだが、辺境の人々の分の馬まで引っ張って来たわけではない。
その為移動速度は歩く速度と大差ないのだが、それに加えて、休憩をとる時間も辺境の人々に合わせて早めにしなければならないわけで。
行きではもっと長い距離を進んでからだったが、ガッシャーは早めに兵士たちに野営の準備を始めるよう指示を出す。
『今日はここで休息をとる。各自野営の準備をせよ!!』
『『『はっ!!』』』
兵士たちの威勢のいい声が、暗くなり始めた空の下に響いた。
野営の準備を始めた兵士たちを見ながら、ガッシャーは今後の予定を頭の中で組み立てる。
住民たちを連れて戻ることは何も予想していなかったわけではない。
だが想像もしていなかったのは監視する必要がある人物が1人いたことだ。
ガッシャーはなんでもない風を装ってセフィリアの方を見やる。
見ればセフィリアは己が最大限の警戒を向けられているというのに、まるで気にしない様子で住民たちの野営の準備を手伝っていた。
兵士たちが野営を準備するのはあくまで自分たちの分であり、住民たちの分はない。
そもそも住民からすれば、野営の時に兵士の護衛があるというだけでもありがたい話なのだ。本来なら自分の身は自分で守らなければならないのだから。
だが辺境で聞いた話が本当ならそもそも護衛すら必要なかったかもしれないと、ガッシャーは自身も準備を始めながら思ったのだった。
住民たちの手伝いを済ませたセフィリアは、今度は自身の野営の準備を始めた。
その隣にはセフィリアの旅に同行することになった少女、イアもいる。
セフィリアのその人外な体に食事睡眠といったものは必要ないかのように思えるが、普通に食事をとらなければ空腹を覚えるし、睡眠をとらなければ眠気に襲われるのだ。
なぜなのか、と言われれば、セフィリアがこの体を性能はともかく、基本的な肉体構造はできる限り人に近いものにしようとした結果である。
その為戦闘能力や身体能力こそ人外としか言いようがないが、人としてあたりまえの食事睡眠をきちんととらなければ死ぬ、ことはないだろうが、苦しむ体になったのである。
なのでセフィリアも、旅をしてきたのだから当然野営の仕方は心得ている‥‥‥‥‥のだが。
「いいかイア。野営について覚えることや気を付けないといけないことだがな‥‥‥‥」
「はい‥‥‥」
まさに一つも聞き逃さないといった感じの気合が入った様子のイア。
しかし残念ながら、普通ではないセフィリアはこういった常識の説明には致命的に向いていなかったのだ。
「まあ色々あるが私といるときには基本気にしなくていいぞ」
「‥‥‥‥‥え?」
きょとんとするイアをそのままにして、セフィリアはいつもの野営準備を始める。
1、まず何もない空間から”魔法”の収納より野営の基本的な道具、寝床やらをとりだして設置すると
2、その辺から拾ってきた適当な枝の水分を”魔法”で抜いてからっからの枯れ枝にして、いい感じに集め
3、”魔法”で火をつければ
開始から5分足らず。
稀有な才能、魔法の有効活用が、そこにはあった。
あっという間にすんでしまった野営準備に、ひきつった笑みを浮かべて硬直するイア。
そのイアに対してセフィリアは誇らしげにない胸を張って言った。
「な?気にしなくてもいいだろ?」
イアは思った。
今度から基礎的なことを教えてもらう時は、セフィリアさん以外にしようと。
□□□
「なあイア」
「何?セフィリアさん」
すっかり暗くなった空の下、セフィリアがその辺で捕まえてきた野兎の肉の串を刺した焚火を挟んで2人は座っていた。
「私は旅をするにあたって特に目的はないんだ。 強いて言うならいろいろな場所を見て回りたいというぐらい‥‥‥‥ 有名になりたいとも思っていなければ、大金を稼いで裕福になりたいとも考えてない」
今のところ興味もないしな。
そうつぶやいたセフィリアの顔を、イアはじっと見つめる。
その視線にセフィリアはふっと視線を合わせると、そんなに固くならなくてもいいんだと言って笑う。
そしてまた口を開いた。
「だから‥‥‥‥イアの意見が聞きたくてな。 これからは一緒に旅をする”仲間”なんだし‥‥‥って、どうした?」
「あ~、えっと、ちょっと”仲間”って言葉がくすぐったくって‥‥‥‥エヘヘ」
「‥‥‥‥かわいいやつだな」
「か、かわっ!? ‥‥‥‥コホン!! で、えっと、そうそう、旅の目的についてですよね!?」
「そうだ」
ひょっとするとイアってかなりちょろいんじゃなかろうか‥‥‥‥
そんなことを考えながらも、セフィリアはイアが答えるのを待つ。
「私は‥‥‥‥強くなりたいです。 そして、この世界の何物からであろうと、大切なものを守れるようになりたい」
そう答えるイアのそのすんだ碧眼には、確固たる決意の光が宿っていた。
そしてセフィリアは、なぜイアがそんな願いを口にしたのかをすぐに察する。
「‥‥故郷のことか」
「はい。 私は、あの魔物相手に何もできなかったです。 今回はセフィリアさんが助けに来てくれたから死なずに済んだけれど、もし次そんなことがあったら、無事ですむかは分からないです。 少なくとも、今のままじゃ」
セフィリアは無言でそれに耳を傾ける。
焚火がパチッと音を立ててはじけた。
「だから私は強くなりたい。 ありきたりな願いかもしれませんけど、でも、私思うんです。 ありきたりってことは、それだけ多くの人が願う望みってこと。 それってつまり、この世界で、強さっていうのはそれだけ重要な事なんだって、それの証明なんじゃないかって!」
イアの言葉はどこか熱っぽく、それでいて顔をあげて見てみれば、表情は出会ってから見た表情の中で最も力強い、凛々しい表情だった。
セフィリアは、その願いが心からの願いであると確信し、朗らかに笑う。
そしてちょうどいい具合に焼きあがった串を1本抜くと、それをイアに差し出した。
イアがそれを受けとったのを確認してから、自身も串を1本手に取り、口を開いた。
「わかった。 じゃあ私はお前がこの世界の誰であろうと負けない、そんな強さをお前に約束しよう。 それが私たちの旅の目的だ」
この日定まった旅の目的、二人の約束は、果たして成就されるのか。それは今はまだわからない。
けれどイアには、それが約束された成功である、そう思えたのだった。




