精霊の心-7-
怒涛の更新月間宣言をしてから12日経過しました。いやー早いですねー(7月の更新一回目)
7月になるともうすっかり夏ですね。この精霊の心編は入学式の季節という事で4月のどこかというわけなのですが、学生の皆さんは一か月もしないうちにもう夏休みですよね。季節がずれてしまって申し訳ないです……。
出来れば夏が終わる前に季節を夏に移せたらいいなーと思っています!はい、無理ですね!!
*正義を為す機械
「……」
彼はただ立っていた。
周囲は霧が濃く、時折竹林に居ることを忘れそうになる。
足下にある精霊の死体を、虚ろな目で眺めている。右手は血に濡れ、左手で体に付いた血を拭う。
「悪は全て消す。そういう命令が俺には下っている」
彼は自分に言い聞かせるように強く言葉を吐き続ける。
「正義は為されたはずだ。それなのに……なんだその目はぁあああああ!!」
彼は近くに潜んでいた精霊の残党の首を素手で摘んでいく。分離した首の表情は、恐怖と憎しみで歪んでいた。
彼の頭には疑問しかなかった。殺した精霊は人間にいたずらばかりする悪い精霊だ。何もしていない精霊もこの場にいるが、当然殺してなどいない。むしろいたずらをして問題を起こすたびに嫌な顔をし、迷惑がっていたはずだ。なのに何故だ。何故俺に敵意を向ける?
心をインプットされ、人間へと近づいた機械。正しいことをしたはず。
人間と肉体は違えど心を持つ彼は、ある意味で人間よりも人間らしいテーマにぶち当たってしまった。
正義とはなにか?
正義を為すということが、全て正しいという訳では無い。それは人間に限らず知性ある種なら、言葉にせずとも暗に分かっていたことだろう。
矛盾した答えに彼はまだ、気づけず孤独を深めていく。
悲劇が……始まる。
*入学式
「理事長の挨拶、理事長よろしくお願いします」
司会進行の教員がそう言うと、入学式を行う体育館はざわめく。
柚斗達三人は、なんとか入学式に間に合って参加している。柚斗と結那は良いのだが、胡桃は体育館内の突然のざわめき少し驚いた様子でキョロキョロと周りと見ている。
「まあ無理もないよなー、新理事長があれだし」
柚斗は結那に視線を送ると、結那も頷く。
「そうだね、前理事長のお孫さんだったっけ?」
そのお孫さんが理事長になるというだけでは別に生徒の関心を集めることは無かっただろう。問題は別にあった。
新理事長が舞台袖から、ステージの真ん中に出てくる。同時に体育館は静まり返った。
「初めましてではない生徒もいると思いますので。皆さん、おはようございます」
「仙王学園中等部3年、仙王月詠です」
そう、新理事長は仙王学園の生徒で、しかも中等部だったのだ。
「おお……」
体育館の至る所から驚嘆の声のようなものが聞こえる。それもそのはず、仙王月詠は学園内の有名人の一人。人形のように整った顔立ちとうっすら白い肌、更に海外のおとぎ話に登場する姫君のような真っ白の長髪を後ろで束ねてポニーテールを作っているという姿に中等部の制服だ。
一部からは、「学生のコスプレをしたお姫様」なんて呼ばれていたりする。もちろん、理事長になるのは血筋もあるだろうが、仙王月詠は才能にも恵まれていた。
一般的によく知られていて、王道の魔法でもある属性魔法を中等部に進学した時には並のプロを超えるレベルで使いこなし、クエストと呼ばれる仙王学園の、主に生徒に対して出る特殊な仕事を100以上もクリアしている。噂では使い手がほとんどいない古代魔法の一つを使いこなしているなんて話もあるくらいだ。
「私が新理事長としてこれから皆さんの学園生活をサポートしていくと同時に、私自身まだ学生の身ですので、実際に皆さんと共に学ばせていただきます。これからも今まで通り、一生徒として接していただけると幸いです」
月詠は一礼し、舞台袖に戻って行った。今まで理事長の話を真面目に聞いたことの無かっただろう生徒達も、真剣な顔で話を聞いていたようで、拍手の音で体育館は大いに賑わった。
しばらくして、体育館は落ち着きを取り戻したところで、司会進行の教員は次へと進めていった。
結那と胡桃は先程の理事長の美しさに感動したのか、目を輝かせていた。
「中3で理事長って……凄い子もいるのね……」
「わたし、あんなにえらくなれないよ……」
「胡桃は別にああならなくてもいいんだよー!」
そう言い、結那は胡桃を抱きしめる。どうやら相当胡桃に入れ込んでいる様だ。
「ねえ、柚斗もそう思うよね?」
しかし隣に座っている柚斗から返事はない。柚斗の方を見てみると、腕を組み頭は下を向いている。寝落ちしているようだ。
(まさかさっきのスピーチも聞いてなかったの!?)
