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皇子たちの饗宴 番外編  作者: 碧檎
「闇の眼 光の手」番外編
6/32

【第3部番外】小さな悩みごと

第3部 第2章 の番外編。

シリウスのちょっとした悩み。

「クリスティナ、レダ、リディア、ナディア……」

「なんです、女の子ばかりじゃないですか。あたらしい『妃候補』ですか」

 後ろからかかった冷たい声にびくりとする。

 予想通り白髪まじりの茶色い髪が見えて、げんなりした。そんなわけ、無いだろう。誤解を招くような事を言うなよ。

「仕事はどうされたのです」

「休憩だ」

 思わず机の上の紙を握りしめてしまい、慌てて皺を伸ばす。

 せっかく『候補』を上げているのに、これを無くしてしまえば最初からになってしまう。


「……意味はあるんでしょうね」

 ちらりと紙に目線が行き、僕は思わずそれを机の引き出しに仕舞い込む。

「な、なんの?」

「それ、名前でしょう? 子の」

 イェッドに隠し事は出来ない。僕は諦めて、隠した紙を机の上に再度放り出す。そこにずらりと並んだ名を眺めて彼は呆れたような声を出した。

「皇子かもしれないのになぜ皇女の名ばかりなのです?」

 僕は渋々答える。

「ただの願望」

 スピカに似た女の子だったら、どれだけ可愛いだろうな。そんな想像しかこの頃は出て来なかった。なぜだか皇子だという感じがしなかったのだ。

 そう言うとイェッドは鼻で笑う。

「皇女でしたら、お嫁に行く可能性もあると言うのに、気楽なものですね」

「…………」

 ヨメ。その響きに身が引き締まる。

「ご自分がスピカ様にされたことと同じ事をされるかもしれないのですよ?」

「…………」

 僕が、スピカにしたことを誰か別の男が────

 あ、だめだ。はっきり言って最悪だ。許せない。

「勝手なものですね。まぁ、男なんてそんなものですが。今になれば……レグルスのあの溺愛ぶりも少しは分かるでしょう?」

 僕は頷く。そして心の底から感謝する。レグルス、ありがとう。

「とにかく、皇子の名前も考えておいてくださいね。確率は半分なのですから。それから────」

 イェッドの顔が少し曇る。僕が首を傾げると、彼は少し頭を振り、その顔に薄い笑みを浮かべる。

「いえ、何でもありません。考えすぎました。……あなたの名前の由来、ご自分で知っていらっしゃいますか?」

「……ああ」

 なんだか彼の態度が気になったけれど、僕はいつもの事かと深く考えなかった。そして由来について昔話をする。母が教えてくれた、父の想い。僕の核となる、その名の意味。……意味、か。

「子供の名は、両親が贈る最初のプレゼントですよ」

 その言葉に頷く。

 そうだ、意味を考えないと。

 僕は机の上の名のリストを再び引き出しに仕舞うと、辞書を取り出してゆっくりめくる。

 僕の名は、──真昼の星の名。空で一番強く輝く星の名だった。それならば、僕の子は……

 ある一頁に目が留まる。

「ああ、これなら……」

 ──どちらが産まれてもぴったりだ。

「真名ですか」

 顔を上げる僕にイェッドがにやりと笑う。

「では、まだ聞くわけにはいきませんね」

 意外な言葉に眉を上げると、彼は何も言わずに部屋を去った。

 真名か。僕の名を知るものは、父以外では、スピカとレグルスと叔母だけ。真に忠誠を誓ってくれた臣下と、肉親と……たった一人の妃だけ。それは、歴代の皇帝では少な過ぎる数だった。同時に味方の少なさでもある。

 気が付いたそのことが僕の背筋を寒くした。──もし一つでも欠けたなら、僕は、この宮でやっていけるのだろうか。

 イェッドが忠誠を誓ってくれたなら……一瞬そんな考えがよぎる。でも何かが引っかかっていた。何より、僕は彼の事をほとんど知らないのだ。

 この時に考えた事を後々深く考え直す事が来るなどとは夢にも思わず、僕は先ほど思いついた名を新しく出した綺麗な紙に綴る。


  ルキアシア

  ルキアノス


 願いを込めながら、封をする。

 ──その生に光があたるように。そして、僕たちの、光となるように、と。

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