走馬燈
第零話。
空は赤く、黒く染まっている。
それを飾るかの様に星の光が瞬いている光景は神々しく。
だがその下に広がるのは、まさに地獄。
世界の終わりの体現であった。
グオアアアアアアアアアアァァァァァァァ―――――――――――――――!!
咆えるのは大地そのもの。
星に浮かぶ大陸そのものに4本の足が生え、世界を蹂躙しているのだ。
大地を背負う龍の咆哮で、海の水は吹き飛ばされて津波となり、背にいくつも並ぶ火山からとめどなく流れ出る溶岩を固めて新たな大地が造られるも、ただの1歩で数秒と持たず破壊される。
まさに壊神。
そして壊神の暴虐に抗うは、その星を覆わんとするほどの巨体に比べれば豆粒ほどの大きさしかない1人の女性。
「ああああァァァァァァァ―――――――――――――――!!」
しかしその女性は人型というだけで、その姿は異形と化していた。
両腕はまるで竜のように鋭い爪が生えて、黒い鱗に覆われ。
身に纏う鎧は装備しているのではなく、同化していて体の一部になっていた。
衣服など着てはおらず、むき出しになった肌には、赤い線がつま先から頬まで走っている。
背には2対の白い大翼があり、それが彼女の空中戦を可能としていた。
だが異形の彼女が、最早満身創痍であるのは誰の目から見ても明らかであった。
元は真っ白であっただろう長髪と翼は、返り血だけではない自身の血で赤く汚れ、片腕は力なく垂れていたし、腹には今尚血が滴る大きな傷跡があった。
だがそれでも、まるで本能のように、彼女は獣じみた叫び声をあげながら暴虐の獣に突貫する。
そう。
最早彼女に、おおよそ心と呼べるものは残っていなかったのだ。
あるのはただ、世界を侵す力を秘めた敵を駆逐するという本能のみ。
「ぐああ、ああああァァああ!!」
異形の彼女が、手に握っていた剣を振るう。
そうすれば壊神の放った熱線さえも両断するであろう斬撃がはなたれ、暴虐の獣の巨体には確かに傷が刻まれるが‥‥‥‥‥‥それでも致命傷には至らない。
ゴアアアアアアアアアアァァァ―――――――――――――――!!
傷を負い、苛立ったのか。壊神は間髪開けずに熱線を彼女へと放つ。
斬りかかり、至近距離まで近づいた彼女にはそれを避けるすべはなかった。
いや、そもそもその頭からは回避するという選択肢すら消えていたのだろう。
熱線が異形に直撃する。
「―――――――――――――――――――――――!!」
彼女は声にならない叫びをあげた。
だがそれでも。
「グ、ゥぅう、うああァァァァァァァ!!!」
巻き上がった黒煙を吹き飛ばして、血濡れた彼女が姿を現す。
彼女は斬りかかるのだ。
どれだけその身がボロボロになろうとも。
壊神と異形は戦い続ける。
どちらかが滅ぶまで、この戦いは終わることはない。
爆風が雲を吹き飛ばす。
轟音が大気を震わせる。
熱が世界を焼き尽くす。
何度も。何度も。
それがもう数日にわたって続けられた時。
「セフィリアさんっ!!」
誰かが、異形の名を呼んだ声が響いたのを最後に―――――――――――――――
「イ、あ?」
異形は壊神の熱線に呑まれて消える。
その頭の中では今までの道程が、まるで走馬燈のように流れては消えていた。