ちょっとムッとした結那は、柚斗の太ももを強めに殴る。
「いってぇ!?」
思わず叫んだ柚斗は、当然周りから無数の視線を浴びる。少し顔を赤くして小声で結那に怒る。
「お前何すんだよ!めっちゃ目立っちゃったじゃん!」
「ふーん、ばーかばーか」
結那の態度に柚斗は思わずドキッとしてしまう。
「まあ、可愛いから許す」
結那は顔を真っ赤にして、思わず柚斗を怒鳴りつける。
「き、急に何言い出すのよ!!」
「あっ」と思った時には既に遅く、生徒達の視線は結那に移っていた。羞恥の感情に入学式が終わるまで俯く結那と二度寝を始める柚斗、その様子を見て苦笑いをしてしまう胡桃だった。
*新クラス
無事?入学式が終わり、生徒達は各々1年間お世話になる教室へと向かっていく。当然、柚斗達も向かうのだが……。
「うーん、なんか新クラスって感じしないな」
そう感じているのは柚斗だけではないだろう。何故なら数名程度しか新入生がいない教室は、あまりにも緊張感が無かった。
「席に座れー、ホームルーム始めるぞ」
ドアを開ける音と共に柚斗達のクラスを担任する岡が入ってきた。岡の手には、今朝柚斗を撃破した名簿が握られている。
教室内にいた生徒達は全員自分の席に着いた。胡桃は席がないのでとりあえず結那の膝の上に座らせている。
結那の席は1番後ろの窓際だ。今は窓を開けていて、教室から見える綺麗な桜と、結那と胡桃の黒髪を揺らす心地良い風が入ってくる。柚斗の席は結那の隣で、そこから観る結那と胡桃は中々に映えていた。
(ちょっと、なに見てるのよー!)
柚斗がじっと見ていたのに気付いた結那は小声で怒る。少しほっぺを赤らめて、睨んでいた。柚斗はすぐに笑みを浮かべながら小声で謝る。
(ごめんごめん、つい可愛くてな?)
結那は更にほっぺを赤く染め、膨らまし、そしてそっぽを向いてしまった。
(おっと、やり過ぎちゃったか。まあこういう所が可愛いんだがなー)
こんなやり取りをしている二人だが、絶賛出席確認中なわけで、クラスメイト全員に見えていた。つまり岡もずっとその一部始終を見ているのだ。
「おいそこのバカップル、娘を膝に乗せながら教室をピンク色に染めるなー」
これには柚斗も顔を赤くしてしまう。
なんてオッサンだあいつ!
とかなんとか考えながら柚斗は上を向いて顔を隠す。結那の膝の上にいた胡桃は岡の注意の意味が分かっていないようだ。キョトンとしている。
分からなくていい、と教室一同で思い、純粋なままであってくれと願う岡の生徒達であった、が。出席の確認もそっちのけで、遂に誰も躊躇して突っ込まなかった話に手を出し始めた。
「そういえばその子、神祠君と暁さんの子供なの!?」
始まった。みんな久しぶりに会うとどこかよそよそしくなる勢いでなんとなくごまかしていけるかなーとか柚斗は考えていたが、流石に無理があったようだ。というより無理しかない。むしろよくここまで誰も触れなかったと言った方が正しいだろう。
そして、
「なに! お前らもうそんなところまで階段上っちゃったか~」
こういうおふざけは一度火が付くと中々鎮火しないのが相場だ。
「名前はなんだよー」
「二人とも、お幸せに!」
「あっっっっっっま」
胡桃の見た目と柚斗と結那の年齢を考えれば娘はあり得ないことくらい分かるのだが……いや、これはわざとやっているからそんなことはどうでもいいのだろう。
「ほーら、騒ぐなー。毎年恒例の自己紹介してからちょろっと魔法についての説明残ってんだぞー」
言い出しっぺのはずなのだが、岡の一声でクラスは落ち着きを取り戻し、席から身を乗り出していたクラスメイトなども、すぐに座り直し落ち着いた。柚斗的に、岡に対する生徒からの信頼が厚い何よりの証拠だと思っている。ちなみに、初日のホームルームでする事は普通の学校と大差なく、自己紹介をしてクラスに早く馴染んでいくというものだが、その後の魔法の説明はやはり仙王学園特有だろう。
自己紹介は、座席の角同士でジャンケンをして負けた結那から始まり、間に何人か新しく入った生徒を挟み、最後は岡の配慮により、胡桃で終わりとなった。
