表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
皇子たちの饗宴 番外編  作者: 碧檎
「闇の眼 光の手」番外編
5/32

【第3部番外】幸せなひととき

第3部 第2章 変化と自覚(2)のあとの場面。

本編に入れたかったけれど、少々くどいような気がしたので外しました。最終的には本編に組み込むかもしれません。

幸せなひととき、最後の場面。


「一応……我慢するつもりで来たんだけど。これ、ありがたく受け取ってもいいのかな」

 やがてシリウスがそう呟く。そして確認するようにあたしの瞳を覗き込んだ。



 あたしは、頷こうとしてふと思い出す。

「あ、……あたし、でも」

「どうした? 無理する事無いよ?」

「…………ふ、太っちゃって」

 頬が熱くなる。思わず俯くと、頬にその冷たい指先が触れる。顎を持ち上げられてまともにその瞳を覗き込んでしまい、余計に体が熱くなる。

「そんなこと、スピカでも気にするんだ」

「き、気にするわよ!」

 シリウスったら……あたしの事なんだと思ってるんだろう、本当に。普通に外見の事くらい……気にするわよ。

「今までが痩せ過ぎだよ。丁度いい。抱き心地が良くなった」

 慰めてるつもりなのか、なんだかオジさんのようなことを言うシリウスに、あたしは言い訳するように言う。

「…………産んだら、ちゃんと痩せるから」

「え、勿体ない」

 どうやら、さっきの発言、本気みたいだった。その言葉に少し前の事件を思い出してしまう。

「シリウスは………………大きいほうが好きなの?」

「え?」

 あたしはいつの間にかお腹では無く胸を触っているその手を掴む。

「前、比べたでしょ、あの『エリダヌス』と」

「!!」

 絶句して表情を固まらせるシリウスを見て、「図星だわ」と思う。

「……産まれたらしばらくは赤ちゃんのものなんだからね」

 悔しくなってそう意地悪を言うとシリウスは慌てた。

「だめだ! ──そうだ、頼んでおかないとって思ってたんだった」

 突然シリウスはかがみ込んであたしのお腹に唇をあてると、「……スピカを独り占めしないでくれよ」と小声でお願いしだした。

「ちょっと……最初に言う事がそれなの?」

 さすがに呆れてしまって、大きく息をつく。彼は気にせず愛おしそうにお腹を撫でながら言う。

「だって重要な事だし……ねぇ、スピカ」

 顔を上げたシリウスは一転して深刻そうな顔をしていた。

「赤ちゃんが産まれても、僕の事忘れないでくれよ」

 そのあまりの真剣さに圧される。可笑しいんだけど笑えない。

「何言ってるの。忘れるわけないじゃない」

「イェッドが子供が産まれたら、夫は二の次だって言うから。……僕は……君の一番でいたいんだ。あ、でももちろん子供も大事だよ。比べるのも変だって思うけど……比べちゃダメだって思うけどさ……やっぱり僕は……君が一番だから。……ごめん、子供みたいだよね」

 そう言って膝の上に顔を伏せるシリウスの頭をあたしはそっと撫でる。本当に子供みたい。でも……あたしだけに見せるその無防備な様子が愛しくてたまらなかった。

「あなたが一番よ。シリウス、あなたの子供だから、こんなに愛しいの」

 だからいくら怖くても大事にしようと思う。一緒に戦おうって思う。シリウスを守って来たように、この子も全力で守ろうって思える。


 しばらく優しい沈黙が流れた後、シリウスが囁くように言った。

「どっちに似てるかな。……スピカに似た女の子がいいな」

「あたしは、あなたに似た男の子がいいわ……昔を思い出せるし」

 出来る事なら女の子は……産まない方がいいのかもしれない。女の子だったらあたしのこの力を継いでしまうから。

「僕の力は……継がないで欲しい」

 そうね。あなたの力も……厄介なんだものね。うまく力が打ち消し合って……普通の子が産まれるといい。互いのいいところだけ受け継いで、幸せになって欲しかった。


 そんな想いを込めて彼の手の上からお腹を撫でると、その手はあっさりと彼の手に攫われ、いつの間にかあたしは腕の中にとらわれていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