「よし、じゃあ次に魔法についての説明だ。ちゃんと聞かないと後で困るから聞いとけよー」
岡は軽く咳払いをして、説明を始めた。
「まず魔法はどうやって生まれたかだ。実は細かい事は今も解明されてない。今明確に教えられる事は40年前、魔法が公になったのと同時期に、世界が繋がれたってことだ」
ここで新しく入った生徒のうちの一人が挙手をする。
「ん、どうした?」
岡に聞かれると、真面目そうなメガネの女子生徒が疑問を投げる。
「その世界が繋がれた、というのはどういう事でしょうか?」
やっぱりそれか、と柚斗は思う。これは仙王学園に入りたてでまず出る質問ランキング堂々の第一位だ。中等部の時から何度も聞いたやり取りだった。そして岡も毎回同じように返している。
「そのままの意味だよ。もう少し細かく言うと、何者か、もしくは何かによって大きな力が働いて繋がったんだ。一説には魔法が公になったのも世界が繋がれたのとなにか関係があるんじゃないかとか言われてはいるが……それも魔法の起源同様詳しい事は未だに謎ってわけだ」
「……なるほど、ありがとうございます」
期待した答えではなかったのだろう、どこか腑に落ちない表情で礼を言う女子生徒。ここまでももはやテンプレだ。またすぐに岡は続きを話し始める。
「そんで世界が繋がれたことによって現在に至るまで色々なことがあったんだ。特に大きいことは、世界間の移動が出来るようになったことだ」
岡は白いチョークを取り出し、黒板に図を書き始める。完成した図は、大きな円にたくさんの線が伸びていて、その先に小さい円がたくさん描かれていた。
「簡単な図にするとこんな感じだ。大きい円が俺たちの世界だとして、ひとつの世界から複数の世界に繋がっている。たまに他の世界を経由しなければならない時もあるにはあるが……大体行ける」
岡は丸を繋ぐ線に黄色いチョークで色を付けて説明する。
「この世界の境界線の事を世境と言うんだ。そして世境を行き来して隣の国に行く感覚で世界を移動出来るようになったわけよ」
岡は黄色いチョークを置き、教卓に両手をつく。
「だがこれも万能じゃない。一つ問題があったんだ」
ここで岡が柚斗に視線を送る。質問しろという合図だ。毎回この話をする度に柚斗は同じ質問をする羽目になる。
「その問題っていうのは異の門が関係してるのか?」
あくまで岡に対してタメ口の柚斗。このタメ口も今に始まったことではないので、最近は岡もあまり気にしなくなっていた。
「そうだ、異の門が問題を解決してくれているってわけだ。世境は本来、世界と世界がぶつかったと思われる場所にしか存在しない。だが異の門はそれを一つに束ね、ある程度自由に管理することが可能となったすごい門なんだよ」
新入生達は興味深そうに聞いているが、中等部からの進学組も異の門の話となると聞き入ってしまう。異の門がやっていることはそれくらいすごい事なんだろう。異の門の話が終わり、まじめな雰囲気から一転して、これから学ぶ魔術と魔法にはどんなものがあるか、なんて話が始まった。ここでも毎回出る質問がある。それは魔術と魔法の違いについてだ。実は意外と違いはわかりやすいもので、簡単に言えば魔術は学ぶもので魔法は使うものってだけなので、説明はすぐに終わった。
そんなこんなでクラスメイト達は早くも打ち解け、和気あいあいとしたホームルームも終わり、下校の時間となった。今日は授業などもなく、早めの帰宅となりそうだったので、柚斗と結那は胡桃に学園を案内する事にした。
精霊の心編も7話まで来て、なにやら不穏な雰囲気が漂い始めてますね。
今後はシリアスな展開も予定されているので、お楽しみ?にー!
話は変わって少し前の事なんですが、
「岡の戦闘シーンが欲しい!」
という要望をいただきました。いいですよね岡先生。なんだか強そうな雰囲気がプンプンする感じがしてたまらんです!
現に作中では柚斗に教員筆頭殿なんてどこかのパーリーな感じに茶化されていましたが、教員でもトップクラスの実力は間違いなしですね!!
次回の更新日は……近いうちにしますよ(笑)
*誤字・脱字等報告していただけると大変助かります。